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政策解説

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2026.08.24

骨太方針2026×成長戦略 国が投資をけん引する時代へ 中小企業・スタートアップはどう備えるか

政府の重要な方針である「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針」と「日本成長戦略」がこのほど閣議決定されました。ニュース等では「数百兆円規模の投資」といった言葉が報じられていますが、今回の決定の最大のポイントは、長年続いてきた緊縮志向・未来への投資不足から大きく舵を切り、政府が自ら一歩前に出て大胆な投資を行う「責任ある積極財政」へと歴史的な転換を遂げたことです。
この方針転換によって、国が今後どのような分野に重点的な投資(補助金や税制優遇、公共調達等の強力な支援策)を行い、ビジネスのルールをどのように変えていくのか、方向性が示されました。これは、中小企業やスタートアップの皆さんにとって、今後の事業展開を左右する重要な指標となります。 本記事では、国の大規模な計画が皆さんの事業にどのような影響を及ぼすのか、どこに新たなビジネスチャンスや公的支援獲得のヒントが隠されているのかを読み解きます。

骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)

政府の経済財政運営の基本方針を示す重要な文書として毎年公表され、国の予算編成や制度改正の土台となる「国の大方針」です。

会議の位置づけ
総理大臣が議長を務める経済財政諮問会議で有識者らを交えて議論・答申され、閣議決定される政府の最重要文書です。

2026年のハイライト
高市内閣においては、「『責任ある積極財政』元年~日本の挑戦を起動する!~」という副題が掲げられました。これまでの緊縮志向を根本から改め、2040年度に名目GDP1,100兆円に迫る強い経済の構築と、財政の持続可能性(債務残高対GDP比の安定的低下)を両立させる仕組みが示されています。


日本成長戦略

日本の経済成長を実現するための具体的な道筋を示した計画です。国が注力する「17の戦略分野」を指定し、どこに官民の投資を集中させるかを定めています。

会議の位置づけ
内閣に設置された「日本成長戦略本部」(本部長:総理大臣)の下で開催される「日本成長戦略会議」において、学識経験者や企業関係者を交えて議論され、閣議決定される国家戦略です。

2026年のハイライト
先端技術を花開かせる成長投資と、経済安全保障等のリスクを最小化する危機管理投資に徹底的に注力するとしています。具体的には、国が注力する17の戦略分野と62の主要な製品・技術等を厳選し、2040年度までに累計370兆円超の官民投資を想定した「官民投資ロードマップ」を策定しました。

2つの関係性のまとめ

「骨太の方針」が国の財政や経済運営の全体的な枠組みやルール(予算の作り方や財政の健全性など)を決めるのに対し、「日本成長戦略」はどの分野にどう投資して具体的にどう経済を成長させるか(攻め方)を定めたもの、という位置づけになります。 両者は密接に関わっているため、合同会議で一緒に議論され、車の両輪として日本の政策を動かしています。

第1章:国の投資が民間・地方へ波及する

1.1 国が率先して動き、民間投資をけん引

現在、アメリカや欧州など世界各国では、市場に委ねるだけでなく、国主導で巨額の財政支出を伴う産業政策を展開する「投資の大競争時代」に突入しています。こうした世界的な潮流の中で、国は長年の「未来への投資不足」が、日本の科学技術力や産業競争力といった成長の基盤を弱体化させてしまったと、極めて厳しい現状認識を示しています。これが、今回の骨太方針の特徴の一つです。

このままでは日本が成長の機会を失ってしまうという強い危機感から、これからは国が一歩前に出て、民間企業の投資を強くけん引する方針に切り替えたのです。国が巨額の予算を投じて戦略分野の新たな市場やサプライチェーンを構築していくため、そこに自ら参画していく中小企業・スタートアップには、巨大なビジネスチャンスが直接的に生まれます。
また、国が新しい技術の「最初のお客さん」となって市場を立ち上げるため、国や自治体による公共調達(製品やサービスを購入する機会)が拡大していくことも大きな追い風となります。

