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政策解説

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2026.09.11

【令和9年度予算概算要求の紹介】経済産業省・中小企業庁編 現状維持から成長・省力化へ! 変化に挑む中小企業を集中支援

政府の令和9年度予算概算要求が出そろい、一般会計の要求総額は約143.1兆円、中小企業庁を含む経済産業省関係の概算要求額は7兆7,859億円となりました。
要求内容を正確に評価するためには、令和9年度予算編成ルールの構造的な変更について理解することが必要です。本連載では、主要省庁の概算要求における施策を整理し、主に中小企業経営に及ぶ意味合いを読み解きます。
第1回は、中小企業政策を担う経済産業省・中小企業庁の公表資料に基づき、主要補助金の再編動向、関連施策、そして国のルール変更が中小企業の社内体制や経営準備にどう波及するのか解説します。

政府の令和9年度予算概算要求が出そろい、一般会計の要求総額は約143.1兆円、中小企業庁を含む経済産業省関係の概算要求額は7兆7,859億円となりました。

要求内容を正確に評価するためには、令和9年度予算編成ルールの構造的な変更について理解することが必要です。本連載では、主要省庁の概算要求における施策を整理し、主に中小企業経営に及ぶ意味合いを読み解きます。

第1回は、中小企業政策を担う経済産業省・中小企業庁の公表資料に基づき、主要補助金の再編動向、関連施策、そして国のルール変更が中小企業の社内体制や経営準備にどう波及するのか解説します。

第1章:令和9年度概算要求の構造と評価上の留意点

令和9年度概算要求を評価するにあたっては、以下の2つの予算編成ルールの変更点に留意する必要があります。

1.1 『「強く豊かな日本」投資枠』の創設と財務省査定の位置付け

令和9年度概算要求では、政府がこれまでに示してきた方針(日本成長戦略や骨太方針2026)に基づき、『「強く豊かな日本」投資枠』が適用されています。本投資枠では、事前に設定される要求上限(いわゆるシーリング)を設けないスタンスが採られています。
この結果、各省庁からの要求額は増大していますが、政府および財務省の公表資料によれば、要求上限を設けない代わりに、予算編成の過程において、その政策が真に効果的なものかどうかを厳しく精査・査定する方針が明記されています。つまり、要求段階の金額がそのまま最終的な決定額となるわけではない点に注意してください。

1.2 「補正予算依存からの脱却(当初予算主義)」の基本方針

政府は従来、当初予算の規模は抑えつつ、秋の補正予算で大規模な経済対策を実施する財政運営を進めてきました。しかし、補正予算は緊要性の高いものに限定し、恒常的な施策は当初予算で措置する方針への転換を表明しています。
令和8年度当初予算と令和7年度補正予算の合計額は約141兆円。令和9年度の一般会計概算要求額は約143.1兆円ですので、両者を比較した場合の増額幅は約2.5兆円となります。

第2章:中小企業向け主要補助金の最新動向と要件の再編

労働供給制約社会においては、人も中小企業も数より質であり、日本経済の供給力強化のため、強い中小企業を作る必要がある。現状維持ではなく、変化に挑む中小企業を徹底的に支援することで、稼ぐ力の強化と賃上げの好循環を目指す――。

国の予算や政策等に関する各種資料からは、このような考え方がにじみ出ています。
令和9年度の主要補助金も、この方針に基づき、単なる下支え型の支援から、自ら変革や成長目標(売上規模の拡大、省力化・AI投資等)を掲げて取り組む事業者を重点的に後押しする制度へと再編が進められています。
主要補助金の概要や変更点などは以下の通りです。

2.1 中小企業省力化・デジタル化・AI投資支援事業(省力化・デジタル化・AI投資補助金)

  • 令和9年度概算要求額:3,746億円(新規)
  • 施策の概要:人手不足や生産性向上等の課題を抱える中小企業・小規模事業者を対象に、省力化設備の導入(汎用製品のカタログ型導入を含む)と、AX・DX推進、AI活用、ITツールの導入等を一体的に支援する事業です。
    従来は個別に実施・要求されていた省力化設備、ITツール、AI活用などの各種支援を統合した枠組みとして位置づけられており、「新規」として計上されています。

(本記事で使用している図表の出典は、いずれも経済産業省のウェブサイト

令和9年度概算要求・税制改正要望について↗」に掲載されている資料です)

2.2 新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業

  • 令和9年度概算要求額:2,200億円(新規)
  • 施策の概要:中小企業等の革新的な製品・サービスの開発や、既存事業とは異なる新市場への進出等に係る設備投資等を支援する事業です。今回、成長志向型の中小企業を創出する観点から、将来的に売上高10億円の達成を目指す「10億」宣言スキームの導入が示されました。また申請企業の計画に対する民間金融機関の姿勢(融資・伴走等)を評価に取り入れる方向も示されました。

