
令和9年度の総務省一般会計予算として、総額21兆9,171億円+事項要求が概算要求されました。AI社会を支える通信インフラ整備や経済安全保障、グローバル展開といった国家規模の成長投資と、地域AX(AI Transformation)や防災、持続可能な地方財政基盤の確保など、地域社会を支える施策が総合的に組み込まれています。本記事では、その全体像とカテゴリー別の主要事業や支援内容をわかりやすく解説します。
事項要求
要求時点で具体的な金額を定めず、今後の予算編成過程(年末の閣議決定等)の中で経済情勢や国の重要政策方針に応じて予算額が確定・追加される枠組みのことです。
第1章:概算要求の全体規模と重点投資分野
地方の財源確保のため、地方交付税(地方団体交付ベース)は21兆624億円+事項要求となっています。一般歳出は9,196億円+事項要求で、このうち「強く豊かな日本」投資枠は5,033億円+事項要求です。この投資枠では、AI社会を支える通信インフラ(Beyond 5G/6G、APN等)や量子通信、AI導入による業務変革を促す地域AX、サイバーセキュリティ強化といった分野が集中的に盛り込まれています。
第2章:AI時代の基盤整備と成長投資
AI社会を支える通信インフラへの投資、量子技術、地域の成長支援、さらには海外展開やスタートアップ支援策を網羅した重点カテゴリーです。
2.1 あらゆる産業の成長を支える情報通信技術・インフラへの投資やAIの開発・利活用の促進:3,495.4億円+事項要求
概要:次世代の通信規格や量子技術、AI開発の基盤となる超高速・低遅延な通信インフラの開発・社会実装を強力に推進する国家規模の投資計画です。
【主な内訳】
- 次世代ワイヤレス(Beyond 5G(6G)、衛星光通信等)の実現に向けた電波の有効利用・研究開発・整備等の推進:周波数を有効利用する技術基準の策定に向けた研究開発や、衛星光通信等の商業化に向けた研究開発と光地上局ネットワークの全国への整備を予定しています。
- 大容量・低遅延・低消費電力に優れたオール光ネットワーク(APN)の研究開発支援・社会実装の推進:2030年代の導入が見込まれる次世代情報通信基盤Beyond 5Gについて、民間企業や大学等による研究開発・国際標準化を支援し、APNの社会実装に必要な技術検証を実施する計画です。

2.2 地域AXの推進と強い地域経済の構築:237.5億円
概要:地域の企業や中小企業へのAI・デジタル技術の導入(地域AX)を加速させ、人手不足解消や労働生産性の向上を目指す施策群です。
【主な内訳】
- 中堅・中核企業から地域企業に至るまで、AI導入を一気呵成に進める地域AXの推進:ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)に設けられた「地域AX特別枠」(仮称)を含みます。AIによる業務変革や新たな価値創出を実現する地域密着型の新規事業立ち上げを支援する内容です。なお、同プロジェクトに関しては、「ローカルスタートアップの支援による地域経済循環の創出」として、産官学金の連携により、地域の資源と資金を活用した地域密着型の新規事業の立ち上げを支援する、従来からの内容も別途予算要求されており、あわせて約50億円規模となっています。

「地域AX推進」に関しては、同プロジェクトのほか、地域でデジタル化を進める人材の確保や、AI・新しい通信技術を使ったサービスの試行、通信インフラの整備なども盛り込まれています。そこで得られた成功事例を分かりやすく発信・共有し、全国各地で早く実用化できるよう後押しする狙いです。
- 地域交通の確保等に資する自動運転を支える通信インフラの整備・拡充:地域の移動手段や物流の確保に向け、無人自動運転(レベル4)の実現を目指します。安定した遠隔監視や安全・円滑な運行支援が必要なため、自動運転を支える通信インフラを強化するとともに、自治体や事業者による導入・利用を促す計画です。
2.3 グローバル市場の獲得に向けた国際競争力の強化・経済安全保障の確保:530.3億円
概要:日本の先進的な通信技術やAI、魅力ある映像コンテンツの海外展開を強力に支援し、国際市場でのシェア獲得と経済安全保障の確立を目指します。
【主な内訳】
- 進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の下、安全で信頼性が高く、強靭なデジタルインフラの整備を推進する「FOIPデジタル回廊構想」の実現及び我が国のAIの海外展開の推進:日本のAI技術をアジアやアフリカなどのグローバルサウスへ展開するため、現地の言語や文化に対応したAIの開発・実証、人材育成、データ整備、現地企業との協力を一体的に進める予定です。また、海底ケーブルや次世代通信(5G・6G)、光ネットワークなどのデジタル基盤を海外で整備・展開し、日本企業の国際競争力向上と経済安全保障の強化を目指します。
