
賃貸住宅を新築・改修、または分譲マンションを改修する際に、子どもの転落事故などを防ぐための費用の一部を国が支援してくれる「子育て支援型共同住宅推進事業」という補助金制度をご存じですか? 窓の手すりや補助錠といった子どもの安全対策や、キッズルーム、宅配ボックスといった交流・安心のための設備を共同住宅(賃貸アパートや賃貸マンション、分譲マンション)に導入する費用の一部を国が補助してくれます。
この補助金は、建物の大家さんやマンションの管理組合だけでなく、今お部屋にお住まいの子育て世帯ご自身でも申請できるケースがありますが、「誰が・どの工事を申請できるか」のルールが複雑です。まずは第1章のガイドを参考にしながら「やりたいことができるのか」をチェックしてみてください。
本記事における子育て世帯とは:令和8年4月1日時点で小学生以下の子どもを養育している入居者の世帯を指します。ただし、大家さんや管理組合が宅配ボックスを申請する際の入居率の計算においては、安全対策等とセットで申請する場合も含め、18歳未満の子どもがいる入居者の世帯がカウントされます。
第1章:やりたいこと × 立場別の判定ガイド
「うちのマンションに宅配ボックスを付けたい」「窓に手すりを付けたい」。そんなご要望に対し、ケース別に申請できる方を整理しました。
第2章:後を絶たぬ子の転落事故
住宅の窓やベランダから子どもが転落してしまう痛ましい事故が、後を絶ちません。消費者庁の消費者安全調査委員会の広報資料などでは、以下のような事故が報告されています。
窓からの転落事例(1歳):窓の近くにあったベッドや踏み台をよじ登り、網戸を破って転落。
ベランダからの転落事例(3歳):ベランダの手すり付近に置かれていた踏み台を足場にして、手すりを乗り越え転落。
このように、ちょっとした「足掛かり」があるだけで、子どもはあっという間に高所へ登ってしまいます。国は、家具の配置に気を付けるといった住まい方の工夫だけでは事故を防ぎきれないとして、子どもの手が届かない高い位置への補助錠の設置や、よじ登れない形状の手すりへの改修など、建物そのものの対策を強く呼びかけています。
このような背景もあり本事業では、アパートやマンションの新築・改修を行う際に、子どもの命を守る安全設備や、親同士の交流を促す施設を導入する費用の一部を支援しているのです。

(本記事で使用している図の出典はいずれも、本事業の特設サイトに掲載されているチラシ)
第3章:補助対象となるための建物の条件
補助金申請にあたっては、ご自身と住宅の関わり方についての諸条件(大家さんや管理組合の許可など)をクリアしていることに加え、対象となる建物自体が以下の共通ルールをすべて満たしている必要があります。
- お部屋の広さルール:住戸部分の床面積(バルコニー等を含まない)が40㎡以上あること。宅配ボックス設置のみの場合は建物内の全住戸の床面積の平均が40㎡以上であることが条件です。
- 建物の耐震基準:対象となる建物が新耐震基準に適合していること。概ね昭和56年(1981年)6月1日以降に建築確認を受けた建物、または耐震性能証明書等により新耐震基準を満たしていると証明できる建物が対象となります。
- 「5戸以上」のルール:改修工事で「安全対策のみ」を行う場合は1部屋から申請可能ですが、「交流施設(キッズルームなど)」を作る場合は、交流施設単独での申請はできず、必ず1つの建物内で「5部屋以上の安全対策」とセットで実施することが要件となります(※新築の場合は、常に5部屋以上の安全対策と交流施設の両方が必須です)。
なお、「宅配ボックス」を設置する場合はさらに厳しく、「マンション内のすべての住戸」で安全対策が完了している(または今回セットで工事する)ことが必須となります(詳しくは第5章で解説します)。 - 災害リスクエリアの除外(※新築のみ):新築(賃貸住宅建設型)の場合、土砂災害特別警戒区域や浸水想定区域などの災害リスクの高いエリアに立地していないことが条件です(改修の場合は適用されません)。
- 入居募集・譲渡のルール:補助金を使って工事をしたお部屋(賃貸)の入居募集を開始する際、最初の3か月間は子育て世帯限定で募集すること(ただし賃貸の場合、3か月間募集を続けても入居者が決まらない場合は、一般の方を入居させてもよいという緩和措置があります)。以後も入れ替わり時に同様の募集を10年間継続する義務があります。分譲マンション改修の場合も、工事後10年間は、お部屋を売却(譲渡)する相手が子育て世帯であることが条件となります。宅配ボックスのみの設置事業の場合は、このような入居募集・譲渡に関するルールは適用されません。
- 定期報告の義務:工事完了後、10年間にわたり年1回程度の定期報告を行う義務があります。入居者ご自身が申請した場合も対象です。宅配ボックスのみの設置事業は適用外です。
第4章:補助対象になる経費と補助上限額
本事業では、専門の施工業者に依頼(工事請負契約)して発生した費用のうち、以下の要件を満たす経費に対して補助金が支払われます。
4.1 補助の対象となる経費の例
子どもの安全や交流を目的とした、建物そのもの(ハード面)の材料費および施工費が対象です。
