
自社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みは十分なのだろうか、他社はどのようなことに取り組んでいるのだろうか。そのような疑問や不安を感じている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。取り組むべきDXの方向性やポイントを、実例を交えて紹介した「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」を、経済産業省がこのほど公表しました。「知識編」と「実践編」で構成され、DX推進成功のポイントとポイントに沿った企業の実践例が紹介されています。「こういう取組を、こういう順序でおこなっていけばよいのだな」ということを具体的にイメージしやすい、実用的なガイドブックと言えます。
DX関連補助金 解説記事

01 改めてDXとは
今や、かなり社会に浸透している「デジタル・トランスフォーメーション」という用語ですが、総務省の令和3年版「情報通信白書」によると、DXの概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授により提唱されたものだそうです。同教授のDXについての定義によると「ICT(情報通信技術)の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされていました。 「手引き2025」はDXを「顧客視点で新たな価値を創出していくために、ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組むことであり、単にデジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、企業経営の変革そのもの」と説明しています。現在は「変革」の視点が、DXを理解する上で大切なポイントとなっています。
デジタルツールを利用した業務環境に移行済みが半数強
ところで、DXに関する中小企業等の進捗は、どうなっているのでしょうか。2025年版「中小企業白書」第1部「中小企業の動向」第4章に「労働生産性・設備投資・デジタル化」の項目があります。この中に、デジタル化の取組に関する考察があり、2023年の民間のアンケート調査では、「紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態」と答えた事業者の割合が30.8%だったものの、2024年の調査では12.5%へと減少していました。「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態」と回答した割合は35.4%から52.3%へと増えています。
中小企業白書は、深刻化する人手不足や労働生産性の低迷、コスト上昇といった厳しい経営環境を踏まえ、構造的な課題を乗り越え持続的に発展するためには、従来のコストカット戦略から労働生産性や付加価値向上を目指す経営への転換が不可欠であり、そのためのデジタル化や適切な価格転嫁の推進が重要であると指摘しています。そして、デジタル化に取り組めていない中小企業・小規模事業者も一定数存在しており、DXの実現に向けて更なるデジタル化の進展が期待されると、DX推進の必要性に改めて言及しています。 なお、「デジタル化」という場合は、紙の情報のデジタル化や既存業務の効率化といった側面にとどまる場合が多いですが、DXはさらに進んで、ビジネスモデルや組織文化の変革までを目指す、より広範で深い取り組みであり、「手引き2025」が示す「企業経営の変革そのもの」と言えます。

デジタル化の取組段階については以下のとおり
段階4:デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
段階3:デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
段階2:アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態
段階1:紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
(出典:2025年版「中小企業白書」第1部)
2025年版「中小企業白書」解説記事
02 知識編と実践編で構成
「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」は、大きく分けて「知識編」と「実践編」という二つのコンテンツで構成されています。
- DXの進め方と、DXの成功のポイントについての基本的な知識の解説(知識編)
- 中堅・中小企業等のモデルケースとなるような先進的な取組事例(優良事例)である「DXセレクション」の紹介(実践編)
1. DXの進め方と、DXの成功のポイントについての基本的な知識の解説(知識編)
