
令和8年度が始まりました。深刻な人手不足に直面する中、様々な施策を講じて従業員の確保に努めている企業も多いことでしょう。国(厚生労働省)は、そういった企業の取組を支援する多くの助成金を設けています。今回から3回にわたって、企業が直面する「賃上げ」「人手不足」「仕事と家庭の両立」という3大課題を解決するのにおすすめの助成金を厳選してご紹介します。全3回のスタートとなる第1回は、「賃上げ・待遇改善」に直結する制度をピックアップします。
厚生労働省の助成金は企業規模に関わらず活用できるものも多数ありますが、中小企業が利用した場合には助成額や助成率が大幅に引き上げられたり、そもそも中小企業限定で用意されている制度も多かったりと、中小企業にとって有利な仕組みになっているのが大きな特徴です。記事の中では、そうした中小企業向けの優遇ポイントも含めて丁寧に解説していきます。
お悩み別「逆引き」ガイド
| 会社が抱えている課題・お悩みは? | チェックすべき記事 |
|---|---|
| パート従業員の「年収の壁」対策をしたい | 本記事(第1回)「賃上げ・待遇改善」編 |
| 従業員の残業削減や有休取得を促進したい | |
| 非正規社員の給与のベースアップをしたい | |
| 非正規社員を正社員に転換したい | 第2回「人手不足(採用・定着・育成)」編 |
| テレワーク等を導入して事務職の離職を防ぎたい | 第3回「仕事と家庭の両立」編 |
| 社員の育休中の業務をカバーできる体制を作りたい |
本記事における「中小企業事業主」の定義
| 業種 | 資本金等 | 労働者 |
|---|---|---|
| 小売業(飲食店含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※特例:医療・福祉(病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院など)については、資本金等に関わらず労働者数300人以下であれば中小企業事業主として扱われます。
申請はお早めに!(申請方法と注意点)
助成金は国の予算の範囲内で支給されるため、予算上限に到達次第、予告なく受付終了となる場合があります。
申請方法と期限について:
原則として、労働局やハローワーク等の窓口への持参、または簡易書留など記録が残る方法での郵送のほか、電子申請も可能です。なお、厚生労働省の助成金は制度によって期限のルールが大きく異なります。
- 「全国一律の事前申請(交付申請)締切日」が設けられているもの:働き方改革推進支援助成金(令和8年11月30日)など
- 「自社のアクションを起点とした個別の厳格な期限」が設けられているもの:キャリアアップ助成金(対象となる賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内)など。
電子申請について:
「GビズID」の事前取得が必要となります。助成金の種類によって利用するシステムが以下の2つに分かれていますのでご注意ください。
- 雇用関係助成金ポータル:キャリアアップ助成金など
- Jグランツ:働き方改革推進支援助成金など
共通要件について:
「労働保険料の滞納がない」「労働関係法令の違反がない」などを満たす必要があります。また、助成金の種類によって雇用保険や労災保険の適用事業所であることが求められます(例:キャリアアップ助成金は雇用保険、働き方改革推進支援助成金は労災保険の加入が必須です)。個別の助成金に関する詳細な要件や申請先は、必ず厚生労働省のウェブサイトを確認するようにしてください。
① キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)
目的と背景
パート従業員の「年収の壁」による働き控えに対応する助成金です。130万円の壁対策も強化されています。
【年収の壁】
- 106万円の壁:従業員51人以上の企業等で、年収が約106万円(月額8.8万円)以上になると社会保険の加入義務が生じ、手取りが減ってしまう問題。
- 130万円の壁:年収見込み130万円以上になると配偶者の扶養から外れ、自身で国民年金等の保険料を払うことになり、手取りが減ってしまう問題。
対象となる取組
短時間労働者が新たに自社の社会保険(厚生年金・健康保険等)に加入する際、保険料負担によって手取り収入が社会保険加入前の収入を下回らないよう、会社が労働時間の延長や賃上げ(基本給の増額)などの措置を行います。パート従業員が自身で市区町村の国民年金・国民健康保険に加入する場合は対象外となるため注意が必要です。
