
第1回では、社会保険の加入から建設業許可の取得、経営事項審査(経審)、そして自治体への入札参加資格審査申請という、公共工事の土俵に上がるまでの公的な手続きについて解説しました。
しかし、無事に自治体の名簿に登録されたからといって、すぐに仕事が受注できるわけではありません。公共工事の入札には、大きく分けて自ら案件を探して手を挙げる「一般競争入札(攻め)」と、役所から入札参加の声がけを待つ「指名競争入札(待ち)」の2つの方式があります。名簿に登録されたばかりの新規参入企業は、この「攻め」と「待ち」の両方において、公共工事の受注実績がないことによる壁に直面することになります。
本稿【第2回】では、その高い壁を乗り越え、新規参入企業が確実な受注を勝ち取るための実践的なヒントをお伝えします。
いきなり大型案件を狙うのではなく、少額随意契約や公共工事下請けを活用して段階的に実績を積むステップアップ手法や、自治体ごとに異なる独自ルールの読み解き方、さらには自社の経営資源を最適に配分する「入札ポートフォリオ戦略」までを詳しく解説します。この記事を参考にしていただき、実績ゼロからでも自社が勝てる舞台を見極め、利益を最大化していくための具体的なロードマップを描いていただければと思います。
第1章:名簿登録後の「攻め」と「待ち」
名簿への登録が無事に完了した新規参入企業は、自社が参加できる案件を探し始めることになります。しかしここで、多くの初心者が「思うような案件がどこにも見つからない」という最初の壁にぶつかります。
この壁の正体を正しく理解するためには、まず公共工事の入札における「入り口(参加者の選び方)」と「出口(勝者の決め方)」という、別次元にある2つのルールを整理しておく必要があります。
1.1 入札参加者と勝者を決めるルール
入札の仕組みは、基本的には以下の「掛け算」で成り立っています。
「入り口」のルール:誰を参加させるか
- 一般競争入札(攻め):公示された条件を満たしていれば、どの業者でも自由に応札できる。
- 指名競争入札(待ち):役所(発注者)側が、名簿の中から適した業者を指名して声をかける。
「出口」のルール:誰を勝者にするか
- 最低価格落札方式:予定価格(予算の上限)の範囲内で、一番安い金額を書いた業者が落札する。
- 総合評価落札方式:価格だけでなく、技術力や地域貢献度を合算した「点数」が最も高い業者が落札する。
公共工事は、この「入り口」と「出口」が以下のように組み合わされて発注されます。
| 出口:最低価格落札方式 | 出口:総合評価落札方式 | |
|---|---|---|
| 入り口:一般競争入札 | ① 一般競争 × 最低価格 | ② 一般競争 × 総合評価 ※国や県の大型工事に多い |
| 入り口:指名競争入札 | ③ 指名競争 × 最低価格 ※多くの地方自治体で見られる | ④ 指名競争 × 総合評価 ※稀です |
自治体によって制度の運用は異なりますが、初めて参入する企業が「市町村の発注工事で、自ら参加できる総合評価落札方式を探してみよう」と思っても、なかなか見つからないのが実情です。なぜなら、新規参入組の主戦場となる市町村の比較的規模が小さい工事においては、国や県で多く見られる「②」のような組み合わせが採用されるケースは少なく、「③:指名競争×最低価格」の組み合わせが主流となる傾向にあるからです。
この全体的な傾向を踏まえた上で、新規企業が直面しやすい「攻め」と「待ち」の具体的な壁を見ていきましょう。
1.2 指名競争入札に立ちはだかる「実績の壁」
市町村においては、指名競争入札が主流となっているケースが多く見られます。市町村から指名を受けた業者だけが入札に参加することができる仕組みです。しかし、新規参入企業がいきなり役所から指名を受けるのは、実務上ハードルが高いのが現実です。
なぜなら、自治体の担当者にとって、過去の施工実績や工事成績(=役所との信頼関係)が全くない未知の業者を指名することはリスクを伴うからです。自治体の指名基準(要綱)においても「過去の市の工事実績」が重視される傾向にあるため、実績ゼロの新規業者は指名リストに挙がりにくいという側面は否めません。
1.3 一般競争入札(攻め)に潜む参加条件の壁
「指名されないなら、自ら参加できる一般競争入札(表の①や②)を探せばいい」と思うかもしれません。しかし、ここにも壁が存在します。
一定金額以上の大きな工事(AランクやBランク向け)については一般競争入札を採り入れている自治体もありますが、小規模な工事(CランクやDランク向け)については、指名競争入札や随意契約が採用されるケースが少なくありません。
このため、公共工事実績が無く低いランクからスタートせざるを得ない新規参入企業にとって、自ら手を挙げて参加できる小規模な一般競争入札の案件は、そもそも公示される数が限られているという実態に直面することが多いです。
1.4 安値競争を防ぐ「最低制限価格」とは
