
環境省は、令和9年度予算の概算要求を取りまとめました。脱炭素社会の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)投資をはじめ、中小企業の脱炭素経営支援、さらには住宅の断熱リフォームや省エネ新築住宅といった暮らしに直結する補助事業まで、幅広い施策が盛り込まれています。本記事では、令和9年度概算要求の全体像と注目事業を紹介します。
第1章:環境省概算要求の全体像と4つの柱
環境省の令和9年度概算要求は、一般会計、エネルギー対策特別会計、東日本大震災復興特別会計を合わせた総額(合計)で1兆1,451億円+事項要求となっています。事項要求とは、金額をあらかじめ示さず、年末の予算編成過程で具体的な金額を確定させる要求形式のことです。
- ⼀般会計:3,828億円+事項要求
- エネルギー対策特別会計:5,154億円
(※うち、GX推進対策費:2,750億円) - 東⽇本⼤震災復興特別会計:2,470億円
(※各会計の表記は四捨五入を行っているため、各数値の和と合計額が一致しない場合があります)
令和9年度の概算要求では、特別枠として「『強く豊かな日本』投資枠」が設定されており、上記総額のうち環境省分として5,556億円+事項要求となっています。
環境省の概算要求は、この投資枠やエネルギー対策特別会計(5,154億円)をはじめ、予算の多くがGX(グリーントランスフォーメーション)や脱炭素化の推進に充てられているのが大きな特徴です。
では、この膨大な脱炭素予算をどのような戦略で投じていくのか。環境省はその基本方針として温室効果ガス削減施策の4つの柱を掲げています。第2章以降で紹介する具体的な補助事業や支援策も、すべてこの4つの柱に沿って展開されます。まずは、脱炭素化の「全体マップ」となる4つの柱を確認しておきましょう。
第1の柱「脱炭素でレジリエントかつ快適な地域・くらしの創造」
国民運動「デコ活」の全国展開や住宅・建築物の脱炭素化を進めます。また、避難所等に再エネ・蓄電池を導入し、平時のCO2削減と非常時の電源確保を両立する「災害に強い地域づくり」を支援します。
デコ活
地球温暖化を防ぎながら、快適で健康的な豊かな暮らしを実現することを目指して環境省が推進する新しい国民運動の愛称です。「脱炭素(Decarbonization)」と、「エコ(Eco)」を組み合わせた言葉です。
第2の柱「バリューチェーン・サプライチェーン全体の脱炭素移行の促進」
企業間の連携によるCO2削減や、工場・事業場の省エネ化(SHIFT事業)、商用車の電動化(EV・FCV等)、資源循環への移行を後押しします。
第3の柱「地域・くらしの脱炭素化の基盤となる先導技術実証と情報基盤等整備」
CCUS(CO2分離回収・利用・貯留)や人工光合成、水素利活用、GaN(窒化ガリウム)等の革新的な部材・素材技術の開発・実証を加速させます。
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
工場や発電所から出たCO2を分離・回収し、燃料やプラスチックなどの化学製品の原料として有効活用するか、地中深くに貯留する技術の総称です。
GaN(窒化ガリウム)
電気を劇的に効率よく流せる「次世代の半導体素材」です。従来のシリコン素材に比べ、電力を無駄にせず、発熱を抑え、超小型化できるという革新的な特徴を持っています。スマートフォンやパソコンの、小さくて充電が速い急速充電器の内部に広く使われており、家電や電気自動車の省エネ化を支える素材として注目されています。
第4の柱「世界の脱炭素移行への包括支援による国際展開・国際貢献」
二国間クレジット制度(JCM:日本の技術で海外の脱炭素を進め、その成果を日本と相手国で分け合う)や温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)を活用し、日本企業の海外展開を後押ししながら、途上国等の脱炭素移行を包括的に支援します。
第2章:【一般・住宅向け】住宅の断熱化・脱炭素志向型住宅と「デコ活」
一般生活者や住宅の所有者、リフォーム検討者、工務店等に関係が深い住宅分野の省エネ化支援施策や国民運動に関する取組を紹介します。
2.1 経産省や国交省と連携した住宅省エネ化の推進
