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2026.10.30

カスハラ対策・就活セクハラ防止措置が義務化 企業が対応すべきポイントと実務チェックリスト

令和8年(2026年)10月1日より、改正労働施策総合推進法および改正男女雇用機会均等法に基づき、「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」および「求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)対策」の防止措置がすべての事業主に義務付けられました。これらの制度は、顧客等からの過度な言動や採用活動中のセクハラから労働者や求職者等を保護し、安全で健全な職場環境の整備を促進するために強化されました。

本記事では、今回の法改正で企業に求められていることや、対応すべき実務ポイントを分かりやすく解説します。

この記事のポイント

企業が対応すべき実務は、大きく以下の3つのアクションに集約されます。

アクション1:ルールをつくる・示す(方針明確化・ルール策定)
  • カスハラに屈せず労働者を保護する基本方針の策定と社内への周知(顧客等、社外への方針提示も推奨)
  • 採用活動における面談ルール(面談時間や場所を適切に指定すること、複数人で対応すること、やり取りに用いるSNSの種類を指定すること等)の作成と周知
  • 特に悪質な事案に対する対処方針(退店要求や出入り禁止等)の策定と周知
アクション2:体制を整える(窓口設置・マニュアル作成・外部連携)
  • 労働者用および求職者用の相談窓口をあらかじめ指定することと周知
  • 現場で一人に抱え込ませない初動対応マニュアルの整備(複数人対応、録音・録画の個人情報保護対応、警察連携等)
アクション3:守る・繰り返さない(事後対応・プライバシー保護・再発防止)
  • 事実関係の迅速な確認、被害者ケア(担当変更、メンタルヘルス配慮等)、必要に応じた行為者への措置および再発防止
  • 相談者のプライバシー保護規定の明記と、相談や調査協力を理由とする不利益取扱いの禁止

第1章:なぜ義務化? 制度変更の背景と変化

1.1 法改正の社会的背景

  • カスハラ対策義務化の背景:顧客や取引先等からの不当・過度な言動やSNS上での誹謗中傷により、労働者の就業環境が害され、メンタルヘルス不調や離職につながる事案が増加しているためです。
  • 就活セクハラ対策義務化の背景:採用面接やインターンシップ、OB・OG訪問などにおいて、求職者等の立場を利用した性的な言動が行われ、求職活動等の意欲や機会が阻害される問題が深刻化しているためです。

1.2 何が変わったのか?

「社内」のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント防止措置は、これまでも法律に基づきすべての企業に義務付けられていました。今回の法改正における最大の変化は、「社外」の顧客や雇用契約前の求職者等へと一歩外側に大きく広げられた点にあります。ハラスメント防止措置義務の適用範囲の違いは、以下の通りです。

ハラスメント種別 令和8年9月30日まで 令和8年10月1日以降 誰による言動か 保護すべき対象者
パワハラ / セクハラ / マタハラ 義務 義務 自社の役員・上司・同僚
(※セクハラは従来から取引先等も含む)
自社の全労働者
(正社員・パート・派遣等)
カスタマーハラスメント 努力義務・推奨 義務化(新設) 顧客・取引先・施設利用者等(社外の者) 自社の全労働者
(正社員・パート・派遣等)
求職者等セクハラ 配慮・努力義務中心 義務化(新設) 自社の役員・従業員・面接官等 求職者・インターン生・教育実習生等
(雇用契約前の者)

第2章:具体的に何をすべき?カスハラ・就活セクハラ対策の実務

企業には①方針の明確化、②相談体制の整備、③迅速な事後対応、④悪質事案に対する措置、⑤プライバシー保護・不利益取扱い禁止の5つのカテゴリの措置が求められます。これらを踏まえ、企業が準備・実践すべきカスハラ対策と就活セクハラ対策の具体的なポイントを順に解説します。

2.1 カスハラ対策:定義の理解と初動対応体制の整備

カスハラの定義(3要件)