市町村の小規模案件の場合、価格のみで決まる「最低価格落札方式」が多くみられます。しかし、だからといって「とにかく安い価格を書けば勝てる」というわけではありません。自治体は安すぎる価格での手抜き工事(ダンピング)を防止するために、原則として最低制限価格や低入札価格調査といった下限のボーダーラインを設けています。
特に市町村の入札においては、基準を1円でも下回ると失格となる「最低制限価格制度」が採用されているケースが多いです。単なる安売りではなく、適正な利益を確保しつつ、失格にならないギリギリのラインを精緻に読み切る積算戦略が勝敗を分ける鍵となります。
1.5 「総合評価落札方式」は提案力で逆転可能
新規参入組の事業者にとっては少し先の話かもしれませんが、国や県の大型案件等で採用されることが多い「総合評価落札方式」という入札方式があります。会社の基礎体力である経審の「P点」が高ければ安泰かというと、そう単純な話ではありません。
この方式では、入札価格の安さだけでなく、「過去に似た工事で優秀な成績を収めたベテラン現場監督を配置する」「通学路が近いため、自社負担で交通誘導員を増員する」といった、今回の工事をどう上手く終わらせるかという技術提案(プロジェクト単位の企画力)がシビアに採点されます。最終的な勝敗は「技術評価点 ÷ 入札価格」のコストパフォーマンスで決まるため、「ライバルより入札金額は少し高かったけれど、安全対策の提案が素晴らしかったから逆転勝利できた」ということも大いにあり得ます。

地方公共団体の入札に関する情報は、総務省のウェブサイト≫にまとめられています。
第2章:実績作りステップアップ事例
第1章で解説した通り、新規参入企業の主戦場となる市町村の入札(指名競争入札)では、役所から指名を受けるために「過去の施工実績(=役所との信頼関係)」が重視されます。
しかし、起業直後や公共工事への参入初期は、経審の点数(P点)が低いだけでなく、そもそもこの「公共工事受注実績」がゼロの状態です。そのため、ただ名簿に登録して待っているだけでは「実績がないから指名されない。指名されないから実績が作れない」という負のループに陥ってしまいます。
では、過去の新規参入組は、この最初の壁をどのようにして突破し、自治体から指名を受けられるようになったのでしょうか…。ポイントは、以下のような「入札以外の部分での地道な活動」にも取り組みながら、意図的かつ段階的に最初の実績(信頼)をつかみ取っていくことです。
2.1 少額随意契約を狙う
起業直後や経審の点数がまだ低く、実績がない段階で、まず公式な元請け実績作りの場として狙うべきなのが少額随意契約という枠組みです。
少額随意契約:一定の金額(自治体や工種により異なりますが、概ね数十万〜数百万円以下)の安価な工事であれば、入札手続きを省略して、役所が業者を直接指名して見積もりを取り、契約してもよいという法律上の特例ルールです。
少額の工事ではありますが、きちんと通常通り資格審査申請を経て、正規の入札参加資格名簿(CやDランクなど)に登録された業者のみが参加できる仕組みです。正規の手順をしっかりとクリアしてきた業者ですので、施工能力などが担保されている点は、自治体にとっての安心材料となります。
新規参入業者がまずやるべきことは、通常の入札参加資格申請を不備なく済ませ、正規名簿に登録して「少額随意契約の見積もり合わせという打席」にいつでも立てる状態を作っておくことです。最初の一歩、すなわち「どうやって発注部署から声をかけてもらうか」という課題はありますが、名簿に載っていなければチャンスは1ミリも巡ってきません。 もし幸運にも役所から見積もりの依頼(少額随契の打席)が舞い込んできたら、完璧な施工、丁寧な書類提出や役所とのやりとりで「公式な実績と最高の好印象」を役所に残してください。少額随契における確実な仕事ぶりは、その後の指名競争入札で指名を得るための確実な実績として積み上がっていきます。
【基本的に二重登録はできない】
多くの自治体では、「すでに正規の入札参加資格者名簿に載っている業者は、小規模修繕の名簿には登録できない」というルールを設けています。いわば、プロ一軍と草野球の両方に同時エントリーはできない仕組みです。だからこそ、「入札参加資格者名簿」登録前は小規模修繕で顔を売り、同名簿登録後は少額随契の公式実績を積む、という自社のフェーズに合わせた使い分け(順番)を意識することが重要です。
2.2 下請けでの実績構築
もう一つの有効な手段は、すでにその自治体でAランクやBランクに位置している地元の元請け業者の下請けとして現場に入ることです。下請けとして施工した工事であっても、適正な請負契約に基づき、請負金額が自社の売上として計上されている場合は、経審の完成工事高として正当な評価対象となります。公共工事の下請け実績を積み上げることで、将来的に自社が元請けとして参入する際のP点を大きく向上させることが可能です。