1.2 投資効果は地方の中小企業へも

さらに今回の計画では、国の巨大な投資が大都市や一部の大企業に集中しないよう、地方の中小企業にも直接的な成長資金の供給やインフラ整備が一体的に行われる仕組みが用意されています(※詳細は第3章で解説します)。地方を拠点とする企業にとっても、事業拡大の機運が大きく高まる内容となっています。

第2章:救済目的から投資目的へシフトする補助金

国が投資主導へと舵を切ることに伴い、今後の各種補助金や支援策の性格も大きく変わります。一言で言えば、これまでの「困っている企業への単発の支援(救済)」という性質から、「賃上げやAI活用に本気で取り組み、自ら成長しようとする企業への継続的な投資」へのパラダイムシフトです。
なお、「日本成長戦略」では「現状維持ではなく、事業再編等に取り組む企業を徹底的に支援する」と明記されており、M&A等による企業再編や成長産業への人材移動を国が強力に後押しする方針も示されています。これは、単に今の事業を続けるだけでなく、必要であればM&Aによる統合や事業承継といった前向きな再編も成長の手段として捉え、自ら変革に挑む企業に対しては規模を問わず国が徹底的に支援していく(逆に言えば、現状維持のままでは国からの成長資金を引き出しにくくなる)という、明確なメッセージを意味しています。
こうしたシビアな方針転換の中において、具体的に以下の3つの変化が起こり得ます。

2.1 重要分野は複数年にわたり予算化

これまでのように単年度で変更されることが多かった支援(補正予算頼み)を見直し、国が重要と認めた分野には複数年で腰を据えて予算をつける「『強く豊かな日本』投資枠」という新しい枠組みが創設されます。重要分野の中核は、次章で紹介する「17の戦略分野」です。
「『強く豊かな日本』投資枠」においては、予算要求の上限(いわゆるシーリング)をあえて撤廃して必要な額を確保するという、国の異例の本気度も示されています。これにより、企業は「この枠組みは継続される」という予見性を持ち、中長期的な設備投資計画を立てやすくなるでしょう。

2.2 賃上げした企業は補助金等の審査でより有利に

国は賃上げを最重要課題としています。今後は各種補助金の審査において「足元の賃上げ状況」が厳しく評価されるようになり、早期の賃上げを促す仕組みに見直されます。また、積極的に賃上げを行う中小企業を重点支援するため、税制も含めた効果的な措置が検討されます。補助金は単なる支援金ではなく、「要件を満たし、成長を目指す企業への投資」へと性格が変わります。

2.3 競争力強化へAXを推進

人手不足解消のための省力化だけでなく、国は全産業の競争力強化の鍵として「AX(AIトランスフォーメーション)」を推し進めます。中堅・中小企業向けの補助金においてAX投資が重点支援され、AI導入に意欲的な中小企業には、地域の支援機関などのネットワークを通じた手厚い伴走支援が用意されます。

【これからの補助金スケジュールの目安(タイムライン)】

8月末頃:「概算要求」(各省庁が来年度に必要な予算を要求)

年末頃:予算編成・税制改正大綱決定(予算や税制のルールが決定)

来春以降:新しいルールに基づく補助金の「公募開始」

第3章:国が注力する戦略分野と地域・スタートアップへの波及

3.1 2040年までに官民で370兆円超をつぎ込む

国は2040年までに官民合わせて累計370兆円超の投資を見込む「17の戦略分野」を指定しました。たとえば、エネルギーの常識を変える「次世代型太陽電池(資源・エネルギー安全保障・GX分野)」や、次世代の移動手段となる「空飛ぶクルマ(航空・宇宙分野)」など、幅広い産業が対象となっており、これらに関連するビジネスには強い追い風が吹くことが予想されます。
この17分野のラインナップからは、単なる景気対策ではない、国の明確な生存戦略と2つの大きな傾向が読み取れます。