✅安全確保の工事費:窓の補助錠や手すりの設置、ドアクローザー、転倒防止のクッション床など
✅交流施設の工事費:キッズルームの設置、プレイロット(遊具等の設置)など
✅宅配ボックスの導入費:対象製品の本体代、および新しいボックスの設置工事費。古いボックスから入れ替える場合、古いボックスの撤去・処分費は補助対象外です。
4.2 補助の対象「外」となる経費の例
以下の費用は補助金額の計算から除外(自己負担)となるため、見積もりを取る際は注意してください。
✅工事に直接関係ない費用: 調査費、設計費、工事監理費、補助金の申請費など
✅撤去・処分費: 既存設備の解体・撤去費用、産廃処分費(※古い宅配ボックスの処分費も対象外です)
✅建物に固定されない家具・家電の購入費:本事業は「建物への工事」を伴う設備のみが対象です。そのため、子育てに便利であっても、買ってきて置いて使うだけの家具や家電(卓上食洗機、卓上コンロ、壁掛けエアコン、ベッド等)の新調・購入費用は補助対象外となります。チャイルドロック付きの「備え付けコンロ」などは対象になります。
✅自分の人件費: ご自身(大家さん等)でDIY施工した場合の、自分の労力(人件費)や間接経費
4.3 補助率と上限額の早見表
4.1で解説した補助対象となる工事費に対しては、以下の割合で補助が出ます(※消費税は対象外です)。
| 事業の区分 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| 新築の場合(賃貸のみ) | 1/10 |
安全設備:125万円 / 戸 交流施設:625万円 / 棟 |
| 改修(リフォーム)の場合 | 1/3 |
安全設備:120万円 / 戸 交流施設:600万円 / 棟 |
| 宅配ボックスの設置 | 1/3 | 50万円 / 棟 |
【補助額の「按分(割り引き)計算」に関するルール】
✅安全設備・交流施設の場合:建物内に一般向け住戸など「補助対象外」の部分が含まれる場合は、その部分の工事費を除外して計算します(対象となる住戸や施設の工事費だけを抜き出す、あるいは面積等で割り出して特定します)。
✅宅配ボックスの場合:工事費に、マンションの入居世帯数(空き室を除く)に対する子育て世帯数の割合を掛け算して按分計算します(入居率の計算ルールなど、詳細は第5章で解説します)。
新築時の補助対象工事

既存物件改修時の補助対象工事

第5章:宅配ボックス導入時の共通ルールと単独申請時の特例
本補助金では、お部屋の安全対策等とセットで宅配ボックスを申請することも、他の工事は一切せずに宅配ボックスのみを単独で申請することも可能です。
ただし、セット申請・単独申請のどちらの場合であっても、宅配ボックスを導入する場合には以下のルールが共通して適用されます。
5.1 共通ルール
共通ルール①:登録された製品しか購入できません
国が指定する「みらいエコ住宅2026事業」に登録されている製品のみが補助の対象です。
| みらいエコ住宅2026事業は、新築戸建て住宅と戸建て住宅のリフォームを補助対象に含みます。戸建て住宅に宅配ボックスの設置を希望する場合は、みらいエコ住宅2026事業の申請を検討してください。 |
共通ルール②:補助額は「子育て世帯の入居率」で減額(按分)されます
マンションの入居世帯(空き室を除く)のうち、子育て世帯(令和8年4月1日時点で18歳未満の子がいる世帯)が住んでいる割合(入居率)を掛け算して補助額が決まります。子育て世帯の入居率が30%未満の場合は補助の対象外です。
共通ルール③:すべての住戸の転落防止対策が必須です
建物内のすべての住戸で、手すりや窓の補助錠などの転落防止対策が事前に取られていることが必須条件となります。すでに対策がとられている場合は、改めての対策は不要です。
共通ルール④:既存ボックス入れ替え時の注意点
古い宅配ボックスから入れ替える場合は旧ボックスよりも性能が向上していることが必須です。また、旧ボックスの撤去・処分費は補助対象外です。
共通ルール⑤:設置場所は共用部分の1箇所のみです
補助の対象となるのは、エントランスなどの共用部分に設置する場合のみです。各部屋の玄関前などに個別に置くタイプは対象外です。また、補助対象は1棟につき1箇所のみと決められています。
5.2 単独申請のメリット
設備面のハードルはセット申請と同じですが、他の工事を一切行わず宅配ボックスのみを単独申請するコースには、大家さんにとってのメリットが用意されています。それは、手すり等の工事では必須となる「工事後10年間にわたる、子育て世帯限定の入居募集ルールの義務」や「毎年の定期報告義務」が免除されるという点です。すでに全戸の安全対策が済んでいる物件であれば、空室リスクや事務負担を負うことなく宅配ボックスを追加できる魅力的な選択肢となります。

第6章:事前審査と申請スケジュール
本補助金の手続きの特徴は、事務局である「子育て支援型共同住宅サポートセンター」との事前相談・事前審査が必須であるという点です。事前審査をクリアすると「交付申請事前相談結果票」が発行されます。本補助金の申し込み(交付申請)には、交付申請事前相談結果票の添付が必須のため、事前審査をクリアしていないと、そもそも申し込みをすることができない仕組みになっています。