第3章:自治体ごとの「独自ルール」と舞台の選び方
3.1 村の「Aランク」が、県の「Cランク」になる理由
第1回で、公共工事の入札資格は「工事種別(業種)ごとにランク付けされる」という基本ルールを解説しましたが、実は同じ会社であっても、申請先がA市かB県かによって、格付け(ランク)が劇的に変わってしまうことがあります。
経審の「P点」は全国共通の絶対的な数字ですが、そのP点をどう扱うか(何点からAランクにするか)は、各自治体の裁量に大きく委ねられているからです。例えば、全く同じP点を持つ企業であっても、「小さな村ではトップクラスのAランクとして扱われるのに、予算規模の大きい県に申請するとCランクになる」といった現象はごく普通に起こります。数億〜数十億円の巨大な工事が頻発する県と、数百万円〜数千万円の工事がメインとなる村とでは、発注される工事のベース金額が全く違うためです。
同じ成績であっても、「どの自治体に登録するか」によって自社の立ち位置は変わります。「A市では自社はCランクのため仕事が回ってこないが、隣のB町に登録したらAランクとして優遇された」というように、自社に有利な舞台を戦略的に選ぶことができるのは、公共工事ならではの魅力でしょう。
3.2 参入先を見極める5つの確認ポイント
公共工事に参入する際は、自社の限られた経営資源をどの自治体に投下すべきかを見極める必要があります。自社が最も勝てるターゲット(自治体)を複数見極め(絞り込み)、効果的に組み合わせてエントリーしていく戦略は、さながら投資のよう。「入札ポートフォリオ戦略」とも呼べるこの戦略を成功させるためには、行き当たりばったりではなく、以下のポイントを確認して、自治体に対し入札参加資格の審査申請をすることが大切になります。
①格付け(ランク)基準:自社はどのランクに該当するのか
②随時受付の有無:いつでも受け付けている(随時受付)のか、決まった期間しか受け付けない(定期受付)のか、具体的な受付期間は
③地元優遇ルール(地域要件):本店が市内にある業者を優先的に指名するような地元企業優先のルールはあるか
④少額随意契約制度の有無
⑤主観点(自治体独自の加点):全国共通のP点に上乗せする自治体独自の加点。たとえば防災協定の締結、消防団員の雇用など。P点と加点部分を合算した総合点をもとに最終的なランクが決まります。

第4章:入札に向けた必須準備と情報の探し方
4.1 電子入札用ICカードとシステム登録
現在、公共工事の入札は紙ではなく、ほとんどがインターネット上の電子入札システムで行われています。一般競争入札や、少額随意契約の見積もり依頼、指名競争入札の指名通知も、この電子システムを通じて届くのが一般的となっています。
つまり、せっかく名簿に登録して役所からお声がけのチャンスが巡ってきても、多くの自治体では、システムを利用するための専用ツールが手元になければ通知を受け取ることができず、土俵に上がれない事態となってしまいますので、名簿への登録が完了した(または申請中の)段階で、以下の準備を並行して進めておくことが鉄則です。
- 電子入札用ICカードの申請・取得:役所の窓口ではなく、国が認定した民間認証局から購入します。発行までに数週間かかることもあるため、早めの手続きが必要です。
- 専用ICカードリーダーの購入
- 自社パソコンへのソフトウェアのセットアップ
- 発注機関の電子入札システムへの利用者登録
4.2 案件情報の探し方と3つの活用法
電子入札の準備ができたら、次は情報収集です。営業するうえで情報は欠かせません。
検索した情報の生かし方
- 下請け営業先を探す:発注予定から、たとえば秋に予定されている小学校の大型改修工事などにアタリをつけます。その上で、入札に参加しそうな地元の有力ゼネコン等に対し、当該案件における専門工事部分の見積もり(積算)の機会をいただけるよう打診(営業)します。自社の得意分野や施工能力をアピールし、落札時の下請け業者として協力できる体制があることを客観的に伝えるのが目的です。
- 新規参入でも狙える「小規模な一般競争入札」を探し出す:一般競争入札の多くは「条件付き」であり、過去の施工実績が求められることが多いため新規参入組には厳しいのが現実です。しかし、自治体によっては下位ランク(C・Dランク)の育成等を目的とし、少額案件に限り「過去の実績を問わない」ケースや、条件となる実績に民間工事や下請けとしての実績を認めるケースも存在します。こうした「自社の現状でも参加できる一般競争入札」が隠れていないか、情報検索の際には、仕様書の参加条件の隅々まで目を光らせておきましょう。
- 役所に顔を売る:自社が得意または対応可能な案件が予定されている場合、自社のこれまでの施工実績をまとめた営業資料や会社案内(パンフレット)を担当課に持参し、専門性や対応力を客観的にアピールしておきましょう。少額随意契約の見積もり候補として声をかけてもらえる確率を高めておく狙いです。
どこで情報を探すのか?