「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.1」を踏まえ、新たに作成されたものです。もともと経済産業省は、2020年11月に、企業のDXに関する自主的な取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表など、経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめていました。その後、改訂を経て、2024年9月に最新バージョン「3.0」を公表しています。

(出典:デジタルガバナンス・コード3.0)
他方、「デジタルガバナンス・コード」の中小企業等向けとして2022年4月に作成・公表されたのが「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」です。「中堅・中小企業等向け」も幾度かの改訂を経て、今回の「2025」版が最新版です。最新版は、より分かりやすく参考にしやすいよう、「DXの進め方」と「DXの成功のポイント」が簡潔にまとめられています。
2. 中堅・中小企業等のモデルケースとなるような先進的な取組事例(優良事例)である「DXセレクション」の紹介(実践編)
中堅・中小企業等のモデルケースとなるような優良事例として選ばれた「DXセレクション2025」全15社の取組内容の紹介となっています。
03 DXの進め方
それでは「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」の中身を見ていきましょう。
DXは大企業の話と思われることも多いですが、中小企業が取り組むことの意義もあります。「手引き2025」は、経営者の判断が迅速に反映される中小企業等の方が新たな取組を行いやすく、効果も出やすいため、デジタル活用による大きなアドバンテージを得やすいと指摘しています。
「手引き2025」は続けて、DXは中小企業等の課題である財務会計、勤怠・スケジュール 管理、在庫管理、顧客対応、工場や店舗のモニタリングなど、人手不足に直面する現場業務の大きな効率化につながるとした上で、全ての中堅・中小企業等にとって、DXに取り組むことは企業を存続させ、持続的に成長させるために必要不可欠な取組であると同時に、大きな成長の余地を秘めたチャンスであると、中小企業等におけるDX推進の意義・重要性を説いています。
DX実現へ4つのステップ
DX実現のプロセスについては一般的に、
①意思決定 ⇒ ②全体構想・意識改革 ⇒ ③本格推進 ⇒ ④DX拡大・実現
という4つのステップを継続的・戦略的に行っていくことが重要とされます。中小企業等においては、これらのプロセスを進めるにあたり内部人材の確保が困難な場合があるため、外部の支援機関を適切に活用することも必要です。
掛け声倒れで終わらせない!
注目すべきは、中小企業等の経営者の役割についての言及です。
- 目指すべき将来像や経営ビジョンを明確にする
- そのために解決しなければならない課題を整理する
- それらの課題を解決するために、何を・どう変えなければならないのか明確にする
- 変えるためにデジタル技術をどのように活用していくのか検討する
経営者の皆さんは、これらの手順を、中長期的な視点に立って整理していくことが求められます。そうしなければ、デジタル技術を導入すること自体が目的化したり、単に「AIを使って何か新しいことができないか」といった発想に陥ったり、単なる経営者の号令で終わったりしてしまうことが想定されると、「手引き2025」は警鐘を鳴らしています。
04 DX成功の七つのポイント
次に、DXの成功のポイントについて見てみましょう。具体的には、「DXの進め方」で挙げられたDX実現のための四つのステップを踏まえた七つのポイントが紹介されています。

経営者がリーダーシップを取ってDXを推進する
外部の視点の導入や適切な支援者との出会い、セミナー等での情報収集、業種や地域におけるコミュニティでの活動等により、経営者が変革に取り組むきっかけとなる気づきを得ることが大切です。
中長期的な視点を持って取り組む
DXは、新たなクラウドサービスの導入により立ちどころに業務上の課題が解決する、といったものではありません。中長期的(例えば5年後、10年後)にどうなりたいかというビジョンを明確にし、長い時間とコストを投じて変革に取り組むものです。
まずは身近なところから始め、成功体験を重ねる
身近なところ・取りかかりやすいところから着手します。例えば手書きの紙の台帳など、これまで紙で情報を管理していたものをデジタル化する/グループウェアを導入して全社員のスケジュール調整や勤怠管理を行い、従業員にDXの効果を実感してもらうといった取組を手始めに、業務プロセス全体やビジネスモデルの見直し、組織全体の変革へと徐々にステップアップしていきます。
データを分析・活用し、新たな価値を創出する