- ドラマなど実写コンテンツの海外向け大規模作品製作支援と日系配信プラットフォームの海外展開支援:日本のドラマなどを海外に広めるため、放送局や番組制作会社による海外市場を意識した大規模作品づくりを支援する内容が盛り込まれています。また、国際見本市の開催支援、海外の見本市におけるセミナー開催等を通じて、海外企業との連携や海外市場に適した制作・販売手法を検証し、日本のドラマなど実写コンテンツの海外展開を拡大する狙いです。

- 海底ケーブルの自律的な敷設・保守能力、防護・監督体制の強化及び多ルート化の推進:国際通信を支える海底ケーブルを、日本が自ら敷設・修理できる体制の強化を目指すものです。民間事業者が作業船を安定的に保有できるようにするための支援が盛り込まれています。
第3章:デジタル空間の安全・信頼性確保
デジタル社会の健全な発展を阻害するサイバー攻撃やネット上の偽・誤情報に対し、信頼性と安全性を高めるための守りを重視した施策です。
3.1 国内外におけるAIガバナンスの実現:5.6億円
概要:AIの安全かつ適切な利活用を推進するため、国際的なルールメイキングやリスク評価手法の開発・検証体制を整備します。
【主な内訳】
- 広島AIプロセスを軸としたAIグローバル・ガバナンスの構築:AIガバナンスに関する国際会合の開催などを通じ、広島AIプロセスを推進し、AIガバナンスに関する国際的な議論を推進します。
広島AIプロセス
生成AIの安全、安心、信頼性を確保するため、日本が主導して2023年に立ち上げた国際的な枠組みです。G7で初のAIに関する国際的な指針・行動規範を策定し、政府や企業、学術界など幅広い関係者による国際的なAIガバナンスの形成を目指しています。
3.2 デジタル空間の健全性の確保等:120.4億円
概要:インターネット上の偽・誤情報や違法・有害情報の拡散に対抗し、自由で安全なデジタル空間の規律と信頼性を確保しようという取組です。技術的な対策にとどまらず、幅広い世代を対象としたICT活用のためのリテラシー向上推進事業などもあわせて展開される見込みです。
【主な内訳】
- インターネット上の偽・誤情報、違法・有害情報の流通・拡散に対する総合的な対策の推進:偽・誤情報対策に向けて、AI等を活用した技術開発だけでなく、専門人材の育成や組織的な対応をあわせて進め、これらの取組を連携させることで対策の強化を図る方針です。
3.3 AI性能の高度化等を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強力な推進:230.2億円
概要:生成AIを悪用した高度なサイバー攻撃の脅威に対抗するため、技術開発や専門人材の育成、自治体・企業の防衛力を抜本的に強化しようという取組です。
【主な内訳】
- 高性能AIの悪用によるサイバー攻撃の脅威等を踏まえたサイバーセキュリティ人材の育成:巧妙化・高度化するサイバー攻撃への対応力強化に向け、NICT(情報通信分野を専門とする国立研究開発法人 情報通信研究機構)を通じて、AIを活用した実践的な訓練や演習環境の整備を進め、高度なサイバーセキュリティ人材の育成を後押しします。
- サプライチェーン・リスク対策等を通じた地方公共団体のサイバーセキュリティ対策の抜本的強化:地方公共団体のサイバーセキュリティ対策強化に向けて、人材、ノウハウ、基盤等の共有化等を図る狙いです。具体的には、サイバーセキュリティ対策総合相談窓口の創設、重大インシデントレスポンス専門家チーム派遣制度の創設などが盛り込まれています。
第4章:自治体AX/DXの推進と持続可能な地域社会の構築
人口減少に伴う自治体の人手不足に対応し、行政サービスのデジタル化(AX/DX)や、地域を支える人材創出を目的とした施策群です。
4.1 自治体AX/DXや広域連携の推進等による人口減少下でも持続可能な行政サービス提供体制の構築:1,943.5億円
概要:自治体システムの標準化やマイナンバーカードの普及・利活用を通じ、行政手続きの効率化と利便性向上を推進します。
【主な内訳】
- マイナンバーカード等を円滑に取得、更新できる環境整備:土日や夜間開庁等を含む市町村の窓口体制を整備するための財政支援を行い、円滑にカードの更新が行える体制を整える狙いです。
- 自治体情報システムの標準化の推進:標準化対象の20業務に係る基幹業務システムについて、その移行のために必要な経費や、標準仕様書の改定に要する経費などへの支援が含まれています。
- 自治体AX/DXによる行政サービスの効率化の促進:AIによる自治体業務の構造変革(自治体AX)を目指し、業務全体の最適化を実現するための事業・調査研究を予定しています。具体的には、AI等のデジタル技術の組合せによる業務プロセス全体の自動化、AIエージェントの導入に向けた実証モデル事業、自治体AXに関するノウハウ等を提供し横展開を図るためのガイドブック改定などを盛り込んでいます。
4.2 地域の担い手支援や関係人口の拡大等を通じた地域活性化:19.6億円
概要:地方への新たな人の流れを促進するため、人材育成やICT等技術の活用、団地造成や空き家を活用した住宅の整備等を展開予定です。また、「集落ネットワーク圏」(小さな拠点)において、生活支援や「なりわい」の創出といった地域課題の解決に役立つ取組を幅広く後押しします。
【主な内訳】
