
日本発のコンテンツ(アニメ、ゲーム、漫画、音楽、実写など)を世界へ——。経済産業省は、日本発コンテンツの海外売上を「2033年までに20兆円」とする目標を掲げ、官民連携による国際展開と競争力強化を推進しています。その中核となるのが、令和7年度補正予算によるコンテンツ産業成長投資支援事業、通称「IP360(サンロクマル)」です。
本制度は対象となる支援メニュー(全9メニュー)が幅広く、「自社がどの補助金の対象になるのか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。そこで本記事では、経済産業省が目指すコンテンツ産業振興の現状を解説するとともに、「IP360」のうち、現在公募が行われている6つの支援メニューについて、対象事業や補助上限額、補助率といった基本情報を分かりやすく整理してお届けします。

第1章:国が目指すコンテンツ産業の未来と「IP360」
1.1 2033年に海外売上20兆円を目指す
日本政府は、コンテンツ産業を従来の国内で稼ぐ労働集約型産業(人手に依存する産業)から、世界で稼ぐ知識集約型産業(知的財産や企画力、ブランド価値によって収益を拡大できる産業)へと変革し、2033年までに海外売上20兆円を実現するという大きな目標を掲げています。この目標に向け、国はコンテンツ産業の海外展開や基盤強化を強力にバックアップしています。


1.2 「エンタメ政策5原則」とは
経済産業省は支援にあたり、「大規模・長期・戦略的な支援を行う」「日本で創り、世界に届ける」「作品の中身には口を出さない」「真っすぐ届ける(制度を複雑にしない)」「挑戦者を優先する」という5つのスタンスを明確にしています。国は資金面や制度面で後押ししつつ、創作や投資判断の自由は事業者に委ねることで、より大胆で野心的な挑戦が生まれる環境づくりを進めています。
1.3 「IP360」とは何か?
IP360(サンロクマル)」は、今回の「コンテンツ産業成長投資支援事業」全体を束ねるブランド名(通称)です。IP(知的財産)を単体で終わらせず、マンガからアニメ、ゲーム、実写、音楽、グッズへと「360度」多角的に展開し、掛け算で利益を最大化するという狙いが込められています。各支援メニューは、まさにこの思想を具体化し、日本のコンテンツを世界へ届けるための手段となっています。

第2章:各メニュー共通のルールとスケジュール
各メニューの詳細を見る前に、まずは申請を検討する事業者が知っておくべき共通ルールを押さえておきましょう。
2.1 対象コンテンツは何か
本制度では、映画や配信ドラマ、ショートフィルム、縦型ショートドラマ、PCゲーム、モバイルゲーム、コンソールゲームなど、放映媒体やフォーマットは不問です。また、以下のジャンルも対象として扱われます。
ただし、成人向けコンテンツ(国内の第三者自主規制機関によって18歳未満のアクセス等が制限されているもの等)や、政治的・宗教的な宣伝意図や誹謗中傷を含むものなどは、原則として補助対象外となります。
- 「キャラクター」=アニメと同様の扱い
- 「文芸(小説等)」=マンガと同様の扱い
- 「舞台」=音楽と同様の扱い
2.2 海外市場の獲得に直結する取り組みが支援対象
IP360補助金の根本的な目的は、日本発コンテンツの「海外売上20兆円の実現」であるため、海外市場の獲得に直結する取り組みが支援の対象となります。具体的には、それぞれの工程において以下のように解釈されます。
- プロモーション(広告宣伝)
- 【対象】海外の視聴者・ファンに向けて、現地のメディアやWebなどでプロモーションを行うこと。
- 【対象外】日本の視聴者・ファンに向けて、国内のテレビCMやWeb広告を出すこと。
- ローカライゼーション(翻訳・文化的適応)
- 【対象】日本の作品を英語など他言語に翻訳・吹き替えして、海外市場で販売・公開すること。
- 【対象外】海外の作品を日本語に翻訳・吹き替えして、日本国内で販売・公開すること。
- ディストリビューション(流通)
- 【対象】海外ユーザーへ日本のコンテンツを届けるための流通網やプラットフォームを構築・拡大すること。
- 【対象外】日本国内のユーザー向けに流通網やプラットフォームを拡大すること。
【判断のポイント:発注先が国内か海外かは問わない】
このルールの判断基準はあくまで「誰(どの市場)に向けて展開するか」であり、「どこに発注してお金を支払うか」ではありません。ターゲットが海外市場向けのプロモーションやローカライズであれば、その実作業を日本の広告代理店や翻訳会社に発注(国内法人への支出)しても、現地の外国企業に直接発注(外国法人への支出)しても、どちらも補助対象経費として認められます。
一方で、コンテンツを作る工程(企画、制作、編集のプリプロ〜ポストプロ等)に関しては、国内の制作力強化を目的としているため、日本法人への発注(国内投資)のみが対象となります。つまりIP360は、「海外で売るための活動」は柔軟に支援しつつ、「日本の制作力そのもの」は国内に投資する、という二つの目的を同時に実現しようとする制度です。
2.3 スケジュール
今回紹介する6メニューの第1回公募締切は、すべて「2026年4月30日 17:00」です。