住宅の脱炭素化や高断熱化に関しては、環境省と経済産業省・国土交通省の3省が連携し、ワンストップで活用できる補助金の枠組みが継続・拡充される見込みです。省エネリフォームや新築住宅の支援を一体的に展開することで、申請者の利便性向上や即効性の高いCO2削減を目指しています。
主な事業
- 断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(980億円/新規):既存住宅の窓(ガラス・サッシ)の断熱リフォームに対し、工事内容に応じて定額での補助を予定しています。具体的には、以下のような工事が補助対象として盛り込まれています。住宅の熱の出入りの約6〜7割を占める窓を重点的に改修することで、冬の冷気や夏の熱気を遮断し、光熱費の削減と快適な暮らし(ウェルビーイング)を実現する狙いです。
- 内窓設置:今あるサッシの内側に新しい窓を取り付けて二重サッシにする
- 外窓交換:古いサッシごと最新の高断熱窓に取り替える
- ガラス交換:既存の窓枠のまま、単板ガラスから高断熱な複層ガラスに交換する

- 脱炭素志向型住宅の導入支援事業(500億円/新規):ZEH基準の水準を大きく上回る省エネ性能を有する新築住宅の導入などを支援する事業です。新築戸建住宅と新築集合住宅が補助対象になる見込みです。
- 住宅の脱炭素化促進事業(125億円):カーボンフットプリント表示製品等を活用した住宅の新築支援のほか、集合住宅と戸建住宅のZEH化や断熱リフォーム等を幅広く補助する予定です。
カーボンフットプリント(CFP)
直訳すると「炭素の足跡」が表す通り、製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまで
2.2 「デコ活」による脱炭素社会実装事業
エネルギー対策特別会計から18.14億円、一般会計から4.55億円が要求されています。「デコ活」を通じて、自治体や企業、団体等と連携し、消費者の行動変容を促す製品・サービスの社会実装の推進を図ります。民間の資金やアイデアも活用しながら、生活領域全般で「新しい豊かな暮らし」を支える製品やサービスを効果的・効率的に社会に広げるためのプロジェクトも計画しています。
第3章:【事業者・中小企業向け】脱炭素経営や次世代技術の導入支援
中小企業をはじめとする事業者が、設備投資や脱炭素経営、次世代技術の導入に活用できる補助金や支援策です。
3.1 民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業(63億円)
企業の工場や施設、農地などに太陽光発電などの再生可能エネルギー設備を導入しやすくするとともに、電力の使用量と供給量を柔軟に調整できる仕組みづくりを支援します。これにより、企業や地域の脱炭素化を進め、地域でつくった電力を地域で有効に活用できる仕組みの普及を目指します。具体的には、ストレージパリティの達成に向けた蓄電池等の価格低減促進事業などが含まれています。総務省、農林水産省、経済産業省とも連携して取り組みます。
ストレージパリティ
太陽光発電の導入に際して、蓄電池を導入しないよりも蓄電池を導入した方が経済的メリットがある状態のことを意味します。
3.2 工場・事業場の省CO2化とバリューチェーン脱炭素経営
産業部門の脱炭素化に向けて、自社の工場・事業場における省エネ設備の導入や、取引先を含めたサプライチェーン全体でのCO2削減を後押しする施策です。
主な事業
- 脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業(SHIFT事業)(76.82億円):中小企業などの工場・事業場における脱炭素の取組を支援する代表的な補助事業です。省CO2型システムへの改修支援事業や最高性能型導入支援事業が計画されています。

- 中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業(16.51億円):環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を踏まえて投資などを行うESG金融が拡大する中、サプライチェーン全体でのCO2排出量の算定や削減目標の設定、中小企業の脱炭素経営などを後押しし、競争力の強化を図ります。これにより、国内外からESG金融を呼び込み、経済と環境の好循環の実現を目指します。
