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2026.02.12

輸出・HACCP対応の設備投資と、失敗しない自動化 食品企業が活用すべき国の2つの施策とは

原材料価格の高騰や深刻な人手不足に加え、世界的な日本食ブームによる輸出拡大のチャンス。食品製造業は今、攻め(輸出・拡大)と守り(省人化・効率化)の両立を迫られています。

しかし、現場からは悲鳴も聞こえてきます。「輸出のためにHACCP対応工場に改修したいが資金がない」「人手不足を補うために自動化したいがノウハウがない」――。特に、食品製造業の8割を占める従業員20人以下の事業者をはじめとする中小企業では、日々の生産に追われ、設備更新や専門人材の育成が後回しにされがちです。

この資金とノウハウの悩みは、国の二つの施策をセット活用することで、解決への道が開けるかもしれません。 今回は、その概要と、なぜセットで考えるべきなのかを解説します。

HACCPと省力化 最新情報を得られる無料セミナー開催!

本記事でご紹介するHACCPハード事業と食品企業生産性向上フォーラムについて、制度の背景や活用の勘所を、農林水産省のご担当者に解説いただくセミナーを開催します。

日時:2026年2月26日(木)14:00〜15:35

オンライン開催・参加無料

食品関係事業者はもちろん、補助事業に関わる士業・支援者の方にもおすすめです。

第1章:最大6億円補助!工場の構造改革を支援するHACCPハード事業

1-1. HACCPハード事業とは

ハード面(設備投資)を強力に支援する「食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業 (通称:HACCPハード事業)」は、輸出先国の厳しい規制(HACCP、ISO、FSSC22000等)をクリアするために不可欠な、施設の抜本的な改修や機器整備を支援するものです。

HACCPハード事業に関する図表の出典はいずれも、農林水産省のウェブサイト「食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業」掲載の資料

1-2. 今や輸入の前提条件に

HACCPとは、製品の完成後に検査するのではなく、原材料の入荷から出荷までの全工程で、菌や異物の混入リスクを分析・監視する国際的な衛生管理手法です。今や欧米をはじめとする主要国では、HACCP対応は「あって当たり前」の輸入条件となっています。認証がなければ、どんなに美味しい商品でも国境を越えることはできません。つまり、この規制への対応遅れは、海外市場からの締め出しという致命的なリスクに直結します。

1-3. ハード整備に補助金が必要な理由

HACCP対応が難しいと言われる理由は、単なる書類作成ではなく、「工場の構造そのもの」を変える必要があるからです。
例えば、汚れた作業服で清潔なエリアに入らないための動線の分離や、菌の繁殖を防ぐための温度管理の徹底、清掃しやすい排水溝の形状など、物理的な環境を国際基準に合わせるには多額の投資が必要となります。本事業は、そのコストを支援するものです。

1-4. 補助金の規模と対象者

補助金額

  • 令和7年度補正予算では、上限6億円、下限250万円
  • 大規模な工場改修から、単体の機器導入まで幅広く対応可能な設計になっています

補助率

  • 費用の1/2以内

補助率対象者

  • 対象:食品製造事業者、食品流通事業者、中間加工事業者等(法人)
  • 企業規模:中小企業はもちろん、中堅・大規模事業者も申請可能です(ただし、中小企業には審査時の加点措置があります)

対象経費

  • 輸出対応に必要な施設の新設と増築(掛かり増し経費)および改修
  • 衛生管理機器の導入など

掛かり増し経費とは、工場の新設・増築を行う際に、建物の基礎や柱などの基本構造(通常建築費)を除き、衛生レベルを国際基準に引き上げるために上乗せで必要となる内装・設備工事費のことです。

申請先

  • 事業者は、輸出事業計画や事業実施計画書を作成し、都道府県窓口に提出します。

1-5. 対象となる設備

輸出向けといっても、特殊な機械ばかりではありません。以下のような、衛生レベルを根本から引き上げるための設備が対象となります。

  • ゾーニングの徹底:汚染区と清潔区を物理的に分けるパーティションや内装工事
  • 交差汚染の防止:衛生管理を強化するための床や排水溝の改修
  • 温度・品質管理:厳密な温度管理のための急速冷凍機や空調設備
  • 異物・アレルゲン対策:X線検査機や、専用ライン化のためのミキサー・自動包装機