2.3 中小企業成長加速化支援事業(中小企業成長加速化補助金)

  • 令和9年度概算要求額:2,350億円(令和7年度補正:2,200億円)
  • 施策の概要:売上高100億円超を目指す成長志向型の中小企業を対象に、賃上げへの貢献、外需獲得、地域経済への波及効果が大きい大規模な設備投資等を支援する事業です。

2.4 小規模事業者持続的発展支援事業(小規模事業者持続化補助金)

  • 令和9年度概算要求額:447億円(令和7年度補正:390億円)
  • 施策の概要:商工会・商工会議所の経営指導員の伴走支援を受けながら、小規模事業者が自ら策定した経営計画に基づき取り組む販路開拓等を支援する事業です。概算要求では、売上高1億円を目指すなどの「成長志向の経営計画(仮称)」を宣言して取り組む事業者への重点支援体制が盛り込まれています。

2.5 中小企業活性化・事業承継総合支援事業

  • 令和9年度概算要求額:280億円(令和8年度当初:139億円、令和7年度補正:74億円)
  • 施策の概要:全国の事業承継・引継ぎ支援センター等によるマッチング支援や事業承継診断、普及啓発、M&A支援機関の登録制度といった事業承継・引継ぎ推進に関係する基盤整備を進めます。

第3章:経営環境の整備に向けた重要関連施策

経済産業省が公表している、補助金以外の重要な施策等を見てみましょう。

3.1 税制改正要望(中小企業関係)

  • 中小企業向け賃上げ促進税制の拡充等:適用要件の基準について、現行の「雇用者全体の給与等支給総額」は従業員数が減少した場合に増額とならないケースがありうるため、「従業員一人あたりの給与支給額」へ見直す要望が提出されています。また、適用期限の3年間延長(令和11年度末まで)も盛り込まれています。
  • 事業承継税制の抜本見直し(相続税・贈与税):特例措置の適用期限到来(令和9年末まで)を見据え、事業承継を契機に「稼ぐ力」強化に取り組む中小企業等を重点的に後押しする措置への抜本的見直し・強化が要望されています。
  • 中小企業軽減税率の延長等(法人税・法人住民税):資本金1億円以下の中小法人を対象に、年800万円以下の所得金額に対する法人税率を本則の19%から15%に軽減する時限措置(租税特別措置)です。中小企業の財務基盤を支えるため、政策効果を高める見直しを行った上での延長が要望されています。
  • 中小企業経営強化税制の拡充等(所得税・法人税・法人住民税・事業税):中小企業等経営強化法に基づく認定計画に沿った設備投資について、即時償却または税額控除(最大10%)を認める措置です。生産性向上投資を促すため、インセンティブ強化等の見直しが要望されています。
  • 中小企業投資促進税制の延長等(所得税・法人税・法人住民税・事業税):機械装置などの対象設備を導入した際に、特別償却(30%)または税額控除(7%)を認める措置です。更なる設備投資を促進するため、見直しを行った上での延長が要望されています。
  • 交際費課税の特例の延長(法人税・法人住民税・事業税):中小企業の販路開拓等に必要な交際費について、800万円まで全額損金算入を可能とする特例措置の適用期限延長が盛り込まれています。
  • 減価償却資産に係る取得価額基準等の見直し(所得税・法人税・個人住民税・法人住民税・事業税・固定資産税):取得時に全額損金算入できる少額減価償却資産(10万円未満)や、一括して3年間で償却が可能な一括償却資産(20万円未満)の取得価額基準額について、物価上昇を踏まえた見直しが要望されています。

3.2 価格転嫁・取引適正化

  • 中小企業取引対策事業:40億円(令和8年度当初:30億円、令和7年度補正:7.6億円)

    施策の概要:原材料価格や人件費等のコスト上昇分に関する適切な価格転嫁をはじめとする取引環境の改善に向け、中小受託取引適正化法(取適法)の厳正な執行、書面調査・立入検査の実施、相談窓口「取引かけこみ寺」の運営、毎年9月・3月の「価格交渉促進月間」の実施、および取引実態を把握する「取引Gメン」のヒアリング調査強化などが盛り込まれています。

3.3 金融・伴走支援

  • 日本政策金融公庫補給金・出資金:令和9年度概算要求604億円(令和8年度当初:169億円、令和7年度補正:40億円)
    • 創業、新事業展開、事業承継等に取り組む中小企業向けの低利融資体制を維持するための財政措置が計上されています。
  • 中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業:令和9年度概算要求96億円(令和8年度当初:33億円、令和7年度補正:49億円)
    • 各都道府県の「よろず支援拠点」および「生産性向上支援センター」における相談支援体制の強化に加え、中小企業とAIサービス提供事業者・支援者等を結びつける地域AXネットワークの構築を通じたAI導入伴走支援が計上されています。