3.3 商用車の電動化・業務用建築物の脱炭素改修促進
運輸部門や業務(オフィス・店舗等)部門におけるCO2削減に関し、日常的に稼働する車両や既存建物の電動化・省エネ化を進める支援を展開予定です。下記の2事業はいずれも、経済産業省、国土交通省との連携事業です。
主な事業
- 商用車等の電動化促進事業(300億円/新規):トラック、バス、タクシー等の商用車や建設機械の電動化(EV・FCV等)に向け、車両・機械本体の導入補助に加え、それらと一体的に導入する充電設備の導入費の一部を補助予定です。
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(67億円):既存のオフィスビル等を対象に、窓・外皮の高断熱化や高効率空調、LED等への照明高効率化など、大幅なCO2削減につながる改修工事費用の支援が盛り込まれています。
3.4 次世代技術の社会実装支援
日本発の革新技術である「ペロブスカイト太陽電池」は、軽量で柔軟なため、従来のシリコン型では設置できなかったビルの壁面や耐荷重の小さい屋根にも導入できるのが強みです。本セクションでは、民間・地域への導入支援(民間需要)と、政府施設への先行導入(官公需)の両輪で早期の社会実装を目指す2事業をご紹介します。
ペロブスカイト太陽電池
特定の結晶構造を持つ「ペロブスカイト」という材料を用いた、薄く、軽く、曲げられる次世代の太陽電池です。2009年に国内の研究グループによって発明された日本発の技術です。
主な事業
- ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業(280億円):耐荷重の制約等から従来型の太陽電池が設置困難であった体育館屋根や、建物の窓面にも導入可能なペロブスカイト太陽電池の導入への補助を通じて、導入方法や費用、発電効果、維持管理上の課題などを確かめ、ほかの施設でも導入できる事例を広める狙いです。経済産業省、国土交通省との連携事業です。
- 政府施設を活用した各行政分野におけるペロブスカイト太陽電池の需要創出事業(5億円/新規):官公庁の庁舎や政府関係施設等に先行してペロブスカイト太陽電池を設置・実証を行うことで、国自らが初期需要(官公需)を創出し、市場の拡大を図ろうという施策です。
3.5 データセンター等デジタル基盤の脱炭素化支援事業(46億円)
生成AIやDXの普及に伴い増加するデータセンターの電力消費に対応するため、省エネ性能の高い冷却技術や未利用再エネ等を活用したデジタル基盤の脱炭素化を支援する事業です。総務省と連携して進めます。
第4章:地域脱炭素・地域レジリエンスとサーキュラーエコノミー
自治体主導の地域脱炭素や防災・レジリエンス強化、リサイクル・資源循環(サーキュラーエコノミー)分野に関する設備投資を支援する施策です。
4.1 地域の脱炭素化を促す交付金と実務的な支援
自治体主導による地域の脱炭素化を成功させるには、実際に設備を導入するための資金(交付金)と、その前段階である計画づくりや体制整備(実務支援)の両輪が必要です。このため、地域ぐるみの取り組みを総合的に後押しする施策が計画されています。
主な事業
- 地域脱炭素推進交付金(GX以外:730億2,100万円/GX:80億円):民間と共同で脱炭素に取り組む地方公共団体等への、複数年度にわたる支援が予定されています。具体的には、脱炭素先行地域づくり事業への支援、重点対策加速化事業への支援などを展開予定です。
- 地域脱炭素実現に向けた具体施策実装支援事業(18.5億円):地域の脱炭素化を進める自治体に対し、計画づくりから実行までを支援する事業です。地域の理解を得ながら太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入し、その利益を地域に還元する取組を後押しします。また、地域の取組を中心となって進める人材の確保のためアドバイザー派遣や人材育成研修なども予定されています。
4.2 防災拠点への自立・分散型エネルギー導入
主な事業