①顧客等の言動、②業務の性質等に照らし社会通念上許容される範囲を超える、③労働者の就業環境が害される、のすべてを満たすものを指します。電話やSNS・インターネット上の行為も含まれます。

  • 正当な苦情・要望との違い:商品・サービスへの正当な苦情や申し入れ、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の申し出などは原則としてカスハラに該当しません。
「顧客等」の広範な範囲

購入客だけでなく、取引先の担当者、施設利用者やその家族、近隣住民、問い合わせ者、潜在顧客なども含まれます。

  • 「顧客等」の広範な範囲:購入客だけでなく、取引先の担当者、施設利用者やその家族、近隣住民、問い合わせ者、潜在顧客なども含まれます。
初動対応マニュアルの例
  • 可能な限り一人で対応させず、上司・管理監督者が交代または複数人で対応する。
  • 録音・録画を行う場合は個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う。必要に応じた利用目的の通知・公表や、カメラ作動中であることが容易に認識できる措置を講じること等が想定されます。
  • 繰り返しの不当要求には、一定時間経過後に退店を要求したり電話を切ったりする。
  • 暴行や脅迫等の犯罪行為は警察へ通報し、悪質事案には警告文発出や出入り禁止措置、弁護士との連携を検討・実施する。

2.2 就活セクハラ対策:対象範囲・面談ルール・相談体制


「求職者等」の範囲:採用応募者、インターンシップ参加者、就職説明会参加者、OB・OG訪問者、教育実習生・看護実習生などが含まれます。対面だけでなく、個人のSNSやオンライン面談上の性的な言動も対象です。

【企業があらかじめ策定し、社内および求職者等へ周知すべきルールの例】
  • 面談時間および場所の適切な指定:
    ・面談等の実施時間(例:原則として9時~18時の営業時間内に限る等)や、実施場所(本社会議室、社内打ち合わせスペース、オンライン、カフェ等のオープンスペースなど会社が指定した場所)を明確に定める。
  • 面談・選考の実施体制の明確化:
    ・会議室などの閉じられた空間で面談を行う場合は必ず複数人で対応する、あるいは第三者の目が届く環境で実施するなど、ハラスメントを未然に防ぐ体制を構築する。
  • やり取りに用いるSNS等の種類の指定:
    ・求職者等とのやり取りに用いるSNS等の種類を指定する。たとえば、個人の私的SNSを使用せず、会社の公式メールや採用システムに限定することが考えられます。
  • 求職者向け相談窓口の設置と周知:
    ・採用サイトやパンフレット等に相談窓口(電話・メール等)を明記する。採用担当者(人事)への相談をためらう場合にも配慮し、コンプライアンス室など人事担当者以外を窓口に指定することも有効とされる。

▲厚生労働省が運営する職場のハラスメント対策に関する総合情報ポータルサイト「あかるい職場応援団↗」では、ハラスメントの定義や法律に関する基礎知識、実際に裁判で争われた事例、他の企業が取り組んでいる事例などを調べることができます。

第3章:法的フレームワークと実務セルフチェックリスト

3.1 措置を怠った場合の行政手続と法的リスク

企業が義務付けられたハラスメント防止措置を講じなかったり、問題を放置したりした場合には、行政からの指導・企業名公表といったペナルティや、民事上の損害賠償リスクが発生することがあります。法令上、主に以下の3つの手続き・責任が定められています。

  • 行政による指導・勧告と公表制度:都道府県労働局長は、ハラスメント防止措置の実施状況に関し必要があると認めるときは、事業主に対して報告を求め、助言、指導または勧告を行います。勧告に従わなかった場合には、その旨が公表される仕組みが設けられています。
  • 報告請求手続:厚生労働大臣(都道府県労働局長に委任)からの求めに対する報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合には、20万円以下の過料が科される規定が存在します。
  • 民事上の損害賠償リスク:適切な防止措置を講じず不当なハラスメントを放置した結果、労働者や求職者の心身に障害が生じた場合、民事上の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任が発生する可能性があります。