1-6. 財務状況によっては申請不可

非常に重要な点として、以下のいずれかに当てはまる場合は、原則として申請の対象外となります。

  • 直近3年の経常損益が3年連続赤字である
  • 直近の決算が債務超過である

※財務状況に不安がある場合は、事前に都道府県の窓口で確認することをお勧めします。

1-7. 申請の落とし穴

この事業は非常に魅力的ですが、最大の注意点は「交付決定前の事前着手(工事契約、機器発注)は原則認められない」という点です。「急いでいるから」と先に発注してしまうと、補助金を受け取れません。
また、申請にあたっては輸出事業計画の認定が必要となり、導入する設備が、ターゲット国のどの規制(HACCPやISO等)をクリアするために必要なのかを具体的に証明する必要があります。単なる老朽化対策では採択されないため、事前の綿密な段取りが極めて重要です。

第2章:課題解決プラットフォーム「食品企業生産性向上フォーラム」

2-1. 継続的に経営を支える仕組み

食品企業生産性向上フォーラムは、農林水産省が設置した常設の会員制コミュニティサイトであり、継続的に経営を支える仕組みのことです。

食品企業生産性向上フォーラムに関する図表の出典はいずれも、同フォーラムの公式サイト

2-2. つながる力で食品業界は変わる

このプラットフォームには、食品製造業者だけでなく、機械メーカー、ロボットSIer、コンサルタントなどが集結しており、「繋がる力で食品業界は変わる」を合言葉に、業界全体で生産性向上に取り組んでいます。
会員登録(無料)をすることで、以下の三つの常設機能をいつでも利用できるのが最大の特徴です。

2-3. 三つの常設機能

① 「自動化相談」のマッチング機能

「どんな機械を入れればいいかわからない」という悩みに対し、Webサイトを通じていつでも専門家に相談が可能です。単なるQ&Aにとどまらず、課題解決に適した技術を持つ機械メーカーや、支援実績のある専門家とのマッチングをサポートしてくれます。

② 仲間と解決する「作業部会(WT)」

一方的な情報収集だけではありません。「作業部会(WT)」という仕組みを通じて、同じ課題を持つ食品企業同士や、解決策を持つ機械メーカーとチームを組み、協調して具体的な技術課題の解決に取り組むことができます。

③ 常に最新の「資金・技術情報」が集まる

HACCPハード事業のような補助金情報のほか、融資、税制優遇、技術セミナーの開催情報など、経営判断に必要な最新情報が常にアップデートされ、会員サイトやメルマガを通じて手に入ります。また、生産性向上に関する他社の取組事例を調べることもできます。

第3章:セット活用が最強の近道

3-1. 衛生管理と自動化は表裏一体

HACCPハード事業とフォーラムを組み合わせるべき理由は、衛生管理(HACCP)と自動化(生産性向上)が表裏一体の関係にあるからです。
例えば、自動包装機や移載ロボットの導入を考えてみましょう。これらは人手不足解消(生産性向上)の手段ですが、同時に、人が食材に触れる機会を減らすことにもなります。これは、HACCPやFSSC22000等が求める汚染リスク低減に直結するため、HACCPハード事業の支援対象として認められる可能性が高まります。
しかし、そのロジックを事業計画書に落とし込むには、専門的な知見が必要です。ここでフォーラムが役立ちます。

3-2. セット活用のイメージ

1. 【フォーラムで学ぶ】

自社のラインに自動化を取り入れることで、どう衛生レベルが上がるのか、専門家の知見を得て整理する(目利き力の獲得)。

2. 【計画に落とす】

例えば「このロボット導入は、生産効率を上げつつ、交差汚染リスクを〇%低減させる」という、HACCPの理念にかなった強力な事業計画を練る。

3. 【ハード事業で買う】

説得力のある計画で補助金を受給し、負担を抑えて設備を導入する。

4. 【実行】

生産性向上と輸出基準クリア(衛生管理の高度化)を同時に実現する。

また、フォーラムで得た知見は、補助金申請のためだけでなく、導入後の運用や将来の設備投資においても、自社の貴重な財産となるはずです。

第4章:成功の鍵は正しい理解と順序

今回ご紹介した二つの施策は、いずれも食品企業の将来を左右し得る強力な支援策です。
一方で、制度の背景や目的を十分に理解しないまま進めてしまうと、「対象外だった」「想定と違った」という結果になりかねません。
特に重要なのは、

「何を実現したいのか」→「そのためにどんな設備・体制が必要か」→「どの制度をどう使うか」 

という順序で考えることです。
HACCPハード事業は、単に設備を買うための制度ではありません。輸出や高度な衛生管理という目的に対して、合理的な設備投資であるかが問われます。
また、食品企業生産性向上フォーラムも、単に答えを与えてくれる場ではなく、自社にとって現実的な選択肢を見極めるための土台です。 制度を使いこなすことは大切です。そのためにも、まずは制度を正しく理解し、自社の課題と照らし合わせて考えることが、成功への確実な近道になるのではないでしょうか。

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