
食品製造業界全体の省力化・生産性向上に役立つ、共通技術の開発や実証を行うための補助事業(業種横断型技術開発実証事業)が現在公募中です。自社の力だけでは自動化(機械化)・省力化の壁を越えられない…とお悩みの食品製造事業者や、新しい技術を業界に展開したいとお考えの機械メーカーにとって、強力な後押しとなる制度です。本記事では、この事業の目的や概要、実務上のポイントを分かりやすく解説します。
第1章:食品製造業の省力化における現状と課題
1.1 他産業より低い労働生産性と深刻な人手不足
食品製造の現場では、慢性的な人手不足が深刻な課題となっています。農林水産省が2026年1月に公表した「食品製造業をめぐる情勢」における最新の分析によると、製造や盛付けなど人手を要する工程が多い食品製造業の労働生産性(従業員一人あたりの年間付加価値額)は711万円であり、全産業平均の971万円と比較して大きく下回る低い水準にとどまっています。業種別に見ても、弁当、惣菜、めん類、パン・菓子製造業などにおいて特にその傾向が顕著です。
国もこの事態を重く見ており、食品製造業を省力化政策の重点業種の一つとして省力化投資促進プランを策定しています。農林水産省が2025(令和7)年6月に公表した同プランでは、2025年度からの5年間を「省力化投資集中期間」と位置づけ、2029年度までに労働生産性を24%向上させるという明確な目標を設定。目標達成に向け、新しい技術の導入に対する投資補助や金融支援の拡充、優良事例の横展開、さらには関係省庁が連携したサポート体制の構築など、業界の労働生産性を底上げするための支援を本格化させています。


1.2 生産性向上を阻む食品製造業特有の高い壁
しかし、いざ自動化や省力化を進めようとしても、食品製造業には特有の高い壁が存在します。経済産業省北海道経済産業局が2025年5月に公表した資料「食品製造業における省力化推進体制の構築」によれば、食品製造業の生産性向上を阻む主な障壁として、以下の要因が指摘されています。
- 手作業への依存(労働集約型): 多品種少量生産や不定形な素材を扱うことが多く、どうしても人手に頼る工程が多くなる。
- 資金・スペースの制約:中小企業が大半を占めるため、設備投資に必要な資金や、新たな機械を置く工場スペースの確保が難しい。
- 課題の潜在化(何をしていいか分からない):省力化したいというニーズはあるものの、自社のどの工程に改善の余地があるのか、具体的にどうすればいいのか気付いていないケースが多い。
- 専門家・機械メーカーとの連携不足:課題を整理してくれる専門家や、実際にシステムを構築するSIerや機械メーカーが不足しており、うまくマッチングできていない。
1.3 自前主義からの脱却と協調領域での連携へ
このように、単に資金的な壁だけでなく、自社内だけのノウハウや技術力(自前主義)では限界が来ているというのが、多くの食品企業が直面しているリアルな現状です。
そこで現在、国が強力に推し進めているのが協調領域での連携です。1社で課題を抱え込むのではなく、機械メーカーやシステム開発会社、さらには同じ課題を持つ同業他社と手を組み、業界共通の課題を解決する技術を開発する。そして、その成果を業界全体に広げていくというアプローチが、これからの食品業界の省力化の鍵を握っています。
競争領域と協調領域
競争領域とは、各企業が自社の強みを活かして競い合う分野のことです。製品の設計や品質、価格、ブランド、サービス内容などは、企業ごとに差別化を図り、市場で競争することが前提となります。これらは本来、他社と共有せず、各社が独自に磨き上げていく領域です。
他方、協調領域とは、企業間で競争するのではなく、業界全体に共通する課題として連携して取り組む分野を指します。例えば、人手不足への対応や生産工程の標準化、複数企業間でのデータ形式の標準化、共通技術の開発・実証などは、個社で抱え込むよりも、複数の企業や機械メーカーが協力することで効率的に解決できる課題です。この記事でご紹介する補助事業は、協調領域における技術開発や実証を支援し、その成果を業界全体へ横展開することを目的としています。
第2章:業種横断型技術開発実証事業は、どんな補助金?
こうした背景から誕生したのが、「業種横断型技術開発実証事業」です。まずはこの補助金の概要を確認しましょう。なお、公募要領や課題提案書などの資料、問い合わせ先などについては、農林水産省のウェブサイト「令和8年度業種横断型技術開発実証事業の公募について」に掲載されています。