- 過疎対策の推進:条件不利地域における交通、医療、生活基盤の確保や持続可能な地域社会の形成に向けた各種事業を助成します。
- 地域おこし協力隊等による地域の担い手確保及び地域運営組織(RMO)による持続可能な地域づくりの推進:地域おこし協力隊員数を増やすため、若者、シニア、女性、外国人といったターゲット別に戦略的広報を展開予定です。また、企業の即戦力人材の地方への還流を促進するため、自治体と企業の社員や退職者が、地域活性化起業人制度を有効活用できるよう、地域活性化起業人のマッチング支援のプラットフォームの活用事例などの周知広報を進めます。
地域活性化起業人
都市部企業の社員が地方自治体に一定期間(6か月~3年)派遣され、民間企業で培った専門知識や経験を活かして地域課題の解決に取り組む制度です。

- ふるさと住民登録制度による関係人口の可視化・地域の担い手確保:地域と継続的に関わる人(関係人口)を増やすため、ふるさと住民登録制度の普及を進める計画です。あわせて、自治体の先進事例の共有や民間企業・団体との連携を通じて、地域の担い手確保や地域活性化を目指します。
第5章:消防防災力の充実強化と地域防災のAX化
相次ぐ大規模自然災害や激甚化する気象災害に対処するため、最新のデジタル技術を取り入れた防災体制の確立を目的としたカテゴリーです。
5.1 AI等新技術の活用等による消防防災力・地域防災力の充実強化:207.6億円+事項要求
概要:消防・防災の現場にAI、ドローン、ロボット技術等を導入(消防AX/DX)し、救助活動の迅速化と広域防災力の強化を図ります。
【主な内訳】
- 緊急消防援助隊・消防団等の充実強化:大規模災害に備え、全国の自治体(市町村)が整備する緊急消防援助隊の車両や資機材への補助を進めます。また、緊急消防援助隊基本計画に基づき部隊を増強するため体制強化を図る予定で、その補助対象には新たにドローンが追加される方針です。
- 林野火災等の大規模災害に備えた消防防災力の充実強化:大規模火災や地震に備え、上空からの放水が可能な消火用放水ドローンや、隊員が近づけない場所等での消火活動のための無人走行放水ロボット等の配備などが計画されています。
- AI・ロボット・ドローン等の新技術の活用等による消防AX/DXの推進:119通報や♯7119の通話内容をAIが分析し、指令員等の判断をサポートする取組についてモデル事業を展開予定です。また、AI、ロボット、ドローンの新技術について、消防本部での導入・運用を試行的に進める計画です。
5.2 通信・放送インフラの強靱化:171.9億円
概要:災害時においても通信途絶や途絶リスクを防ぎ、国民への確実な情報伝達手段を維持するためのインフラ耐災害化事業です。
【主な内訳】
- 携帯電話基地局やケーブルテレビ等の耐災害性強化による通信・放送インフラの強靱化・冗長性の確保、官民連携による通信復旧体制の整備:災害発生時における携帯電話基地局の停波を回避するため、大容量化した蓄電池や発電機、ソーラーパネル及び衛星を活用し、携帯電話基地局の強靱化対策を進めます。また、南海トラフ地震などに備え、市町村役場や災害拠点病院などの防災拠点の通信確保を図るため、電気通信事業者への支援を通じて応急復旧機材の整備にも力を入れる予定です。
第6章:社会基盤の確保と行政運営・統計のスマート化
社会生活の土台である郵便局ネットワークの利活用や、国の重要政策の根拠となる公的統計の精度向上に関する施策です。
6.1 郵便局のユニバーサルサービスの維持・充実と地域社会への貢献:2.6億円
概要:自治体が郵便局を活用し、地域に必要な機能維持を図ります。行政事務の効率化や生活支援サービスの充実などを強化するため、コミュニティ機能の改善や事例の共有を進め、「郵便局のコミュニティ・ハブとしての活用」を推進する狙いです。
6.2 AI時代に対応した行政運営の改善及び基盤となる統計の整備:190.5億円
概要:エビデンスに基づく行政運営(EBPM)の基礎となる公的統計の整備や、AIを活用した統計調査事務の効率化を推進します。
【主な内訳】
- 令和9年就業構造基本調査など社会・経済実態の把握に資する統計調査等の実施:就業構造基本調査や小売物価統計調査(消費者物価指数)、労働力調査、家計調査、サービス産業動態統計調査などを継続的に実施予定です。
- 政府統計ポータルサイト等の機能充実:政府統計の総合窓口(e-Stat)に関し、AIが円滑に統計データを取得できるようなデータ提供の見直しや最新技術を活用した検索性の強化など、利便性向上のための機能改修等を予定しています。
令和9年度の総務省予算概算要求は、AI時代の国家基盤となる次世代通信インフラや経済安全保障への大規模な戦略投資をはじめ、地域経済の活性化、自治体や消防のデジタル変革(AX/DX)、そして安定的な地方財政基盤の確立まで、多角的な施策が提示されています。企業の皆さんは、自社の技術開発や地域課題の解決に活用できる制度や交付金を把握し、補助金等の公募開始に向けた準備を進めていただきたいと思います。
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