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2026.08.06

米農家が挑む「薪ストーブ×コワーキング」 南魚沼の地域資源を循環させる新たな拠点づくり

ローカル10,000プロジェクトの先行事例に学ぶ「MAKINO-BA」編

地域の資源を活かし、社会課題の解決に挑む民間事業者を、国・地方自治体・金融機関が一体となってバックアップする総務省の「ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)」。地域に新たな経済循環を生み出す施策として、全国の起業家や経営者から熱い視線が注がれています。本記事で取り上げるのは、2024年末に新潟県南魚沼市のJR六日町駅前に誕生したワークスペース「MAKINO-BA(マキノバ)」。200年続く老舗米農家が、なぜ、元みやげ屋の空き店舗を「薪ストーブ×コワーキング」という異色の複合施設へと再生させたのか。初期投資を抑えながらも、確かな地域エコシステムを構築した挑戦に迫ります。既存資産の活用や、異業種からの新規参入を検討する皆さんのヒントになりそうです。

※本記事の写真は、撮影:ジンボラボ

「MAKINO-BA」施設外観
コワーキングスペース「MAKINO-BA」の外観

データで向き合う米作りと、森林整備を見据えた薪事業への進出

日本有数の豪雪地帯であり、名だたるコメどころとして知られる新潟県南魚沼市。2,000メートル級の山々に囲まれ、清らかな雪解け水が水田を潤すこの地で、200年続く農業を継いで事業展開しているのが株式会社庄治郎商会です。
同社は約20ヘクタールの水田で米作りを営む中規模農家。農家の7代目にあたる原澤太一社長が米作りで最も重視しているのは、水田ごとのデータの蓄積です。天候に左右されがちな農業において、良い米を安定して収穫する確率を高めるため、食品安全、環境保全、労働安全など100項目以上ある栽培管理基準を満たす「J-GAP」認証を取得し、土壌調査に基づいた精密な農業を実践しています。

そんな同社が薪事業「S Living Design(エスリビングデザイン)」を立ち上げた背景には、農業における冬場の仕事づくりという目的がありました。あるご縁をきっかけに、既存の薪事業を引き継ぐ形でスタートしたものの、当初販売していたピザ窯用の薪は価格競争の壁にぶつかったこともあり、2年ほどは赤字を抱えたそうです。
しかし、そこで諦めず、キャンプ用の薪へと方向転換。アウトドアブランドを展開する株式会社スノーピークとの取引を開拓し、約10年かけて事業を軌道に乗せました。

こうして薪事業の基盤を固める一方で、原澤社長の目は次第に「木を生み出す山」そのものへも向けられていきます。
「農業も薪事業も、すべて山の恩恵を受けている」。そう感謝を口にする原澤社長は、実際に林業の現場と深く関わるにつれ、日本の森林が抱える深刻な課題に直面したといいます。「戦後に植えられた木が密集し、日光が届かず、動物は人里に下りてくる。森林整備を進めるには、間伐材を有効活用し、もっと薪の需要を高めなければならない」

その解決策として着目したのが薪ストーブの普及でした。長野県の企業との出会いをきっかけに、薪ストーブのディーラーとなることを決意。25歳で家業の農業を継ぐ前に、建築現場の現場監督や設計などに携わっていた原澤社長にとって、薪ストーブの設置工事などは、自身のスキルを存分に活かせる領域でもありました。

MAKINO-BA に設置されている薪ストーブ
MAKINO-BA に設置されている薪ストーブ

行政・専門家との二人三脚で事業計画に磨き

薪ストーブを普及させるには、実際に炎の揺らぎを体感できるショールームが有効でしょう。しかし、原澤社長によると、日本の薪ストーブの普及率はわずか0.4%ほどだそうです。国内では、家を建てる際に最初から選択肢に浮かぶ人は少なく、薪ストーブの設置だけを目的にショールーム(店舗)を訪れる人となると限られます。
そこで、日常的に人が集まり、薪ストーブの魅力を自然に感じてもらえる場として、コワーキングスペースと薪ストーブのショールームの融合を構想しました。

出店場所を決める契機となったのは、南魚沼市役所の担当者からの提案でした。六日町駅前の商店街にあった、元みやげ屋の空き店舗を紹介された原澤社長は、総務省の補助金「ローカル10,000プロジェクト」の活用を決意します。
事業計画の作成において最も苦労したのは資金計画だったそうです。ここで原澤社長は、起業家支援を行うコンサルティング企業で、現在はMAKINO-BAの入居企業の一つでもあるSocialups株式会社のサポートを受けます。ハード(施設づくり)の知識は、原澤社長も備えていましたが、ソフト(数値計画や事業構築など)の面はコンサル(専門家)と役割分担をすることで、計画を精緻化していきました。 また、南魚沼市役所の担当者からは、「一民間企業としての利益だけでなく、この事業が地域にどう還元できるか」という視点を深掘りするための助言を受け、事業の公益性を言語化していったといいます。

