
2020年4月1日に全面施行された改正健康増進法により、多くの施設で屋内が原則禁煙となり、喫煙には煙の流出防止などの技術的基準を満たした喫煙室の設置が必須となりました。
一方で、事業継続への配慮から、全面施行時に存在した既存小規模飲食店は「既存特定飲食提供施設」として経過措置が適用されます。これらの施設では、特例として喫煙と飲食を同時に提供できる「喫煙可能室」の設置が認められています。
しかし、従業員や非喫煙者の健康に配慮し、「より受動喫煙リスクの低い環境を整備したい」と考える飲食店もあるでしょう。今回は、そのような飲食店の受動喫煙防止対策を後押しする国の助成事業をご紹介します。

目次
01 受動喫煙防止の現状
1.1 法改正の背景と内容
健康増進法は2018年7月に改正され、2020年4月1日に全面施行されました。これにより、「望まない受動喫煙」の防止が「マナーからルールへ」と変わり、多くの施設で屋内が原則禁煙となりました。
日本が受動喫煙対策に力を入れるようになった背景には、国際社会における日本のたばこ対策に対する評価の低さと、受動喫煙による健康リスクへの認識の高まりがありました。
2015年版のWHO MPOWER報告書(2015年版は2014年末時点のデータに基づく)において、日本のたばこ対策は厳しい評価を受けました。WHO MPOWER報告書とは、世界保健機関(WHO)が世界各国のたばこ対策の進捗状況を評価・分析した報告書のことです。さらに、G7諸国間での比較においても、日本のたばこ対策は最低レベルに位置づけられていました。
改正後の健康増進法では、施設を第一種施設(病院・学校等)と第二種施設(事業所・飲食店等)に分類し、それぞれ異なる規制を設けました。第一種施設は、受動喫煙による健康被害が懸念される場所として敷地内禁煙が義務付けられました。一方、第二種施設は、屋内原則禁煙とされました。ただし、要件を満たす喫煙室の設置は認められています。
改正法の主要なポイントは以下の通りです。
喫煙室の設置と管理:喫煙を認める場合は、適切な喫煙室の設置が必要であり、その入口には喫煙環境を示す標識の掲示が義務付けられています。
20歳未満の立ち入り禁止:全ての喫煙エリアにおいて、20歳未満の立ち入りは禁止です(従業員も含む)。
飲食店への経過措置:特に飲食店については、客席面積100㎡以下で資本金5,000万円以下、かつ2020年4月1日時点で現に営業していた店舗は「既存特定飲食提供施設」として、喫煙可能室の設置を選択することが出来る経過措置が認められています。ただし、この施設でも「20歳未満の立ち入り禁止」は適用されます。
1.2 喫煙室の4タイプ
健康増進法では、施設の種類や事業内容に応じて、屋内に喫煙ができる場所を設ける場合に、以下の四つのタイプの喫煙室を定めています。これらの喫煙室を設置する場合、たばこの煙が喫煙室から施設内に流出しないよう、以下の技術的基準を満たす必要があります。
出入口の気流:喫煙室の出入口において、室外から室内に流入する空気の気流が0.2m/s以上であること。
壁、天井等による区画:壁、天井などによって、たばこの煙が喫煙室内から室外に流出しないように区画されていること。
屋外への排気:たばこの煙が屋外に排気されていること。
喫煙専用室
喫煙:紙巻きたばこ、加熱式たばこなど、全てのたばこの喫煙が可能。
飲食:喫煙以外の行為(飲食、会議など)はできません。
設置場所:健康増進法で定められた特定の施設において、建物内の一角に設置可能です。
加熱式たばこ専用喫煙室
喫煙:加熱式たばこのみ喫煙が可能。
飲食:飲食が可能です。
設置場所:健康増進法で定められた特定の施設において、建物内の一角に設置可能です。
喫煙目的室
喫煙:紙巻きたばこ、加熱式たばこなど、全てのたばこの喫煙が可能。
飲食:喫煙に加え、主食を除く飲食の提供が可能です。
設置場所:施設の全部または一角に設置可能です。
設置可能な施設:喫煙を主目的とするバーやスナック、たばこ販売店など、特定の施設に限定されます。
喫煙可能室
喫煙:紙巻きたばこ、加熱式たばこなど、全てのたばこの喫煙が可能。
飲食:飲食が可能です。
設置場所:施設の全部または一部に設置可能です。
設置可能な施設:2020年4月1日時点で営業している、客席面積100㎡以下かつ資本金5000万円以下などの条件を満たす既存の小規模な飲食店に限定されます(経過措置)。