① リスクを最小化する「危機管理投資(守りの投資)」:エネルギーや食料、サイバー空間など、海外に依存しすぎると有事の際に国の存立に関わる分野に対する投資です。他国への過度な依存から脱却し、日本の自律性を確保するという強い危機感が表れています。

② 先端技術を花開かせる「成長投資(攻めの投資)」:日本の強みであるモノづくり(素材・ロボット等)やコンテンツ(アニメ・ゲーム等)などをさらに伸ばす投資です。日本の技術で世界共通の課題を解決し、世界から「日本がないと困る」と言われるような不可欠性を獲得しにいくという、世界市場を取りに行く攻めの姿勢が読み取れます。

つまり、この17分野は日本が自活していくための防具(自律性)であり、世界で稼ぐための武器(不可欠性)でもあります。だからこそ第2章で触れた通り、これらの分野に対して複数年にわたる巨額の予算(投資)を打ち出したのです。

注目分野と商機を探る

国が巨額の予算を投じる17分野のうち、中小企業やスタートアップにとって身近なビジネスチャンス(商機)が生まれやすい分野の例をまとめました。

注力分野 中小・スタートアップにおいて想定される商機
(ビジネスチャンス)
関連キーワード
AI・ロボット(フィジカルAI) 製造業、物流、介護、建設などの現場における無人化・省力化技術の開発や、それらの現場への導入支援。 省力化、AX、AIロボット
サイバーセキュリティ 企業の対策状況を評価する「SCS評価制度」の開始に伴う、ITベンダー等によるセキュリティ導入・運用支援需要の増加。 SCS評価制度
フードテック(食品機械・新規食品) 食品産業の人手不足を解消する加工・鮮度保持機械の開発や、非動物由来たんぱく食品などの新しい食品開発。 省力化、鮮度保持、代替たんぱく質

SCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)

大企業などからの委託先である中小企業等のセキュリティ対策状況を、専門家の確認や第三者評価を交えて「星の数(段階)」で分かりやすく可視化・評価する新しい仕組みです。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が運営し、2026年度末頃の運用開始を予定しています。
サプライチェーンの弱点(下請け企業等)を狙ったサイバー攻撃を防ぐ狙いがある一方で、中小企業にとっても、取引先ごとにバラバラだったセキュリティ要求(チェックシート等)がこの星マークに統一されるため、対応の手間やコストが大幅に削減されるというメリットがあります。

出典:内閣官房の、日本成長戦略本部/日本成長戦略会議に関するページに掲載されている「2040年の未来の絵姿(イメージ)」

3.2 大規模投資を地方へ呼び込む「新たな産業クラスター」計画

上記の17分野に対する国の巨額投資を、大都市だけでなく地方へ波及させるための仕組みが「地域未来戦略」です。産業クラスター(関連する企業や研究機関などを特定の地域に集積させる政策)自体は以前から存在していましたが、今回は「17の戦略分野における大規模な危機管理投資・成長投資」を起爆剤として位置づけている点が大きく異なります。この投資を核として、サプライチェーン上の関連企業への支援や、鉄道・港湾などのインフラ整備を地域ブロック単位で一体的かつ集中的に行う「戦略産業クラスター計画」など、より強力で具体的な枠組みが新設されました。

ただし、地方のすべての企業が自動的にこの恩恵を受けられるというものではありません。国や自治体が主導して特定の分野と地域を取捨選択して投資を集中させる仕組みであるため、企業自ら積極的にクラスターの輪に入り込み、チャンスを取りに行く行動が求められます。具体的には、以下の3つのステップで動くことをお勧めします。