地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共避難施設・防災拠点への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業(地域レジリエンス事業):40億円
学校や病院、市町村役場等の公共施設・避難拠点に対し、再エネ設備や蓄電池、コージェネレーションシステム等の導入を支援する事業です。平時の脱炭素化に加え、災害時にはエネルギー供給等の機能を発揮し、地域の防災力強化を図ります。

4.3 地域資源を活用したエネルギー循環と資源循環投資
地域経済の活性化と環境保全を両立させるには、地域内に存在する未利用エネルギーや再エネを活かしたエネルギーの地産地消と、プラスチックや金属等を何度も再利用する資源循環(サーキュラーエコノミー)の構築が欠かせません。地域の防災・経済循環を高める新規事業や、リサイクル設備の高度化を後押しする大型支援が計画されています。
主な事業
- 地域資源を活用したレジリエントなエネルギー循環・経済成長促進事業(10億円/新規):防災・減災の強化、国内資源の有効利用、地域産業の振興という3つの分野で、自治体等による脱炭素設備の導入を後押しします。また、設備導入が確実に実施されるよう、事業計画の策定から進捗管理まで継続的に支援し、地域主導の脱炭素社会づくりを加速します。
- 先進的な資源循環投資促進事業(200.8億円):廃プラスチックや使用済み電池などを再資源化するための設備導入を支援する事業です。回収した資源を製鉄や化学、蓄電池産業などで再利用することで、新たな資源採掘や原材料製造に伴うCO2排出の削減につなげます。資源を繰り返し活用する循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行を進めるとともに、産業分野の脱炭素化を後押しすることが狙いです。
第5章:くらしの安全対策と自然共生
国民の生活や安全を守る基盤施策、自然環境保全(ネイチャーポジティブ)に関する取組も計画されています。
5.1 クマ等被害対策や熱中症対策
相次ぐクマの市街地出没や、夏季の記録的酷暑など、国民の日常生活における「生命・安全への直接的な脅威」への対応が急務となっています。本セクションでは、生態系の変化や気候変動に伴う身近なリスクを軽減し、国民の安心・安全な暮らしを守るための2つの施策をご紹介します。
主な事業
- クマ・シカ・イノシシの適切な個体数削減・管理(130億円。うち、クマ対策83億円):相次ぐクマ被害等に対応するため、「クマ被害対策ロードマップ」に基づき、捕獲体制の強化や生息状況の広域調査、自治体における専門人材の配置・育成等を強力に推進します。
- 熱中症対策推進事業(9.6億円):自治体におけるクーリングシェルターの指定・運用支援や、熱中症予防のための普及啓発等を推進する計画です。
5.2 ネイチャーポジティブな社会の形成
生物多様性の損失を食い止め、回復に転じる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現を目指し、企業の取組支援や国立公園の保護・利用管理の充実等を進める施策群です。
主な事業
- 生物多様性保全等のための国際協力・ルール形成の推進(14億円):国際的なルール形成をリードするとともに、ネイチャーポジティブ移行型のサプライチェーン構築などを目指します。
- 希少種保護対策及び生息地の保全、積極的な保護増殖の推進(9億円):絶滅危惧種の保護や生息環境の保全を進めるほか、能登地域等におけるトキの定着支援などを推進します。
今回示された概算要求は、今後の財務省査定を経て年末に政府予算案として取りまとめられ、通常国会での審議・可決を経て決定されます。企業の設備投資や自治体の地域施策において補助金等の活用を検討される場合は、今後の公式発表などを通じた情報を把握され、事業計画の検討を進めることをおすすめします。
▼BizRizeでは、無料相談を行っております!▼

BizRize事務局
ヒト・モノ・カネに関する経営資源を、効率よく活用できるプラットフォーム「BizRize」を運営。毎週木曜に経営者向けの勉強会を開催し、補助金や資金調達に役立つ情報を無料メルマガで配信中!