本格的に社内にDXの取組を広げるためには、全社横断でのシステムやツールの導入・運用を実施することが重要です。そして、導入した新システムやツールの稼働によって、データの収集・蓄積が可能となり、それらのデータを分析することによって、例えば、どの商品に対するクレームが多いかを分析し、改善すべき品の抽出とデータに基づいた商品の改善を行う/IoT(モノのインターネット)等で収集・蓄積したデータを活用し、新たに生産設備に関するシステムを開発する、といったことが可能になります。
DX推進過程の中で人材を育成する
DXに取り組む多くの企業では、ITベンダーやITコーディネータなど外部機関の支援をうまく活用することにより、社内に足りないノウハウやスキルを補完しています。また、デジタルネイティブ世代である若手従業員に、デジタル関連の様々な業務を経験させて新たな能力を見つけ出し、デジタル人材の内製化を図った企業もあるように、若手人材の活用も重要です。
継続的に変革を続け、DXの取組を拡大する
DXの目的は、顧客に対して新たな価値を提供することです。既存のビジネスモデルや組織の変革を通じて社会の変化や顧客のニーズに対応し、デジタル技術を活用しながら中長期的にも素早く変わり続けることができるようになった企業もあります。また、そのような企業は、DXに投じる資金をコストとして捉えるのではなく、重要な投資と位置付けており、必要な投資があれば適切に実施できる仕組み・体制づくりを経営者が率先して行い、DXの拡大を続けています。
支援機関等による伴走支援を活用する
従来の組織やビジネスモデルを変革させていくうえで、経営者にとって頼りになるのが伴走支援者の存在です。伴走支援者の役割は、外部の視点から経営者と対話を行い、経営者に気づきを与えることです。経営者は、伴走支援者との対話を通じて、自らが抱えている問題意識や課題をあぶり出し、会社の目的や経営ビジョンといった会社の根幹や方向性を明確にしながら、組織と経営者自身の自己変革力を高めていくことができます。
05 DXセレクション企業に見る実践例
ここまで、DXを進めるためのポイントなどを見てきましたが、各企業は実際に、どのような取組を行っているのでしょうか。経済産業省は令和3年度から、中小企業等のモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として選定しています。「手引き2025」では、DXセレクション2025のグランプリ企業以下、計15社の実践例が紹介されています。
以下は、グランプリを受賞した、山形県米沢市の建設業者の取組事例です。DX実現への四つのステップに沿って、取組の内容を見てみましょう。
※DXセレクションに関するウェブサイトでは、グランプリ・準グランプリ企業の取組を紹介した動画を見ることもできますので、ぜひ、参考にしてみてください。
これらのステップを一つずつクリアすることで、残業時間が2021年の一人当たり123時間から2024年には108.7時間に減少した/クラウドサービスを活用した工事現場の品質チェックシートやデジタル管理により、現場の業務品質が向上した/取引先との契約・発注・請求などの事務手続きをデジタル化し、協力業者の業務負担を軽減した/「全員DX」の推進により、現場からの改善提案が経営に反映されるボトムアップ型の文化が定着した、といった成果が出ているといいます。
これらの成果は、労働生産性や売上高の向上/企業の存続・持続的な成長/顧客へ提供する価値や収益の向上・改善/生産性や従業員の意欲向上/創造性人材(=創造的な発想だけでなく、それを実現するための行動力を持ち合わせていること)育成の結果として優秀な人材確保、などにつながるものであり、具体的な経営課題の解決や新たな価値創造、競争力の強化に直結するものです。DXは他人事ではなく自分事・自社の事であることを実感していただけると思います。
06 まとめ
DXの大切さは多くの企業で認識されていても、「検討する時間がない」「人手が足りない」「導入や運用にコストがかかる」といった様々な理由から、十分に取り組むことが出来ずにいる企業も少なくありません。経済産業省が作成した「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」は、こうした中堅・中小企業等がDXを効果的に進めるための実践的なガイドブックです。自社の状況と比較できるよう、自社と同業の企業、または自社と同規模の企業などの事例を参照すると、自社が直面する課題に対してどのようなデジタル技術やツールが有効か、どのように人材を育成・確保すれば良いかといった、実践的なヒントを得ることができるでしょう。繰り返しになりますが、DXは単なるデジタル技術の導入ではなく、ビジネスモデルや企業文化の変革そのものであり、労働生産性や売上高の向上、優秀な人材の確保・定着など、企業の持続的な成長に不可欠な取り組みです。ぜひ、この手引きを活用し、自社のDX推進に向けた具体的な一歩を踏み出してください。
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