【重要】事前相談を申し込む時点で工事請負契約を締結しておくこと
事前相談を事務局へ申し込むための絶対条件として、施工業者との請負契約を完了しておく必要があります。事前相談を開始してから、最終的な交付決定(工事がスタートできる状態)が下りるまでには目安として2~3ヶ月程度かかるとされていますので、以下の期限から逆算して、できるだけ早く業者探しと契約を進めましょう。
▼ 押さえておくべき2つのスケジュール
| 手続きの種類 | 賃貸住宅の新築 | 賃貸・分譲の改修 | 宅配ボックスのみ |
|---|---|---|---|
|
① 事前審査のクリア期限 (※この日までに事務局の審査を通過する) |
令和8年9月30日(水)まで | 令和9年1月29日(金)まで | 令和9年1月29日(金)まで |
|
② 完了報告の期限 (※今年度中に工事を終わらせる場合) |
令和9年2月3日(水)まで | 令和9年2月3日(水)まで | 令和9年2月3日(水)まで |
物件の新築や大規模改修のため工期が複数年度にわたる計画の場合は、申し込み(交付申請)時に、本補助金の事務局である「子育て支援型共同住宅サポートセンター」から「全体設計」の承認を受けることで、複数年度にわたって事業を進めることが可能となります。各年度末にその年の工事進捗(出来高)に応じた報告を行うことで、年度ごとに補助金を受け取ることができます。
ただし、宅配ボックス単独申請の場合は複数年度の工事は認められませんので、必ず令和9年2月3日までに完了報告を終える必要があります。
第7章:申請手続きは施工業者にお任せ
本補助金の申請手続き(オンラインシステム「Jグランツ」の操作や事務局とのやり取り)は、原則として施工業者などが「事務担当者」として代行します。Jグランツについては、本補助金の特設サイトに「Jグランツ関連」というページが用意されています。まずは、このページを読むことをおすすめします。
手続きは業者に任せた上で、申請者ご本人(大家さんや管理組合)も、以下の事項については十分に理解しておいてください。
「GビズID(https://gbiz-id.go.jp/top/ )」の取得
施工業者にオンライン申請を代行してもらうためには、その前提として申請者ご本人名義の「GビズID」というアカウントが必要です。
ご自身にしか手配できない書類の準備
申請書類の多くは業者が作成してくれますが、ご自身の本人確認書類、賃貸借契約書や住民票などは自身で手配して業者に渡す必要があります。
交付決定が出るまでは工事に着工しないこと
事務局から交付決定の通知が下りる前に工事をスタート(着工)してしまうと、補助金を受け取ることができません。申請者、施工業者ともに十分に注意してください。
第8章:よくある質問
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申請手続きを今年度中に済ませ、着工は来年度でもよいですか。
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補助金の交付を受けるには、今年度内(※着工期限:新築・改修型は令和9年3月31日まで、宅配ボックス「のみ」の場合は令和9年1月31日まで)に着工することが条件です。
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事前相談から交付決定まで、どれぐらいの時間がかかりますか。
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事前相談は、交付申請時に必要な全ての要件を満たしているかを事前に確認するものです。このため書類の不足や費用根拠の訂正などで複数回のやり取りが発生することもあります。結果として、事前相談の開始から正式な交付決定(着工可能になる通知)が出るまでに、目安として2〜3ヶ月程度かかるとされています。業者との工事請負契約を済ませたうえで、早めに相談を開始してください。
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宅配ボックスの設置は新築物件も対象ですか。
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既設の共同住宅のみが対象となります。新築や戸建ては補助対象となりません。
第9章:早めの準備を
「子育て支援型共同住宅推進事業」は、子どもの命を守り、物件の価値を高める制度です。ただし、事前相談の時点で契約を済ませておくこと、交付決定前に着工してはいけない、GビズIDの準備が必要といった、手続き上、求められるルールもあります。
対象となる大家さんや管理組合の方は、まずはご自身が条件に当てはまるかを確認し、早めに施工業者に相談して準備を進めてください。
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