02 既存特定飲食提供施設に対する助成金制度
2.1 制度概要
厚生労働省は、中小企業事業主が受動喫煙防止のため施設設備の整備を行う際、最大100万円の助成を行う「受動喫煙防止対策助成金」を設けています。この助成金は、事業場における受動喫煙防止対策を推進することを目的としています。
2.2 対象・条件
対象事業主:以下の(1)~(4)すべてに該当する事業主が対象です。
(1) 健康増進法で定める既存特定飲食提供施設を営む
(2) 労働者災害補償保険の適用を受ける
(3) 中小企業事業主である
(4) 事業場内において、措置を講じた区域以外を禁煙とする
助成対象となる措置
既存特定飲食提供施設が取り組む以下の措置です。
- 喫煙専用室の設置・改修
- 指定たばこ専用喫煙室(加熱式たばこ専用喫煙室)の設置・改修
助成内容
助成対象経費:工費、設備費、備品費、機械装置費など
助成率:飲食業の場合は2/3、それ以外の業種は1/2
上限額:100万円
単位面積当たりの上限額:60万円/㎡
申請期限:令和8年1月31日(土) ※予算枠に達すると早期終了するため、早めの申請がおすすめです

2.3 申請の流れ
2.4 よくある質問
- 既存の喫煙室の改修も対象になりますか?
-
要件を満たせば助成対象となります。
- テナント店舗でも申請できますか?
-
施設管理者の承諾が得られれば申請できます。
- 顧客専用の喫煙室を設ける場合も対象になりますか?
-
助成の対象となります。ただし、事業場の室内において喫煙室以外では喫煙を禁止する必要があります(宿泊施設の客室などは除く)。

03 生活衛生関係営業事業者(飲食業)向けの助成金
労働災害補償保険の適用を受けない、飲食業を営む生活衛生関係営業(生衛業)の事業主(個人事業主)は、第2章でご紹介した既存特定飲食提供施設に対する助成金制度の対象とはなりませんが、同制度に準じた別の助成金制度があります。
公益財団法人全国生活衛生営業指導センターが実施する「生衛業受動喫煙防止対策事業助成金」は、飲食業者(すし、めん類、中華、社交、料理、一般飲食、喫茶など)が対象です。詳細は、この助成金に関するウェブサイトで確認できます。

04 その他の支援等
4.1 無料相談
厚生労働省では、職場の受動喫煙防止対策に取り組む事業者に対し、無料の相談支援を行っています。第2章および第3章で紹介した助成金の対象者に限らず、すべての職場の方が利用可能です。詳しくは、厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。
内容 | 受動喫煙防止対策のための計画、実施体制、問題点等に関する相談(ソフト面)、 受動喫煙防止対策のための施設や設備などに関する相談(ハード面) |
相談方法 | 電話相談(050-3537-0777)、実地指導、説明会への参加、講師派遣など。 |
※令和7年度の相談支援実施期間は令和8年3月19日(木)までです。
4.2 税制優遇制度
受動喫煙防止対策に対する法人税の税制優遇措置として、中小企業経営強化税制が適用される場合があります。この制度は、中小企業等経営強化法による認定を受けた「経営力向上計画」に基づき、要件を満たす設備投資を行った事業主が対象となります(※第2章および第3章で紹介した助成金の対象者に限りません)。具体的な内容は以下の通りです。
優遇措置の種類と税率
- 原則として、即時償却または取得価額の10%の税額控除のいずれかを選択適用できます。
- ただし、資本金が3,000万円を超え1億円以下の法人の場合は、税額控除率が7%となります。
対象となる経費
- 喫煙室の設置等にかかる器具備品および建物附属設備などが、要件を満たせば対象となる可能性があります。
対象事業者
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人。
- 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人。
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主。個人事業主の場合には所得税に適用されます。
- 協同組合等。
税額控除額の上限
- 中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額または所得税額の20%が上限です。
適用期間
- 令和9年3月31日までの期間に取得した設備が対象です。
この税制優遇措置を受けるためには、自社で「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受ける必要があります。
詳細は、中小企業庁のウェブサイトをご参照ください。
05 まとめ
既存特定飲食提供施設には、健康増進法改正により経過措置として喫煙可能室の設置が認められています。しかし、より受動喫煙リスクの低い環境整備を検討されている飲食店の方には、今回ご紹介した支援制度の活用をおすすめします。
助成金制度では最大100万円の支援が受けられるほか、設備投資が困難と考えられる場合でも、専門家への無料相談で適切な対策の提案が得られる可能性もあります。まずは厚生労働省のウェブサイトなどを参考に、対策事例をチェックしてみては、いかがでしょうか。
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