- 事業の目的 この事業の最大の目的は、省力化等の生産性向上に役立つ新たな技術の開発に向けて、食品事業者と機械メーカー等が連携して行うプロジェクトを支援することです。自社の工場を単に自動化することではなく、開発した技術やシステムを業界全体へ波及・横展開させることが求められます。
- 補助対象者 食品の加工・製造を行っている事業者(機械メーカー等との共同申請を含む)、またはコンソーシアム(事業化共同体)が対象となります。
- 補助金額と補助率
- 補助上限額: 4,000万円
- 補助率: 1/2以内
- 補助対象経費 主な例は以下の通りです。
- 機械設備の導入及び改良費:機械装置、工具・器具・備品・資材の購入費など
- 謝金:専門的知識・知見の提供、資料・情報の収集や提供を行った者又は組織に対する謝礼に必要な経費
- 役務費:分析、試験、加工等を専ら行う経費
- 委託費:第三者に事業を委託するための経費
- 人件費:正職員、出向者、嘱託職員、管理者等にかかる給料その他手当
【注意】人件費の計上について
人件費が対象になるとはいえ、通常の給与がそのまま補填されるわけではありません。対象となるのは対象事業に直接従事した時間のみです。そのため、専用の業務日誌を用いて、日々の作業時間を分単位で厳密に管理・計上するという厳格なルールがあります。
【重要】注意!補助対象外となる例
本事業は新たな技術の開発・実証と横展開が目的です。そのため、以下のようなケースは補助の対象外となります。
| 対象外となる例 | その理由 |
| 自社単独の自動化 (自社への機械導入のみ) | 業界共通の課題解決や、他社への波及効果が見込めないため。 |
| 既存の汎用機器の購入・導入 | すでに世の中にある機械を買うだけであり、「新たな技術開発・実証」には該当しないため。 |
第3章:申請の流れと審査のポイント
本事業の公募締切は令和8年4月24日(金) 17時、事業実施期間は補助金の交付決定の日から令和9年3月 31 日までとなっています。
公募申請は原則として電子メールで行いますが、実務担当者は以下の点に十分注意してください。
3.1 事業着手のタイミングと事前着手の例外
一般的な補助金と同様に、補助の対象となる経費は原則として、交付決定を受けた日以降に契約(発注)を行い、事業期間内に支払いが完了したものに限られます。交付決定前に発注・購入したものは補助対象外となってしまうため、スケジュールには余裕を持たせましょう。
ただし例外として、「やむを得ない事情」があり、事前に届出をして承認された場合に限り、交付決定前の着手が認められる制度(交付決定前着手届)も用意されています。なお、万が一交付決定を受けられなかった際の損失はすべて自己責任になるというリスクがある点には注意が必要です。
3.2 採択を左右する必須項目と加算的要素
採択されるためには、提出する「課題提案書」の内容が審査基準を満たしている必要があります。特に本事業では「自社だけの課題解決」は評価されません。以下のチェックリストをもとに、自社の計画をブラッシュアップしましょう。
【審査基準】
- 業界共通の課題か?:1社だけの悩みではなく、業界全体が抱える課題をターゲットにしているか
- 横展開のビジョンはあるか?:開発した技術を、長期目標として業界内にどう普及・波及させていくのか
- 実施体制は妥当か?:食品メーカー単独の自前主義にならず、機械メーカー等と適切に連携・協力して開発や実証を進める体制になっているか。なお、単独申請の場合でも、外部との実質的な協力体制が問われます
【審査が有利になる!加算的要素】
- 行政施策との関連性はあるか?
食料システム法に基づく事業活動計画の認定を受けている場合は、加算的要素としてプラスに評価されます。取得している場合は必ずアピールしましょう。
食料システム法計画認定制度
食料システム法に基づき、農林水産省が食品事業者の持続可能な取組を後押しする制度です。具体的には、以下の四つのいずれかに該当する事業活動計画を作成し、農林水産大臣の認定を受ける仕組みとなっています。
安定取引関係確立:農林漁業者との連携による原材料の安定調達など
流通合理化:設備の導入による流通効率化や品質管理の高度化など
環境負荷低減:食品ロスの削減や脱プラスチックなどへの取組
消費者選択支援:サステナビリティ情報やコスト構造の消費者への発信など この認定を受けることで、本補助金(業種横断型技術開発実証事業)の審査において加算的要素として評価上有利になるだけでなく、日本政策金融公庫からの長期低利融資や、設備投資に対する各種税制優遇、民間融資を受ける際の債務保証といった、手厚い総合的な支援措置を受けることができます。計画認定制度については、こちらの記事も、ご参照ください。

食料システム法が変えるビジネス環境 長期融資や税優遇を獲得する「計画認定」紹介

第4章:ここが知りたい!よくある質問
- 単に自社工場に新しい機械を買って、自動化したい場合も対象になりますか?
-
いいえ、対象外です。本事業は新たな技術の開発・実証や業界全体への横展開を目的としています。そのため、すでに市場にある汎用的な機械を自社のために購入・導入するだけの取組は補助の対象となりません。
- 食品メーカー1社だけでも応募できますか?
-
応募要件を満たせば1社単独でも可能ですが、連携が推奨されています。要件上は食品メーカー単独での応募も可能ですが、事業の目的は新たな技術開発と実証の加速です。1社で抱え込まず、専門的なノウハウを持つ機械メーカー等との共同申請や、コンソーシアム(事業化共同体)を形成して実施することが強く想定されています。
第5章:食品業界の未来を切り拓く協調の力
ここまで見てきた通り、食品製造業は深刻な人手不足に直面しており、他産業と比較しても労働生産性の低さが大きな課題となっています。この危機を乗り越え、持続可能な産業として生き残るためには、AIやロボットといった最新技術を活用した省力化投資が待ったなしの状況です。
しかし、従来のように、各社が自社内だけで技術開発を行う自前主義では、コスト的にもノウハウ的にも限界があります。だからこそ、機械メーカーや同じ課題を抱える他社と手を取り合う協調のアプローチが、今まさに求められているのです。
業種横断型技術開発実証事業は、そうした企業の枠、そして業界の壁を越えたチャレンジを力強く後押しし、食品産業全体の底上げを図るための非常に意義深いプロジェクトです。自社の生産性向上はもちろんのこと、自分たちの開発した技術が、これからの食品業界を救うスタンダードになるという熱い志を持つ企業の皆様は、ぜひ本事業の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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