3.4 国家戦略としての成長投資(GX・AX推進)

経営環境の整備にとどまらず、我が国経済の長期的な潜在成長率の引き上げと国際競争力の確保に向け、経済産業省ではGX(グリーン・トランスフォーメーション)やAX(AI・デジタルトランスフォーメーション)分野への大規模な国家投資を打ち出しています。

  • 省エネルギー・非化石転換の投資促進・社会実装支援事業:令和9年度概算要求2,108億円(令和8年度当初:840億円、令和7年度補正:550億円):
    • 脱炭素成長型経済構造への移行(GX)に向け、工場・事業場等における先進的な省エネ設備への更新や、化石燃料から非化石エネルギー(電気・水素等)への構造転換・需要最適化を進める企業投資を大規模に後押しする施策です。
  • AIロボティクス戦略事業:令和9年度概算要求3,209億円(新規)
    • 構造的な人手不足の解消と日本の産業競争力強化を目指し、ロボット基盤モデルの開発や、AIロボット開発を支えるオープンプラットフォームの整備、AIロボットとその重要部品の量産ライン構築への設備投資を支援します。また、2040年にAIロボティクス(AIロボット)の世界市場(約60兆円規模)において、米中に並ぶ第三極として世界シェア3割超(20兆円規模)の獲得と、1,000万台規模の国内実装を目指します。

第4章:制度変更に対応する社内実務のポイント

国の予算案や税制改正要望で示された方針は、単なる行政の施策にとどまらず、補助金の公募要件や税額控除の適用条件などを通じて、中小企業の社内制度や現場の実務に直接影響を与えます。では、ここまでご説明した予算や制度変更のメリットを自社で享受するために、企業側でどのような準備や対応が必要になるのでしょうか。主なポイントをまとめました。

4.1 価格転嫁・取引適正化の強化に備えるには

 ➡ 原価管理・コスト構造の可視化

  • 国の制度変更:取適法の執行強化や価格交渉月間等による、労務費・コスト上昇分の価格転嫁推進
  • 企業側に求められる対応:取引先や発注元との価格交渉を円滑に進めるためには、自社のどの業務にどれだけの労務費・間接費がかかっているかを客観的なデータとして示す必要があります。適正な価格改定を勝ち取る前提として、自社製品・サービスの原価計算の精度向上に努め、コスト構造を明確にしましょう。

4.2 主要補助金における要件化に備えるには

 ➡ 中長期成長計画の言語化

  • 国の制度変更:「10億宣言」の原則要件化(新事業進出・ものづくり補助事業)や「成長志向の経営計画」の導入(持続化補助金)
  • 企業側に求められる対応:今後の補助金申請では、単に設備導入の理由を述べるだけでなく、「自社が3〜5年後にどのような成長シナリオ(売上高1億円、10億円など)を描いているか」があらかじめ具体的な事業計画として整理されていることが求められます。

4.3 省力化・AI投資の予算の枠組み一体化に備えるには

 ➡ 社内業務プロセスの特定

  • 国の制度変更:省力化設備とデジタル・AIツールを一体的に支援する補助金の新規計上や伴走支援
  • 企業側に求められる対応:補助金や支援体制を無駄なく活用するためには、自社内のどの工程に人手や時間が取られているかという現場の業務課題(ボトルネック)を事前に特定し、どのような機器やAIツールを適用すべきか整理しておくことが必要です。

第5章:随所に社内変革求めるメッセージ

令和9年度の概算要求および税制改正要望における経済産業省・中小企業庁の方針を俯瞰すると、従来から示されてきた一律的な下支えではなく、イノベーションや脱炭素(GX)・AI(AX)投資に挑む強い中小企業の創出を重視しようとする国の意思が、今回も見て取れます。
国の成長戦略と連動した大規模な成長投資や取引環境の改善を進める一方で、主要補助金や税制の要件見直しなどを通じて、企業側に対して中長期の成長シナリオの言語化や、現場のコスト構造・業務プロセスの可視化といった社内変革を促すメッセージが込められていると言えるでしょう。

今後は年末の予算閣議決定、国会審議、そして来春以降の施策実行、公募要領の公表などへと行政プロセスが進んでいきます。経済産業省・中小企業庁が提示する成長方針を自社の経営課題と結びつけ、早期に社内体制や事業計画を整えておくことが、今後の各種施策を確実に活用するための鍵となるはずです。

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