2.4 申請手続きの原則と例外
申請は原則として、デジタル庁の電子申請システム「Jグランツ」から行います(事前に「GビズID」の取得が必要)。ただし、「メニュー1:IP新規創出支援(スタートアップ支援)」のみ、例外的に個人申請が可能なため、GビズIDは不要です。コンテンツ産業支援メニュー内の専用フォームから直接応募できます。
2.5 概算払(前払い)も可能
一般的に、補助金は事業完了後の精算払いですが、今回紹介する公募中の6つの支援枠のうち「メニュー6:開発プラットフォーム構築支援」を除く5つにおいて、資金繰り上の必要性が認められた場合に限り、審査を経て概算払(前払い)を受けることが可能です。
第3章:6メニューの基本スペックまとめ
ここからは、現在公募中の6つの支援メニューについて、要点と基本情報を解説します。

3.1 IP新規創出支援(スタートアップ支援)
新たにコンテンツ製作・開発に取り組む個人(中学校を卒業していること)やチームのスタートアップを、専門家の伴走や広報を含めて支援するメニューです。
【重要】ゲーム分野は「ステップアップ支援」!
アニメ、音楽、実写は、今回の第1回公募(第一・二・三次審査)において補助上限額1,000万円/者の採択者が決まります。
これに対しゲーム分野は、第1回公募(一・二次審査)で「上限500万円」として採択者が決まります。その後、秋頃に行われる採択者限定の第2回公募(三次審査)を突破すれば、さらに500万円追加され最大1,000万円の補助となります。春に確定した枠内で前払いを受けることも可能です。
| IP等新規創出支援(スタートアップ支援) | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | ゲーム、アニメ、音楽、実写 ※マンガは対象外 |
| 対象事業 | 新たにコンテンツ製作・開発に取り組む個人又はチームのスタートアップが主体となって行うコンテンツの製作・開発事業 |
| 対象経費 | プログロ、プロダクション、ポストプロ(ローカライズ含む)、プロモーション等 |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 1,000万円/者(※ゲーム分野は段階的審査で最大1,000万円) |
| 補助期間 | 最長2027年2月末まで |
| 前払の有無 | 可 |
3.2 IP新規創出支援(新規IP企画支援)
既存事業者が新たに取り組む初期段階の製作・開発や、社内ベンチャー等を通じた新規事業を支援します。大企業が音楽分野で申請する場合は、「社内ベンチャー等の設置」が必須要件となります。
| IP等新規創出支援(新規IP企画支援) | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | ゲーム、アニメ、実写、音楽 ※マンガは対象外 |
| 対象事業 | コンテンツの初期段階の製作・開発や、社内ベンチャー等を通じた新規事業としての製作・開発に取り組む事業 |
| 対象経費 |
【ゲーム・アニメ・実写】プリプロダクション 【音楽】プリプロ〜プロモーション(ローカライズ含む) |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | ゲーム・アニメ・実写:2,000万円/者、音楽:7,000万円/者 |
| 補助期間 | 最長2027年2月末まで |
| 前払の有無 | 可 |
3.3 大規模作品製作支援(一般支援)
将来的に世界的な大ヒットを狙える海外向け大規模作品の製作・開発を強力に支援します。本メニューは、製作費の下限要件(ゲーム20億円、アニメ6億円、実写8億円)や過去の実績等の厳しい条件を満たすことで支援を受けられる要件充足型の仕組みです。大ヒット時(製作費の4倍超の収入)には、超過利益の10%(補助額が上限)を国に返納する収益納付ルールがあります。
| 大規模作品製作支援(一般支援) | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | ゲーム、アニメ、実写 ※マンガ、音楽は対象外 |
| 対象事業 | 海外向け大規模作品の製作・開発事業 |
| 対象経費 |
プリプロ〜プロモーション(ローカライズ含む) ※デジタルや人材育成の費用も対象 |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 「8億円 + 過去の売上上位3作品の平均売上の10%」の計算式で企業ごとに算出されます。ただし15億円を超えることはできません |
| 補助期間 | 最長2028年2月末まで |
| 前払の有無 | 可 |
3.4 大規模作品製作支援(ロケ誘致支援)
海外スタジオのノウハウ取得のため、海外製作会社と共同・受託で行う国内ロケ・VFX等の高度な編集作業を支援します。
| 大規模作品製作支援(ロケ誘致支援) | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | 実写 ※ゲーム、アニメ、マンガ、音楽は対象外 |