3.3 大規模投資を自社で活かすための3つのステップ

STEP1:自社が所在する自治体の「推し分野」を調べる

まずは、自社の都道府県や市町村が、何の分野のクラスターを作ろうとしているか(あるいは既に作っているか)を調べます。

STEP2:自社のビジネスとの「接点(参入余地)」を探す

地元の推し分野が分かったら、それが自社のビジネスとどう結びつくか考えてみましょう。例えば地元に半導体や次世代エネルギーの巨大工場ができる場合、直接部品を納入できなくても、工場を稼働させるための設備のメンテナンス、従業員向けのシステムやサービスの提供、周辺の物流など、巨大なサプライチェーンのどこかに自社の強みを活かせる接点がないかを洗い出します。

STEP3:地域の支援機関や金融機関に具体的に相談する

接点が見えてきたら、商工会議所・商工会、地域のよろず支援拠点、あるいは取引のある地域金融機関(地方銀行や信用金庫など)に相談してみましょう。「県が推している〇〇クラスターの周辺事業に、自社のこの技術で参入したいが、使える成長支援策や補助金はないか」と具体的に相談し、国や自治体からの成長資金(投資)を効果的に引き寄せましょう。

出典:内閣府のウェブサイトに掲載されている資料「骨太方針2026PR資料~政策ファイル~」

3.4 スタートアップの武器「SBIR制度」の抜本強化

ここまで解説した17分野などにおいて、新たな技術を社会実装する先導的な担い手として国が強く期待しているのがスタートアップです。その事業化を強力に後押しする横断的な施策として、「SBIR制度」が抜本強化され、新たに「戦略製品・技術等政府実装加速化プログラム」が創設されます。
これは、スタートアップが開発した製品・技術を国がテスト導入して終わるのではなく、売上計上が可能な委託契約の形で、実際の環境での運用・検証(実証)を行い、本格調達(売上)へとつなげる道を開くものです。

SBIR(Small/Startup Business Innovation Research)制度

スタートアップ等による革新的な研究開発から社会実装までを、国が一貫して支援する制度です。従来の補助金のように「開発資金を出して終わり」ではなく、開発した製品や技術を国が実際の環境で試験導入・運用し、最終的な本格調達(国の購入)にまでつなげることを目指す点が大きな特徴です。国という巨大で安定した組織が「最初の顧客」となって伴走してくれるため、スタートアップにとって実績作りやスケールアップの強力な足がかりとなるでしょう。

3.5 スタートアップの売り込み術

「国に売り込むツテがない」「入札の実績要件が厳しくて参入できない」といったスタートアップ側の課題を解決するため、国が自ら「安定的な大口顧客(アンカーテナンシー)」となるべく、以下のような具体的な仕組み(接点)が国主導で用意されます。

実証フィールドの提供とフィードバック

地方公共団体などのユーザーに製品を試験的に一定期間利用してもらい、実際の現場からの評価やフィードバックを得て製品を磨き上げる仕組みが構築されます。

新しい契約指針の策定

過去の実績や企業規模が重視されがちな行政の調達において、スタートアップが参入しやすくするための新しいルール(契約指針)が策定・運用されます。

国からのニーズの提示と接点創出

例えば防衛分野では「防衛省版SBIR制度」が新設され、頻繁なピッチイベント等を通じて国から具体的な課題(ニーズ)が提示され、スタートアップの関心を喚起する仕組みが導入されます。

17分野等に挑戦するスタートアップにとって、こうした制度の強化は、国という「巨大な顧客」を獲得し、一気にスケールアップするための極めて重要な機会となります。

第4章:知っておくべき法制度・取引環境の変化

4.1 価格交渉・取引適正化への監視強化

国や地方自治体が民間企業から物品やサービスを購入する「官公需(かんこうじゅ)」において、原材料費や労務費の上昇分を適切に価格に上乗せして発注するよう調達ルールを抜本的に見直す「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」が実行されます。