MAKINO-BA 内の様子
MAKINO-BA 内の様子

地域への思いと本業の実績が後押しした無担保融資

本プロジェクトの必須要件である金融機関からの融資は、庄治郎商会のメインバンクである第四北越銀行から受けました。本制度において、交付金の要件として求められる融資分は原則として無担保(経営者保証なし)が条件となるため、銀行側の審査ハードルは高くなります。農業とは異なる異色の新規事業への挑戦に対し、銀行からのGOサインを獲得できた理由とは――。
「森林整備や商店街の活性化といった『地域コミュニティのハブになりたい』というエモーショナルな熱意も強く主張しましたが、一番大きかったのは、これまでの機械更新等で培ってきた実績や与信でした」と原澤社長は振り返ります。日々の堅実な経営の積み重ねが、新たな挑戦への最高のパスポートとなったと言えそうです。

MAKINO-BAの、補助金と融資を合わせた事業規模は、ローカル10,000プロジェクトの中では比較的コンパクトなスモールスタートの事例です。こうした事業を成り立たせる秘訣について、原澤社長は「自分の持っている事業のアセット(資産)を俯瞰し、関係する企業とどうシナジーを生み出せるかを見つめ直すこと」と語ります。
さらに、この既存アセットの活用は事業立ち上げのスピード感にも直結しました。「薪ストーブの魅力を伝えるため、一刻も早く実物を見せられる場所が必要だった」と語る通り、構想から1年足らずという短期間で開業にこぎつけることができたのは、自身に建築に関する経験があり、地元の工務店などと専門的な話をスピーディに進められたことが大きな要因だったとみています。

また、空間づくりのこだわりである「両面ガラス張りの暖炉」の壁面は、まるで彫刻のよう。これは、地元塗装会社がデザイン・施工を手掛けたもので、施設内で、同社の「作品」としての顔も持っています。「ただのショールームではなく、他の事業者の作品も取り入れることで、そこに関わりが生まれ、お互いの広告にもなる」(原澤社長)という言葉の通り、MAKINO-BAは、地元企業が手がけた作品が同じ空間に集まり、互いの魅力を自然と発信し合う場にもなっているのです。

「MAKINO-BA」原澤社長と暖炉
原澤太一社長。下方に写っているのがガラス張りの暖炉

資源循環を軸に、地域の事業が交わる場所へ

「自分が心から好きだと思える事業だからこそ、困難があっても最後までやり抜くことができる。そして、その熱意で周囲を巻き込み、事業に協力してくれる方たちを創り出していくことが一番大切だと思います」
原澤社長は、このように語ります。米作り、薪・薪ストーブ事業、そしてコワーキングスペース事業。一見バラバラに見えるこれらの取り組みですが、実は「南魚沼の自然資源を循環させ、次世代に残す」という原澤社長の強い思いのもと、見事な一本の線でつながっているのです。

既存の資産と地域のつながりを巧みに掛け合わせ、駅前の空き店舗に新たな明かりを灯したMAKINO-BA。庄治郎商会の挑戦は、これからの地方創生に多くのヒントを授けてくれたのではないでしょうか。


南魚沼市役所産業課(旧商工観光課)・当時のご担当者にうかがいました

――南魚沼市役所から原澤社長へ、ローカル10,000プロジェクト活用を提案されたそうですが、その背景をお聞かせください。

六日町駅前商店街では、空き店舗の増加や来街者の減少などが課題となっており、駅前の賑わい創出や新たな交流拠点の整備が必要と考えていました。
一方で、地域には新しいことに挑戦したい事業者や、地域資源を活かした事業構想を持つ方もおり、そのチャレンジを後押しする制度の活用を検討していました。
庄治郎商会様からMAKINO-BAの構想を伺った際、単なる薪ストーブショールームとしての店舗整備ではなく、起業支援や地域コミュニティの形成、多様な人材が交流する拠点として発展する可能性があると感じました。
その内容はローカル10,000プロジェクトが目指す「地域資源を活かした地域経済循環の創出」や「地域課題の解決」に合致すると考え、市から制度活用をご提案しました。
市としては、地域で挑戦する民間事業者の取り組みを最大限後押しし、その成果を地域全体へ波及させることを目的として提案したものです。