具体的には、労働時間を週5時間以上延ばすか、「労働時間を週2時間延ばす + 賃金を15%アップする」といったように、時間延長と賃上げを組み合わせて実施します。なお、短時間労働者労働時間延長支援コースでは、最低でも週2時間以上の労働時間延長が必要です。週1時間の延長では対象外となるため注意してください。
中小企業優遇ポイント
労働時間の延長等の取り組みにより、大企業の場合は1人あたり30万円ですが、中小企業は40万円、さらに常時雇用する労働者数30人以下の小規模企業であれば最大50万円が助成されます。さらに、2年目も継続して労働時間の延長やベースアップ等の取り組みを行い、次年度に2回目の支給申請をした場合には小規模企業25万円、中小企業20万円、大企業15万円の追加助成があります。
なお、106万円の壁に対応していた旧「社会保険適用時処遇改善コース」は、令和8年3月末をもって廃止されました。しかし、廃止前に同コースの取組を進めており、まだ支給申請を提出していない対象者がいる場合であれば、支給申請時に手続きを行うことで新コースへの切り替え(※新コース用の下記計画書や変更届は不要)も可能です。
【申請の前提条件】キャリアアップ計画の事前提出
対象となる従業員を社会保険に加入させる日の前日までに、労働局へ「キャリアアップ計画」を提出しておく必要があります。旧コースの計画届を提出済みの場合は、あらためて提出する必要はありません。
キャリアアップ計画とは?:会社が今後、非正規社員の待遇をどう改善していくか大まかな目標をまとめた書類です。従業員ごとではなく、会社が事業所単位で対象者をまとめ、一括して提出します。
対象労働者の要件:その労働者が、社会保険加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されており、かつ過去2年以内に同事業所で社会保険に加入していなかったことが条件です。

② キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
目的と背景
非正規雇用労働者のベースアップ(基本給の底上げ)を通じた待遇改善。
対象となる取組
非正規雇用労働者の基本給を定める規定を改定し、3%以上増額させた場合に適用されます。合理的な理由(職種別や雇用形態別など)があれば、一部の従業員のみを対象とすることも可能です。ただし、既存の賃金規定(賃金テーブルなど)を改定する場合、現在対象となる従業員がいない等級も含めて、その規定内の「すべての等級」を3%以上増額改定しなければならない点には注意が必要です。
中小企業優遇ポイント
大企業の場合は、賃金引き上げ率に応じて1人あたり2.6万円〜4.6万円が助成されますが、中小企業の場合は1人あたり4万円〜7万円が助成されます。
【申請の前提条件】
- キャリアアップ計画の事前提出が必須:賃金規定等を増額改定(賃上げ)する日の「前日」までに、労働局へ「キャリアアップ計画」を提出しておくことが求められます。
- 対象労働者の要件:賃金規定を増額改定した日の前日から起算して3か月以上前から継続して雇用されており、かつ、増額改定後も6か月以上継続して雇用されている(改定後の給与が6か月分支払われている)非正規雇用労働者であることが条件です。
③ 働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース / 勤務間インターバル導入コース / 業種別課題対応コース)
目的と背景
時間外労働の上限規制への対応として、生産性を高め、労働時間を減らしつつ利益を出すための環境整備を支援します。
時間外労働の上限規制とは?:法律で定められた残業時間の上限(原則として月45時間・年360時間)のことです。中小企業では2020年4月から適用されています。さらに、それまで適用が猶予されていた建設業、運送業(自動車運転の業務)、医師についても2024年4月から上限規制が適用されており、企業には厳格な労働時間管理が求められています。
【各コース共通】助成対象となる取組・経費
残業上限の設定や年休の計画的付与の導入等に向け、労務管理用ソフトの導入や、労働能率の増進に役立つ設備・機器の導入、外部コンサルティング費用への支出が対象となります。これらは以下のどのコースを選んでも共通して助成対象となります。
【コース別】対象となる取組(改善事業)と成果目標の選び方
