
現在、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED、エーメド)が主導する「介護テクノロジー社会実装のためのエビデンス構築事業【開発補助】」の令和8年度の公募が行われています。この事業は、経済産業省と厚生労働省が定めた「重点分野」の開発を後押しする一大プロジェクトです。
国の研究開発事業というと、中小企業にはハードルが高そうと感じる方がおられるかもしれません。でも、今回ご紹介する補助事業は、中小企業を強力にバックアップするため、中小企業に有利な制度設計になっています。
ただし注意すべきは、工場に新しい機械を入れるような単なる設備投資の補助金ではないということです。既存の製品を買ってきて試すだけの事業も対象外です。あくまで、新しい介護テクノロジーを開発・改良し、それが現場でどれだけ役立つかを証明するためのプロジェクトです。本気で介護の未来を変えたいと考えている企業にとっては、大きなチャンスです。 この記事では、制度の魅力から申請時の注意点などを、分かりやすく解説します。
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
医療やヘルスケア、介護分野の新しい技術を世に送り出すために、2015年に国が設立した専門機関です。基礎研究にとどまらず、実際の介護現場や病院で使える製品として実用化されるまでを、一貫して支援する中核的な役割を担っています。
第1章:なぜ今「エビデンス構築」なのか?
この補助事業は、平成25年度から10年以上続く国の一大プロジェクトの流れを汲んでいます。これまでの10年間で、介護ロボットは「とにかく新しいものを作ってみよう」というフェーズから、「作ったものが現場で本当に役立つことを証明しよう」というフェーズへ進化しました。だからこそ、令和8年度の事業名には「エビデンス構築」という言葉が入っています。
「エビデンス」というと小難しく聞こえますが、「単なる感想ではなく、客観的なデータで良さを証明しよう」ということです。「利用者の満足度が上がりました」というアンケートだけでは少し弱いので、「従来のやり方や既存の機器と比べて、作業時間が何分減った」「職員の腰への負担がどれくらい軽減された」といった具体的な数字(定量指標)が求められるというわけです
このため、応募の際には思いつきのアイデアではなく、実際に介護現場の声を聞いてまとめた「ニーズ調査報告書」の提出が必須となっています。現場が本当に求めているものを起点に開発をスタートしてほしい、という国からの強いメッセージと言えます。

第2章:補助率と間接経費は中小企業に有利
「数字で証明なんて、自社には専門の研究者もいないし無理だよ…」と思った方、安心してください。この事業は、大学や研究機関とタッグを組んで挑戦できる仕組みになっています。さらに、現場のニーズを敏感にキャッチしてスピーディに動ける中小企業に対しては、大企業にはない優遇措置が用意されています。
2.1 大学等とタッグを組む共同研究が前提
自社だけでデータ分析などのエビデンスを作る必要はありません。学術的な部分は、大学などの研究機関を「研究開発分担機関」として迎え入れ、そこにお願いすることができます。しかも、その委託費もしっかり補助の対象になります。自社は得意な「モノづくり」に専念できる、というわけです。
2.2 大企業より手厚い補助率と規模
この事業のベースとなる研究開発費(間接経費を含まない額)は、1課題あたり年間上限3,580万円です。実際に受給できる補助金額は、この研究開発費に管理部門の人件費などに充てられる間接経費を上乗せした総額に対して、補助率を掛けた金額になります。大企業の場合、補助率は1/3ですが、中小企業の場合は2/3と有利です。
さらに、上乗せできる間接経費の枠についても、大企業が直接経費比で最大10%なのに対し、中小企業は最大20%まで認められており、資金面で非常に強力なサポートが受けられます。
第3章:主なスケジュールと公募の実務要件
次に、スケジュールの概要と、実務的な要件を確認しましょう。
3.1 申請から事業終了までの流れ
まずは、全体の流れ(予定)をイメージしておきましょう。
- 【公募締切】令和8年4月22日(水)正午厳守
- 【書面審査】令和8年5月上旬〜中旬
- 【ヒアリング審査】令和8年6月上旬(開発への熱意をアピールする場です)
- 【結果通知】令和8年7月上旬
- 【事業開始】令和8年8月上旬(※交付決定後にスタート)