| 対象事業 | 海外製作会社と共同で、又は受託を受けて日本国内で行う実写の制作事業 |
| 対象経費 | プロダクション、ポストプロダクション(ローカライズ含む) |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 15億円/件 |
| 補助期間 | 最長2028年2月末まで |
| 前払の有無 | 可 |
3.5 流通プラットフォーム拡大支援
日本発コンテンツの国際的な流通プラットフォーム事業を支援し、海外向けコンテンツ供給量の拡大と海外ファンの拡充を図ります。キュレーションサイト(まとめサイト)やイベント、単一作品のみの配信メディアは対象外です。
| 流通プラットフォーム拡大支援 | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写 |
| 対象事業 | 日本発コンテンツの国際的な流通プラットフォーム事業 |
| 対象経費 | ディストリビューション、ローカライゼーション、プロモーション費、相互誘客費(複数の流通プラットフォーム間で共同して実施するファン向けのコラボ企画や広告宣伝を通じて、ファンにIPを様々なメディアで楽しんでもらうのに必要な費用) |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 30億円/者 |
| 補助期間 | 最長2028年2月末まで |
| 前払の有無 | 可 |
3.6 開発プラットフォーム構築支援
開発プラットフォームとは、クリエイターがコンテンツを製作・開発するための高度な制作ツールや作業環境のことです。本メニューは、アニメやゲームなどのコンテンツそのものを作る費用ではなく、コンテンツをより高品質に、より効率よく作るためのツールやシステム(AIシステムや独自のゲームエンジンなど)を自ら開発・構築するための費用を支援します。
| 開発プラットフォーム構築支援 | |
|---|---|
| 項目 | 内容 |
| 対象分野 | ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写 |
| 対象事業 | 開発プラットフォームを構築する事業 |
| 対象経費 | プリプロ~ポストプロ工程(ローカライズ含む)に貢献する開発プラットフォームの構築費用 |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 1 億円/者 |
| 補助期間 | 最長 2027 年 2 月末まで |
| 前払いの有無 | 不可 |
第4章:よくある質問
-
1つの作品やプロジェクトで、複数の支援メニューに同時に応募することは可能ですか?
-
可能です。ただし「同一経費の二重補助」はできません。例えば、ある新規アニメ作品の企画・開発費(プリプロダクション)をIP新規創出支援(新規IP企画支援)で申請し、同じ作品の制作プロセスを効率化するためのAI等のシステム開発費を開発プラットフォーム構築支援で申請することは可能です。このように経費の目的(コンテンツ制作そのものか、ツール開発かなど)が明確に分かれていれば、制度を組み合わせてフル活用することができます。
-
海外展開にあたり、海外の企業へ発注した経費は補助対象になりますか?
-
海外に届ける工程であれば、外国法人への発注も対象になります(国内法人・外国法人のどちらへの発注も可能です)。
本制度は国内の制作力強化も目的としています。そのため、企画や制作(プロダクション)は日本国内の法人への発注に限定されます。しかし、翻訳(ローカライズ)や海外プロモーションなど海外へ展開する工程については、発注先が日本法人か外国法人かは問われません。海外向けの取組であれば、現地の外国法人に直接発注する場合も、国内の代行企業等に発注する場合も、どちらも補助対象となります。
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クリエイター(個人)でも応募できますか?
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IP360補助金は、原則として個人での申請はできませんが、IP新規創出支援(スタートアップ支援)に限り、個人での応募が可能です。同支援は、これから挑戦する個人(中学校卒業以上)やチームによるスタートアップを対象としており、申請はGoogle Formで行うため、GビズIDは不要です。
第5章:IP360は挑戦を後押しする補助金パッケージ
IP360は、日本発コンテンツの海外展開を後押しする補助金です。現在公募中なのは、新規IPの立ち上げ、大規模製作、流通、技術基盤開発などを支援する全6つのメニューです。まずは「海外で誰に、何を、どう届けるか」を検討し、自社の現在地(企画、製作、流通、基盤開発)と照らして最適なメニューを選びましょう。 IP360は大企業だけに向けた制度ではありません。小さな企画でも、海外市場に向けた挑戦なら、資金と信用の両面で加速装置になるはずです。
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