3.2 実務セルフチェックリスト

以下は、厚生労働省の指針や資料で提示されている義務的措置やモデル例をもとに作成した、企業向けの実務セルフチェックリストの一例です。社内規定の作成や現場マニュアル、採用ルールの改定にあたり、自社の対応を確認する際にご活用ください。

区分 確認チェック項目
基本方針・規定 □ カスハラ対策の基本方針(特に悪質な事案に対する退店要求や出禁といった対処方針)を定める。加えて、就活セクハラに関する懲戒規定を就業規則に定めて社内周知しているか
現場対応ルール □ 顧客対応マニュアル(初動、交代、録音録画、警察通報等)および報告様式があるか
採用面談ルール □ 採用面談ルール(実施時間帯、実施場所、連絡手段、複数人対応等)を定めて周知しているか
相談窓口の整備 □ 社員向け相談窓口に加え、採用サイト等に求職者向け窓口を明記しているか
事後対応・保護 □ 事実確認フロー、被害者ケア(担当変更等)、行為者への適切な措置・再発防止、プライバシー保護・不利益取扱いの禁止規定があるか
対象者の網羅性 □ 正社員のみを保護対象とするのではなく、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員も対象とすることを社内周知しているか

第4章:ハラスメントになる?ならない? ケーススタディで確認

(カスハラ):商品への強いクレームや返金要求は、すべてカスハラになりますか?

正当な苦情や申し入れは、原則としてカスタマーハラスメントには当たりません。 商品・サービスの不備に対する指摘や、一般的な範囲での謝罪・交換要求は原則として正当な苦情に該当します。ただし、過剰な損害賠償の要求、土下座の強要、長時間の居座りや大声での威圧・暴言が伴う場合は、カスハラに該当する可能性が大きいと考えられます。

(カスハラ):店舗で無断撮影されたり、SNSへの投稿をほのめかされたりした場合は?

撮影の中止指示を無視して撮影を続ける、プライバシーを侵害する、SNSやインターネット上に、店舗や従業員の悪い評判(悪評)や誹謗中傷を書き込むことをほのめかしたり・脅したりして、相手に強い心理的プレッシャー(圧力)をかける行為はカスハラに該当する可能性があります。
単に店内を撮影しただけで直ちにアウトとは言えませんが、従業員がやめるよう求めても撮影を続ける、個人情報を無断でSNSに晒すことなどは、社会通念上許容される範囲を超える言動と判断されます。

(就活セクハラ):OB・OG訪問やインターンシップ時に私的な食事に誘うのは?

求職者等の意に反する執拗な食事の誘いや、私的SNS(個人LINE等)の交換・連絡の強要は、就活セクハラに該当する可能性があります。 求職活動等(インターンやOG訪問など)の場面において、求職者の意に反して執拗に私的な食事へ誘う行為や性的な関係・交際を求める行為は、求職活動を阻害する性的な言動として禁止されます。

(就活セクハラ):面接で結婚や出産の予定を質問するのは就活セクハラですか?

性的な言動ではないため、原則として求職者等セクハラには該当しません。ただし、採用面接における不適切な質問に該当します。
性的な話題を尋ねるものではないため、一般的には求職者等に対するセクシュアルハラスメントに該当するとは限りません。しかし、「結婚したら退職するのではないか」「出産したら働けないのではないか」といった性別に関する固定観念や偏見につながりやすく、本人の適性・能力とは関係のない事項です。そのため厚生労働省は、公正な採用選考の観点から、このような質問は行うべきではないとしています。

まとめ

今やハラスメント対策は、企業にとって法令順守にとどまらず、優秀な人材の確保・定着と、企業のブランド価値・社会的信用の維持に直結する重要な経営課題となりました。社内規定や対応マニュアルを整えるとともに、現場の従業員や採用担当者が迷わず適切に行動できるよう、定期的な研修や相談窓口の周知を行い、実効性のある安全な組織風土を築くことが求められています。

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