- 【中間評価】令和10年1月頃(※後述する審査があります)
- 【事業終了】最長で令和10年度末
3.2 対象者:中小企業、大企業、技術研究組合
中小企業とは
本事業での中小企業は、中小企業基本法の基準(資本金や従業員数)で判断されます。ただし要注意なのが、基準を満たしていても「大企業の子会社など(みなし大企業)」に該当する場合は、中小企業枠(補助率2/3)ではなく大企業扱い(補助率1/3)になるという点です。自社の資本関係等の細かい条件などは、必ず事前に公募要領で確認してください。
3.3 対象分野:国が定めた「介護テクノロジー利用の重点分野」
「介護テクノロジー利用の重点分野」に当てはまる機器やシステムの開発・改良です。
「介護テクノロジー利用の重点分野」とは
国が「介護現場の課題解決(スタッフの負担軽減や利用者の自立支援など)のために、特に開発や導入を後押しすべき」と定めた分野のことです。現在、9分野16項目が指定されています。
3.4 公募テーマ
今回の公募では、この対象が以下の二つのテーマに分かれています。自社のアイデアがどのテーマ・項目に当てはまるのか、詳細な定義については必ず公募要領をチェックしてください。
テーマ1(3分野3項目)
機能訓練支援、食事・栄養管理支援、認知症生活支援・認知症ケア支援
テーマ2(6分野13項目)
移乗支援(装着・非装着)、移動支援(屋外・屋内・装着)、排泄支援(処理・動作・予測検知)、見守り・コミュニケーション(施設・在宅・コミュニケーション)、入浴支援、介護業務支援
3.5 対象となる経費
研究開発にかかる以下のような経費が幅広く対象になります。新しいモノづくりだけでなく、データを集めるための活動費などもカバーされています。
- 物品費(試作品の部品、ソフトウェア(既製品)、消耗品などの購入費)
- 人件費・謝金(開発スタッフの給与や、専門家への謝金)
- 旅費(実証現場へ行くための交通費など)
- 外注費・その他(試験や検査の外部委託費、機器のリース代など)
- 委託費(大学などのパートナー機関にお願いする研究費)
【事前着手は不可】
一般的な補助金と同じく、補助の対象になるのは、採択されて正式に交付決定された後に発注や支払いをした経費のみです。交付決定を待たずに部品等を買ってしまうと、その分は全額対象外になってしまうので十分に気をつけてください。
第4章:採択を引き寄せるために
魅力にあふれた事業ですが、国の研究開発プロジェクトであるため厳密なルールも存在します。挑戦に備えて知っておきたい四つの関門と、それを乗り越えるための提案書作成のポイントをご紹介します。
4.1 関門1:e-Rad(イーラド)システムの利用
申請には「e-Rad」という研究開発用のオンラインシステムを使います。初めて使う場合は事前登録が必要で、手続きに日数がかかることもあります。公募要領では、2週間以上の余裕をもって手続きすることが推奨されています。まずは手続きに着手してください。

4.2 関門2:中間評価
研究開発実施予定期間は令和10年度末までです。しかし、令和10年1月頃(=令和9年度の終盤)に「中間評価」という厳しい審査があります。ここで下位1/3程度(少なくとも1課題)に入ってしまうと、そこで支援は打ち切りとなります。最終年度の丸々1年分の補助が一切受けられなくなるというシビアな仕組みです。
4.3 関門3:ヒアリング審査
書類を出して結果を待つだけでなく、令和8年6月上旬(予定)にヒアリング審査があります。プロジェクトにかける熱意と計画の確かさを直接アピールする場です。
4.4 関門4:厳しい財務チェック
中小企業が応募する場合、財務スコアリング、直近3期分の法人税申告書、資金繰り表の提出が必須です。長期の開発期間を最後までやり切る体力があるかをしっかり見られます。
4.5 提案書に求められる熱いストーリーと加点のコツ
審査を勝ち抜くための提案書を書く際、自社製品のスペックや機能ばかりをアピールしてはいけません。実際の審査では、他の製品にはない独創性や新しさがあるか、本当に現場のニーズに応えているか、資金や開発の計画に無理がないかといった項目が厳しく見られます。提案書では、以下のような「現場の課題解決から事業化までのストーリー」がチェックされます。
- 研究開発の背景と目的:現場は今どんな課題を抱えていて、自社はそれをどう解決するのか。
- 差別化ポイント:従来の介護のやり方や、他社の機器と比べてどこが優れているのか。
- 中間目標と将来展望:関門2の中間評価の時期までにどこまで達成し、最終的にどうやってビジネスとして世の中に広めていく(事業化する)のか。