- 基本は自治体HP(発注見通し・入札結果):各自治体は年度初めや四半期ごとなどに、ホームページで発注見通しを公表しています。また、過去の入札結果を調べておくことで、「どの会社がよく元請けとして落札しているか(=下請け営業に行くべきターゲット)」、見当もつきやすいはずです。
- 民間の情報検索サービスの活用:「NJSS≫」などの民間の入札情報検索サービスを活用する企業も増えています。全国の案件を横断的に検索でき、キーワードでの通知機能などがあるため便利ですが、無料版では検索できる期間や機能に制限がある点には留意が必要です。

- ネットに情報がないことも:発注予定などは自治体のホームページで公表されていることがほとんどですが、町村などの中には、発注見通しや入札結果などの情報が、ホームページではあまり掲載されていないケースもあります。こういった自治体では、必要な情報を担当課窓口で閲覧する運用です。このような機会は担当職員と直接顔を合わせ、自社のパンフレットや実績資料を自然に手渡す絶好の機会でもあります。アナログな壁は、新規参入企業にとっては役所に認知してもらうチャンスでもあります。
第5章:不調・不落の実態とチャンスへの転換
自治体のホームページ等で案件をチェックしていると、入札不調や入札不落という結果に終わっている工事を見かけます。新規参入企業にとっては、思わぬ「狙い目(チャンス)」になることがあります。
5.1 不調と不落の違い
どちらも「落札者が決まらなかった」という結果は同じですが、そのプロセスに明確な違いがあります。
- 入札不調:入札に参加する業者が1社もいなかった(応募がゼロだった)状態。
- 入札不落:複数の業者が参加して入札を行ったものの、全員の入札金額が役所の設定した「予定価格(予算の上限額)」をオーバーしてしまい、勝者が決まらなかった状態。
5.2 入札不調・不落が急増している背景
最大の原因は、発注者(役所)が設定する「予定価格(予算の上限)」が、実際の市場コストに対して安すぎる(低すぎる)ことにあります。近年、建設資材の深刻な価格高騰が続いていることに加え、「2024年問題」に伴う残業規制の強化などで、人件費や工期にかかる実質的なコストが急激に跳ね上がっています。しかし、役所の予算算出(官積算)は過去のデータなどをベースにしているため、市場のリアルな高騰スピードに追いつけていません。このため、「役所の予算上限のままでは赤字になるから誰もやりたがらない(不調)」、あるいは「利益を出せる適正金額で入札すると、上限をオーバーしてしまう(不落)」というミスマッチが起きているのです。
5.3 新規参入企業にとっての狙い目とは
不調・不落になってしまった公共工事はそのまま放置するわけにはいきません。役所側が条件を譲歩して再発注するケースも多く、ここを賢く狙うのが戦略となります。
- 再公告(再入札):役所が予算を引き上げたり、参加できるランクや地域要件の制限を緩めたりして再度入札にかけられることがあります。前回は参加できなかった企業でも、条件緩和によって土俵に上がるチャンスが生まれることがあり得ます。
- 不落随契:不落に終わった後、参加していた業者などに対して、役所が価格交渉を持ちかけて、例外的に随意契約を結ぶ措置に移行することがあります。
他社が敬遠して成立しなかった案件や、再公告された案件の動向をこまめにチェックして自社のポートフォリオに組み込むことで、新規参入企業でも実績を作る糸口を掴める可能性があります。
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