ローカル10,000プロジェクトの先行事例に学ぶ「留萌ヰゲタ港運」編

これまでの主力事業が大きな転換期を迎えるなか、次なる柱として「ウニの完全閉鎖型陸上養殖」に活路を見出した北海道留萌市の留萌ヰゲタ港運株式会社。実績ゼロの困難な挑戦でしたが、留萌の海を悩ます磯焼けウニの活用という地域課題解決を事業に組み込み、総務省の補助事業「ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)」の採択へとつなげました。同社はいかにして自治体、北海道大学、金融機関の協力を取り付け、難事業を形にしていったのか――。本記事では、地方創生を後押しする「産官学金」連携のカギを探ります。
主力事業の縮小へ、背水の陣で挑む新規事業
カズノコの加工生産量日本一を誇る北海道留萌市。ここで今、新たな特産品を生み出そうとウニの陸上養殖への挑戦が進んでいます。
1941年の設立以来、石炭荷役を主力事業として留萌の発展を支えてきた留萌ヰゲタ港運。脱炭素化の波を受け、電力会社向けの石炭船の入港が2025年春でなくなり、同社を取り巻く事業環境は大きく変化することとなりました。
この避けられない危機から社員の雇用をどう守るか。数年後に迫るタイムリミットを見据えた同社は3年前、東京の食品業界で長年経験を積んできた現・取締役事業推進部長の高橋宏さんを迎え入れ、背水の陣で新規事業を模索し始めていました。
数あるアイデアの中で、将来性が高いと判断したのがウニでした。しかし、長年重機のオペレーションなどをしてきた社員たちにとって、養殖は全くの未経験分野です。
新事業に取り組むにあたっては、コストを抑えられる掛け流し養殖という選択肢もありましたが、留萌は港の灯台が風で折れてしまうほどの暴風地帯です。加えて海流も速く、海水を直接汲み上げる掛け流し方式では砂を巻き込んでポンプが壊れてしまう懸念がありました。また、ウニの生育に適した低水温を年間通して維持するためにも、最も難易度が高く多額のコストがかかる「完全閉鎖型陸上養殖」を選ぶしかありませんでした。 このように、地域で未開拓の新規事業への挑戦であり、かつ全国で深刻化する磯焼け問題の解決策にもなり得るという「モデル性」こそが、同社にとってローカル10,000プロジェクトを活用する強力な動機付けとなりました。
ドームハウスの外観(写真はいずれも高橋宏さん提供)

産学官連携がもたらした技術的解決と、奇跡の縁
実績ゼロからのスタートには、技術と人材という大きな壁が立ちはだかりました。完全閉鎖型を採用するにあたり最大のネックとなるのが、ウニが好む低水温下での水質管理です。従来のバクテリア浄化方式は機能が著しく落ちてしまうため、同社は北海道大学からの紹介と助言のもと、最先端の「電気分解(電解ろ過)システム」を、生産ラインとしては世界で初めて導入。専門メーカーと計画段階から共働し、電気の力でアンモニアを処理することで低水温下でも安定した水質管理を実現し、技術的ハードルを見事に乗り越えたのです。
また、専門家不在の課題に対しても、高橋さんが自ら調査を重ね、道内で約10年近くウニ研究を手がけていた専門家を探し出し、熱意をもってアプローチ。事業の立ち上げという絶妙なタイミングで、この専門家を招き入れることにも成功しました。
養殖場の敷地には、水道や電気といった生活インフラが通っていないという問題がありました。インフラを引き込もうにも周囲の地権者が不明で工事の許可が取れず、計画は暗礁に乗り上げかけます。しかし、施設の脇を通る廃線跡地をインフラの引き込みルートとして活用可能ではと考え市へ相談に行くと、6月1日にJRから市が譲り受けることになっていて同跡地の利用許可を迅速に得ることでクリア。1ヶ月ほどの工事で水道や電気を開通させ、7月の養殖事業スタート(池入れ)へと間に合わせたのです。
海の砂漠化克服への挑戦と、未利用野菜を活用した高付加価値化
ローカル10,000プロジェクトの必須要件である「地域課題への対応」として、同社が着目したのが、先にも触れた磯焼け(海の砂漠化)問題です。海水温上昇によりウニの活動時期が早まり、エサである海藻が芽を出したばかりのところを食べてしまうため磯焼けが発生、中身がスカスカになった痩せウニの増加は、留萌の海でも深刻化していました。
同社は、地元の漁師からこの痩せウニを適正価格で買い取り、陸上で育てるという仕組みを構築したのです。この取り組みに関しては、磯焼けで観光資源の海が失われつつある天売(てうり)島において、強い危機感を持った漁師が親子3世代でウニの採取に協力してくれているそうです。
さらに、地域資源の活用として、ウニのエサには規格外の未利用野菜なども利用しています。地域のフードロス削減という公益性に貢献しつつ、エサを工夫することで雑味のない甘みを引き出して付加価値を高めるという事業性も両立させた計画を打ち立てました。
天売島の海を守る、親子3世代の漁師たち