そして、必ずチェックしてほしいのが加点項目です。「介護テクノロジー利用の重点分野」の定義書の中には、「こういう機能があれば加点評価する」というボーナス条件が書かれています。例えば、「排尿と排便を区別して検知できれば加点(排泄予測)」「複数の部屋を同時に見守りできれば加点(在宅見守り)」「他の介護記録システムとデータ連携できれば加点」といった具合です。
自社のアイデアがプラス評価をもらえる機能を含んでいないか、応募前に重点分野の定義書を隅々まで確認しておきましょう。
4.6 徹底的な現場目線から生まれた大ヒット事例
現場の課題解決の事例を知るには、AMEDが運用する「介護ロボットポータルサイト」の「これまでに開発補助をした機器」のページが参考になります。一つ、事例をご紹介します。
ある企業は、ベッドから車椅子などへの「移乗」を助けるロボットを開発しました。しかし、当初の仕様は今と全く違うもので、「機能はすごいけれど、準備や操作が煩雑で、忙しい現場ではかえって使われなくなる」という課題に直面します。
そこで開発者は、介護施設に何度も足を運んで実際に職員に試してもらい、現場のリアルな声をヒアリングしました。その結果、「とにかく準備に手間がかからず、だれでも直感的に操作できること」に徹底的にこだわって試作と改良を重ねたのです。
この使いやすさ(現場目線)を極めたことで、製品は現場にすんなりと定着。介護職員の腰痛予防(負担軽減)だけでなく、利用者の「自分の足で立ちたい」という意欲の向上(自立支援)にもつながる大成功を収めたそうです。
最新技術を追求するだけでなく、現場のリアルな不満や制約を、技術でどうやってスマートに解決するか…。この事業で求められている重要な要素ではないでしょうか。
4.7 残念な提案書になっていませんか?
上記の提案書のポイントを踏まえると、審査で落ちてしまったり、途中で打ち切られたりする可能性が高くなる「もったいないパターン」が見えてきます。
- 開発要素が薄く、単なる評価・検証目的とみなされてしまった。
- エビデンスの目標が曖昧で、比較対象や定量的なデータが示せていない。
- 大学などのパートナー機関との役割分担が不明確。
- 中間評価の時点で、社会実装や事業化が見通せなかった。
第5章:よくある質問
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タッグを組む相手(研究機関や介護現場)は、どのように探せばよいでしょうか。
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コネクションがなくても大丈夫です。各都道府県に設置されている「介護生産性向上総合相談センター(ワンストップ窓口)」や、開発企業と現場を繋ぐ「リビングラボ」、厚生労働省の「マッチング支援制度」などをフル活用して、最適なパートナーや実証フィールドを探すことができます。
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過去にあった前身の事業に参加していなくても、不利になりませんか?
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もちろん応募可能です。過去のAMED事業への参加が問われるわけではありません。ただし実際の審査では、現在の技術レベル及びこれまでの実績は十分にあるかチェックされます。国の事業が初めてであっても、自社がこれまで培ってきた技術力やモノづくりの実績を提案書でしっかりアピールすることが重要です。
第6章:まずやるべきアクション
「介護テクノロジー社会実装のためのエビデンス構築事業」は、決して低いハードルではありません。しっかりとした計画、パートナーとの連携、そして何より現場の課題解決へ向けた熱い想いが求められます。
それは、とりもなおさず、本気で社会課題に挑む中小企業にとっては、大学等の専門家の知見を借りながら自社の技術を世に問うことができる制度とも言えます。
挑戦に向けて、まずやるべき重要なアクションが二つあります。
- すぐに「e-Rad」の登録手続きを始めること
※登録まで日数がかかる場合があります。
- AMEDのウェブサイトから公募要領などをダウンロードして確認すること
※とくに財務書類やニーズ調査などの必須書類の準備はお早めに。
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