また、民間取引においても、下請け企業が適切に価格転嫁(値上げ)を行えるよう、取引Gメンの拡充など国主導で監視や指導が強力に推進されます。

これは、国が「正当な値上げ」の強力な後ろ盾になることを意味します。これまで「取引を切られるのが怖くて値上げを言い出せなかった」という中小企業も、この機を逃すべきではありません。原材料費やエネルギーコスト、さらには従業員の賃上げに必要な労務費の上昇分を正確に算定し、元請け企業や発注元に対して客観的なデータに基づき、堂々と価格交渉(値上げの申し入れ)を行うべきタイミングが来ています。

4.2 制度やルールに関する情報のアップデートを

前述した価格交渉といった取引環境の改善が進む一方で、企業の成長基盤を強化するための法制度やルールも次々とアップデートされています。本項では、今後の経営に直結する「M&A・事業承継」と「知的財産・ガバナンス」の分野において、企業が知っておくべき新たな支援策や制度化の動きを解説します。

M&A・事業承継

企業の「稼ぐ力」を強化するため、中小企業のM&Aや事業再編が後押しされます。あわせて、M&A支援の質を高め、悪質な業者を排除する(規律を向上させる)目的で、支援を行う個人の資格制度の創設や、支援機関登録制度の法制化が検討されています。
これにより、今後は確かな倫理観と専門知識を持つ、信頼できる支援者(アドバイザー等)を見極めて活用していく視点が企業側にも求められます。

知財・ガバナンス

この分野では、大きく分けて「攻めの知財支援」と「新しい企業ルールの導入」の2つの変化が起こるため、企業が専門家を頼る場面が増えそうです。

① 攻めの知財支援と専門家派遣
特許などの知的財産を単に守るだけでなく、どうすれば他社に真似されず、自社の収益(ビジネスモデル)に直結させられるかという「知財戦略の構築」への支援が強化されます。
また、ベンチャーキャピタル(VC)などの投資機関に対し、国が支援して「知財の目利きができる専門家」の派遣・マッチングを充実させます。これにより、投資機関がスタートアップの隠れた知財価値を正しく評価して資金を出しやすくなるため、企業側も弁理士などの専門家を活用し、自社の知財価値をしっかりとアピールすることが資金調達の鍵となってくるでしょう。

② 企業統治ルールの改訂(ガバナンス・コード等の普及)
上場企業などが守るべきルールブックである「コーポレートガバナンス・コード」が改訂されました。今回の改訂では、「目先の利益やコスト削減(短期主義)ばかりを追うのではなく、中長期的な企業価値向上のために成長投資を具体的にどう行うのか説明しなさい」という原則が盛り込まれました。
さらに、その実践マニュアルにあたる「成長投資ガイダンス」をとりまとめ、公表しました。企業はこれらの新しいルールに対応するため、自社の成長投資や事業の切り離しをどう進め、投資家にどう説明すべきかといった点などを状況に応じ士業やコンサルタントと確認しておくことも必要でしょう。

労働ルール(柔軟な働き方への対応)

「つながらない権利(休日や勤務時間外に、職場からのメールや電話などの連絡を拒否できる権利)」の導入や、裁量労働制(実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた時間を働いたとみなす制度)の見直し、副業・兼業の促進など、多様な働き方に合わせた「労働時間法制(勤務時間や休日、フレックスタイムなどを定める法律)」の議論がこれから本格化します。
これにより、企業によっては、自社の就業規則や労務管理の仕組みを根本から見直す必要に迫られそうです。社会保険労務士などの専門家と、制度設計などを確認しておきましょう。

コラム:「責任ある積極財政」―相反するロジックは成り立つのか

骨太方針において国は、令和9(2027)年度を「責任ある積極財政元年」と位置付けました。通常、「積極財政(政府の支出拡大)」と「責任(財政の健全化)」は相反する概念ですが、政府がこれを「両立できる」と主張する背景には、財政健全化を測る「ものさし」の転換があります。
そのカラクリは、「国が戦略的な投資を行って民間投資(2040年度に250兆円目標)の呼び水とし、経済成長によって税収を自然増させる」というものです。たとえ国の投資で借金の「絶対額(分子)」が一時的に増えたとしても、それ以上のスピードで経済全体のパイである名目GDP「(分母)」を大きくすれば、「GDPに対する借金の割合」は安定的に下がっていく、という拡大均衡のロジックに基づいています。
しかし、一見完璧に見えるこのシナリオに対しても、政府の会議等では以下のような厳しい見方や課題が提示されています。