想定を上回ったコストと、前例なき事業ゆえの試行錯誤
事業(約1億数千万円の計画)の立ち上げにあたり、同社は2025年1月頃から留萌市役所の担当者と二人三脚でローカル10,000プロジェクトの申請準備を進めました。同制度の審査のポイントの一つである雇用効果についても、既存社員の雇用維持だけでなく、先に述べた養殖の専門人材をはじめとする新規雇用の創出を計画に盛り込み、同年4月、見事採択にいたりました。
しかし、いざ着工すると資材高騰の影響を受け、さらに「お手本」のない完全閉鎖型設備の修正等も重なり、総事業費は約2億円近くにまで膨れ上がってしまったといいます。それでも同社は、この差額を自社の資金と、「なんとしてもやり遂げる」という並々ならぬ熱意で乗り越え、7月の養殖施設稼働へとこぎつけました。
開業後には思わぬトラブルも。「突然ウニがエサを食べなくなり、人工海水の塩を輸入から国産に変えたところ元気になった」(高橋さん)。前例のない試み、しかも相手は繊細さが要求される生き物ということでトライ&エラーの連続だったと言います。
高付加価値ビジネスの可能性をアピールし、資金調達に成功
ローカル10,000プロジェクトは、交付金だけでなく地域金融機関からの融資と組み合わせて初期投資を確保することが前提となっています。実績のない高コストな新規事業に対して、伴走相手となる北海道銀行から無担保融資を引き出すには、同行に納得してもらえる強力な戦略が必要でした。
高橋さんが提示したのは、緻密な市場分析に基づいたインバウンド・海外市場への勝機です。その一つとしてウニと和牛の食べ合わせに着目。昆布の旨味成分として知られ、ウニにも豊富に含まれる「グルタミン酸」と、和牛の旨味成分である「イノシン酸」。これらを一緒に食べると旨味の相乗効果で味が濃く感じるという科学的な裏付けを示し、海外の富裕層向けに高値で取引されるポテンシャルを説明しました。
「世界がグローバル化すればするほど、ローカル化が武器になる。1年中、留萌のこの場所でしか食べられない特別なウニを作り出すことが戦略になる」という高橋さんの熱いビジョンが評価され、力強い融資を引き出すことに成功しました。
生きたウニの安定供給とブランド化を目指して
苦労を乗り越えて迎えた翌2026年のゴールデンウィークには、初となる500個のウニを道内の回転すしチェーンに卸しました。天然物に比べて原価が7~10倍も高くなることが養殖の弱点であるため、その価格に見合う価値を訴求できる新しいマーケットでの販売を試みたのです。「活ウニ」です。
小樽店で初めて販売しましたが、「活ウニが入りました」と店員さんが声をかけると、早速2組のお客様が手を上げました。棘(とげ)が動いている様子に、お客様は「生きているウニは初めて見ました」とのこと。食べてみた感想は、「ウニの味が、すっきりして雑味がなくとてもあまい」との評価でした。高橋さんはお客様に「これが本当のウニの味です。普段食べ慣れているウニは、ミョウバンなどが入り加工されているので本当の獲れたてのウニの味ではないんです。浜でしか味わえない体験なんです」とお伝えしました。送り出した完全閉鎖型陸上養殖のウニ500個は、その品質の高さから即座に完売するほどの反響を呼びました。
そのサンプルを持って札幌・二条市場や東京・築地場外市場に商談しました。この販路開拓の過程では思わぬ出来事も。リサーチを重ねて狙いを定め、メールで営業をかけた二条市場の社長が、なんと高橋さんの高校時代のハンドボール部の後輩だったそうです。 こうした縁を経て今夏の出荷分は札幌、築地で販売予定です。
初めて水揚げされた
完全閉鎖型陸上養殖のウニ