――実際に制度活用をご提案された後、原澤社長の事業構想をローカル10,000プロジェクトの要件である「地域課題の解決(公益性)」に結びつけるため、市としてどのようなアドバイスや議論をされましたか。

ローカル10,000プロジェクトでは、事業としての収益性だけでなく、地域課題の解決につながる公益性が重要な要件となるため、申請に向けた協議では、「この施設が地域にどのような価値を生み出すのか」という視点を事業者と繰り返し議論しました。
具体的には、
・起業・創業を目指す方が相談や交流できる環境づくり
・地域内外の多様な人材がつながるコミュニティ形成
・六日町駅前への新たな人の流れの創出
・地元事業者との連携や地域経済への波及効果
・山林の整備
といった点を整理し、事業の社会的意義を明確化していきました。
市として一方的に方向性を示したというよりは、事業者が本来持っていた地域への想いを言語化・整理し、制度趣旨に沿った形で事業計画へ反映できるよう伴走支援を行ったという認識です。


――庄治郎商会にとってMAKINO-BAは、本業と異なる分野への挑戦でした。市として不安などはありましたか。あったとすれば、どのようにそれらを払拭されたのでしょうか。


農業を本業とされる庄治郎商会様が、新たな分野へ挑戦されることについて、不安が全くなかったというわけではありません。
一方で、市としては、地域で長年事業を営み、地域との信頼関係を築いてきた事業者だからこそ実現できる事業もあると考えていました。
協議の中では、
・なぜこの事業に取り組むのかという目的
・継続的な運営体制
・地域との連携方法
・収益性と公益性の両立
などについて丁寧に意見交換を重ねました。
また、事業者自身が「地域に貢献したい」「駅前を盛り上げたい」という強い想いを持っておられたことが確認できたことも、大きな安心材料となりました。
異業種への挑戦というよりも、農業法人として培ってきた地域とのつながりや経営力を、新たな地域づくりへ活かす挑戦として捉えていました。


――今後、MAKINO-BAが、南魚沼市の地方創生や駅前全体の活性化にどのような波及効果をもたらすと期待されますか。 MAKINO-BAには、単なるコワーキングスペースやカフェではなく、人と人、人と地域、新しい挑戦をつなぐハブとしての役割を期待しています。
起業を目指す方やフリーランス、学生、地域事業者など、多様な人材が日常的に交流することで、新たな事業や地域活動が生まれるきっかけとなることを期待しています。
また、駅前に新たな目的地が生まれることで来街者が増え、周辺店舗への回遊や消費拡大など、駅前全体への波及効果も期待しています。南魚沼市では、行政だけで地方創生を進めることには限界があります。
民間事業者が主体となって新たなチャレンジを行い、それを行政が後押しすることで地域全体の活力につなげていくことが重要だと考えています。
MAKINO-BAがその象徴的な事例となり、今後さらに新たな挑戦が地域内で生まれる好循環につながることを期待しています。


コワーキングスペースMAKINO-BA

名称 MAKINO-BA
住所 〒949-6680 新潟県南魚沼市六日町140
営業時間 24時間
定休日 なし
公式サイト https://makino-ba.com/
Instagram https://www.instagram.com/makino_ba.coworking/

MAKINO-BAの運営会社

名称 株式会社 庄治郎商会
代表者 代表取締役 原澤 太一
住所 〒949-6411 新潟県南魚沼市上十日町337-1
連絡先 TEL:025-788-0866
FAX:025-788-0301
公式サイト https://shojiro.co.jp/
Instagram https://www.instagram.com/shojiro_farm/
オンラインショップ ≫では、自社栽培の南魚沼旧塩沢こしひかり「庄治郎」や日本酒、餅などを販売しています。
また、薪・薪ストーブ専門事業「S Living Design ≫」も展開しています。

ローカル10,000プロジェクトとは

事業者や地方自治体、金融機関などの連携により、地域の資源と資金を活用して地域に雇用を生み出す地域密着型事業の立ち上げを支援する総務省の補助事業(補助金)です。事業が採択されるためには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 地域密着型:地域の資源を活用する事業であること
  2. 地域課題への対応:公共的な課題の解決につながる事業であること
  3. 地域金融機関等による融資:公費による交付額と同額以上の融資(原則として無担保)を受けること
  4. 新規性:事業者にとって新規事業の立ち上げであること
  5. モデル性:地域の中で前例がなく、モデルとなる事業であること

資金構成としては、公費(国費+地方費)、地域金融機関による融資、自己資金を組み合わせます。支援対象となるのは、民間事業者の初期投資費用(施設整備費、機械装置費、備品費など)です。

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