1.「呼び水」に企業が乗るのか

国の計画は、あくまで巨額の民間投資が起きることが前提です。長年コスト削減を優先してきた日本企業が、政府の狙い通りに投資主導へと経営の方向性を切り替えられるかが最大の鍵となります。万が一、目論見通りに民間投資が誘発されず経済が成長しなかった場合、分母(GDP)が拡大せず、分子である「国の借金」だけが重くのしかかるという財政悪化のリスクも孕んでいます。

2.過去の失敗を繰り返すのではないか

民間の有識者議員からは「過去の官製ファンド(クールジャパン機構など)の事例が示すように、明確な規律や出口戦略なき資金供給は失敗する」と厳しい指摘が飛んでいます。これに対し国は、17分野を一つの投資群(ポートフォリオ)として管理し、投資誘発効果の薄い予算は柔軟に見直す(厳格なPDCAサイクルを回す)という規律で臨む姿勢を明確にしています。

3.慢性的な人手不足と市場の目(金利)

政府の計画は「楽観的すぎるのではないか」という厳しい意見も出ています。そもそも現在の日本は労働供給制約社会であり、いざ国の投資を呼び水に動こうとしても、現場の技術者や労働者が圧倒的に不足しているという構造的な課題があります。さらに、金利が上がれば国が抱える借金の利払い費(返済額)も膨らみ、財政を圧迫しかねません。こうした人手とお金の現実的な制約(リスク)に対する市場や有識者の危機感も強く、政府には極めて慎重な舵取りが求められます。

【企業はどう動くべきか?】

このように、国の野心的な方針には大きな期待と現実的なリスクが入り混じっています。だからこそ、企業に求められるのは、国の動向を手放しで楽観視するのではなく、自社のビジネスに及ぼす影響を冷静に見極める視点です。その上で、①国が用意する巨額の支援策やルールの変化を「自社が飛躍するためのチャンス」として最大限に活用する、②単にコスト削減に注力するのみならず、自ら主体的に投資や行動を起こしていく「稼ぐ力」を意識する。このようなマインドセットの転換こそが、これからの時代を生き抜く鍵となるでしょう。

第5章:今すぐ取り組むべき次の一手

コラムで触れたように、国の計画には乗り越えるべき課題も存在します。しかし、国が巨額の予算を動かし、「ここに市場を作る」「こういうルールに変える」と決定した事実は動きません。国の方針が動く以上、そこには新しい需要や活用できる補助金が生まれるはずです。その点を冷静に捉え、自社のビジネスにしたたかに活用していく姿勢が求められます。
では、具体的にわたしたちは、どのような行動をとるべきでしょうか。考えうる次の一手をまとめました。

中小企業(製造業・サービス業等)のかた

賃上げと省力化(AI・IT)の自社目標をセットで検討し、中長期的な設備投資計画を立てる。今後は秋の補正予算頼みから、複数年にわたる当初予算へと国の支援サイクルが変わるため、単発の補助金待ちではなく、腰を据えた投資計画の準備が重要になりそうです。

スタートアップのかた

国や自治体のSBIR制度や公共調達の公募情報をチェックする体制を整え、行政との協働(産学官の連携など)を視野に入れておきましょう。

士業・コンサルタントのかた

クライアント向けにAX(AI活用)導入や、価格転嫁・賃上げに関する現状診断や支援パッケージを準備します。あわせて、補正予算ありきだった顧客の補助金マインドを、中長期の成長投資へと導くアドバイスが求められそうです。

当ポータルサイトでも、国の予算や支援策の最新動向を随時お届けしてまいります。

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