働き方改革推進支援助成金を受け取るためには、労働時間を削減するための「①対象となる取組(改善事業)」を実施し、かつ、コースごとに定められた「②成果目標」をクリアする必要があります。助成されるのは、①の取組にかかった経費の一部です。
【① 対象となる取組(改善事業)の一例】(全コース共通)
まずは、いずれか1つ以上の取組を実施(経費を支出)する必要があります。
- システム・機器の導入:勤怠管理システムなどの労務管理用ソフトウェア、POSレジやリフトなど、業務効率を高める設備の導入
- 専門家等の活用:外部専門家によるコンサルティング、就業規則や労使協定等の作成・変更(社労士への委託等)、従業員向けの研修など
その上で、自社の課題に合わせて以下のいずれかのコース(②成果目標)を選択して申請してください。
- 労働時間短縮・年休促進支援コース:残業時間の削減(36協定の残業上限を月60時間以下に引き下げる等)や、有給休暇の計画的付与制度、時間単位の年休制度、特別休暇の新規導入をゴールとするコースです。
- 勤務間インターバル導入コース:休息の確保として、勤務間インターバル制度(退勤から次の出社までに9時間以上などの休息を設ける制度)の導入をゴールとするコースです。
- 業種別課題対応コース:2024年4月から上限規制が適用された建設業、運送業、病院等などの特定業種向けのコースです。残業削減やインターバル導入等に加え、建設業での週休2日制の導入や病院等での医師の働き方改革の推進といった業種独自のゴールを選択できます。
【助成額の計算方法と上限額の具体例】
働き方改革推進支援助成金は、対象となる取組(システム導入等)にかかった経費の「3/4(一定の条件を満たす場合は4/5)」が助成されます。ただし、達成した成果目標ごとに「助成上限額」が定められており、支給されるのは上限額の範囲内となります。
<助成上限額の具体例>
- 残業時間の削減(労働時間短縮・年休促進支援コース):36協定の残業上限を月60時間以下に引き下げた場合、助成上限額は最大100万円(引き下げ前の残業上限が月80時間超だった場合は最大150万円)となります。なお、建設業、運送業、病院等の特定業種向けである「業種別課題対応コース」を利用できる場合は、この上限額が最大200万円〜250万円へと特別に引き上げられます。
- 勤務間インターバルの導入(勤務間インターバル導入コース):退勤から次の出社までに11時間以上の休息時間を設ける制度を新規導入した場合、助成上限額は最大150万円となります。
<さらに賃上げで上限額が大幅アップ(賃上げ加算)>
上記の成果目標の達成とあわせて、従業員の賃上げを行うことで、助成上限額に特別加算が行われます。特に、人数の少ない小規模な企業が頑張って賃上げをした場合には、大幅な加算措置が用意されている点に注目です。一定割合(5%または7%以上)の賃上げを行った場合、加算される上限額の枠が通常よりも大きく跳ね上がるのです。具体的には、従業員10人〜30人の企業なら通常の2倍、従業員10人未満のより小さな企業なら通常の2.5倍と、規模が小さいほど手厚い加算が受けられる仕組みです。
これにより、引き上げた人数によっては数百万円単位(最大720万円)まで助成上限額が拡大するため、従業員の待遇改善を検討している企業にとっては非常に大きなメリットになります。
【申請の前提条件】
- 労災保険の適用と帳簿の整備:労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業主であることが必須です。また、すべての指定事業場において「年休管理簿」を作成している必要があります。就業規則の作成と労働基準監督署への届出が必須となるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場のみです。
- 機器の購入等は交付決定の後に:ソフトウェアや機器の導入等を助成金の対象にするには、まず「どのようなシステムを、いくらで導入し、どんな目標を達成するか」をまとめた事業実施計画を労働局に提出する必要があります。そして、労働局からその計画に対する「交付決定(=この内容で進めてOKという承認)」を受けた後に、実際の契約や購入を実施しなければなりません。なお、交付決定前に契約や購入を行った場合は助成対象外となるため注意が必要です。
> 次回は、人手不足に対応した助成金を紹介します。
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