初出荷後に
調理されたウニ

「このウニは、将来的には海外のミシュラン店や富裕層向けにも、非常に付加価値の高い特別な食材として取引される可能性を秘めています」と高橋さんは語ります。今後は、生きたままのウニを国内外に安定供給する体制を整えてブランド化を進めるとともに、さらに将来的な展望として、地域に点在する廃工場や使われなくなったビル等の活用も視野に入れています。部屋ごとに水槽を設置し、ある部屋ではウニのエサとなる昆布、別の部屋では甘エビといったように、それぞれ異なる海産物を養殖。来場者が各部屋を巡って養殖の様子を見学し、最後は獲れたての海の幸をその場で味わえる「食のテーマパーク」構想も描いています。
事業環境の激変に屈することなく、社員の未来を守るために舵を切った同社。最新の技術と産官学金の連携を巧みに掛け合わせて新たな道を切り開く同社の姿は、地方発ビジネスの新たな可能性を提示してくれています。
留萌市役所農林水産課・ご担当者にうかがいました
事業転換をスピード支援 つくり育てる漁業の普及へ足がかり
――留萌ヰゲタ港運の取り組みの、どのような点に実現可能性や魅力を感じ、ローカル10,000プロジェクトでの支援を決断されたのでしょうか。
支援にあたっては、留萌ヰゲタ港運様が、主力としている石炭荷役業の衰退に伴う新規事業への転換策として、ウニの養殖事業を検討している中で、補助金活用の希望があり、異業種からの新規参入かつ、北海道内で事例のない取り組みということでしたが、北海道大学のコンサルや、ウニ養殖経験者の新規雇用、市からの技術面での協力という体制もあったため、支援をしたいという気持ちで、内容に合致しているものとして、ローカル10,000プロジェクトを活用するに至りました。
――今回の迅速な申請手続きの背景には、留萌の海で進行する磯焼け問題や、地域の雇用に対する危機感などもあったのでしょうか。
当市としては、磯焼け等の問題に対し、危機感を感じていたところではございますが、今回の支援に関しては、地元企業の新規事業への転換策に対する支援という側面が強く、必要な手続きとしてスピード感をもって行いました。
――この事業が軌道に乗ることで、留萌市の地域経済や観光、あるいは市民の暮らしにどのような波及効果をもたらすと期待されますか。
当市としては、市の総合計画にも掲げているように、気候変動等の影響で漁獲量が減少し、獲る漁業からつくり育てる漁業への転換が求められている中で、養殖業の推進の必要性を感じていました。 その中で、留萌ヰゲタ港運様の事業が軌道に乗り、展開されていくことは、痩せウニという未利用資源の有効活用で、漁業者の所得向上にも繋がるほか、市内外から養殖業への関心を高め、新たに事業化する企業の増加につなげるなど、養殖業普及の足がかりとなるような効果を期待しています。
北海道銀行・留萌支店のご担当者にうかがいました
安定的な生産への期待と経営陣の熱意が融資の決め手
――留萌ヰゲタ港運にとっては、本業の縮小という厳しい経営環境下での新規事業への挑戦でした。融資のハードルは非常に高かったのではないかと思いますが、決断にいたった最大の決め手は何だったのでしょうか。
同社は業歴を通じて築いてきた健全な財務基盤を有していますが、主力事業(石炭荷役)が既に厳しい外部環境に晒されている中で、新たな収益の柱となる事業が必要でした。ウニの陸上養殖について全国的に前例がない中で自治体の協力、綿密な市場分析に基づいた市場調査、経営陣からの本件にかける熱い意気込み、また、成功事例となった場合、磯焼け問題の解決や留萌の街として新たな産業が生まれることで地域の活性化に繋がるものと判断したことが支援の決め手になりました。
――ローカル10,000プロジェクトのように、金融機関と行政、大学などが連携して地域ビジネスを創出・支援していくことについて、地域金融機関としてどのような意義を感じていますか。
「ローカル10,000プロジェクト」における地域金融機関の役割は、資金提供だけでなく事業性や継続可能性を見極める役割を担っており、地域経済の活性化に繋げることです。一方で本件のような新産業の育成は金融機関による資金面のバックアップだけでは困難である為、企業(産:事業化・市場ニーズの把握)、行政(官:補助金・地域政策の推進等による後押し)、大学(学:研究開発)がそれぞれの強みを持ち寄ることで課題解決に繋げていける点について連携の意義を感じております。
――本事業が秘める可能性や、今後の留萌地域、さらには北海道全体の経済にもたらす波及効果について、どのような期待を寄せられていますか。
ウニの陸上養殖事業は、北海道・留萌地域の地域資源や水産業との親和性が高いと感じております。陸上養殖は海況や漁獲量に左右される天然資源とは違い安定的な生産を行うことができるため、技術確立、品質管理、販路開拓が進めば加工・販売・観光・飲食など幅広く周辺産業と連携し地域ブランド商品の開発に発展するシナジー効果が期待できます。
留萌ヰゲタ港運株式会社
| 名称 | 留萌ヰゲタ港運株式会社 |
|---|---|
| 代表 | 代表取締役 井上 貞幸 |
| 本社住所 | 〒077-0004 北海道留萌市元町1丁目4番地の3 |
| 連絡先 | TEL:0164-43-2211 FAX:0164-43-6873 |
| 公式サイトURL | https://sites.google.com/view/rumoiigetakoun/ |
ローカル10,000プロジェクトとは
事業者や地方自治体、金融機関などの連携により、地域の資源と資金を活用して地域に雇用を生み出す地域密着型事業の立ち上げを支援する総務省の補助事業(補助金)です。事業が採択されるためには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。
- 地域密着型:地域の資源を活用する事業であること
- 地域課題への対応:公共的な課題の解決につながる事業であること
- 地域金融機関等による融資:公費による交付額と同額以上の融資(原則として無担保)を受けること
- 新規性:事業者にとって新規事業の立ち上げであること
- モデル性:地域の中で前例がなく、モデルとなる事業であること
資金構成としては、公費(国費+地方費)、地域金融機関による融資、自己資金を組み合わせます。支援対象となるのは、民間事業者の初期投資費用(施設整備費、機械装置費、備品費など)です。

BizRize事務局
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