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政策解説

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2026.02.12

【令和8年度予算案:農林水産省編】 食を支える産業を、 物価高に負けない稼げる仕組みへ

令和8年度の農林水産省予算案は、改正された「食料・農業・農村基本法」の具現化に向けた「農業構造転換集中対策期間(令和7〜11年度)」の2年目にあたる予算です。予算総額は2兆2956億円(前年度当初比101.1%)。令和6年夏からのコメ不足を受けた、米の需要に応じた増産実現を最重点に掲げるとともに、人手不足やコスト増をスマート農業や物流効率化といった投資で突破し、農林水産業をコスト増に負けない稼げる産業へとアップデートすることを目指しています。

 

食料・農業・農村基本法

日本の農業政策の設計図にあたります。食料の安定供給や環境保全、農業の持続性、農村の活力を国の責任で支えることを定めた基本ルールで、令和6年の改正では、食料安全保障の強化や環境対応を重視しつつ、農業の生産性向上や付加価値創出を通じた持続的な発展を目指す方向性が明確化されました。

【本記事の数字の見方について】

本記事では、予算の全体規模や主要な投資額については、令和7年12月に閣議決定された政府案の数字を用いています。一方、個別事業の内訳については、事業内容を具体的に伝えるため、原則として農林水産省が公表している概算要求段階の資料に基づく金額を引用しています。このため、記事内の合計額と個別施策の積算が一致しない場合があります。

第1章
令和8年度予算案の規模と特徴、狙い

令和8年度予算案は、日本の食料安全保障を再構築するため、2.3兆円規模の投資を継続しています。

予算の全体構造

当初予算総額は22956億円。その内訳は、施設整備等を行う公共事業が7026億円、技術開発や経営支援などの非公共事業が15931億円となっています。

「農業構造転換集中対策」の加速

初動5年間(令和7〜11年度)の集中対策として、農地の大区画化等に166億円、共同利用施設の再編・集約化に238億円、スマート農業技術の開発・導入等に54億円、輸出産地の育成に37億円を計上しています。

復興特別会計による「なりわい再生」

一般会計とは別枠で、東日本大震災からの復興に向けた農林水産関係予算として総額475億円を要求しています。

農林水産省の令和8年度予算案は、5年間の集中対策期間の要として、現状維持ではなく、稼げる構造への転換を加速させる狙いがあると言えるでしょう。

第2章
コメの安定供給と需要開拓

令和6年夏以降のコメの需給ひっ迫を重く受け止め、生活者の大きな関心事である「主食の安定」を最優先事項としています。

1.米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業(15億円)

新たに創設されたこの事業では、「持続的種子生産総合対策事業(2億円)」や、低コスト生産を支援する「生産力強化に向けた稲作経営モデル確立支援事業(6億円)」、さらに「米・米加工品輸出拡大推進事業(2億円)」などを総合的に支援します。

2.コメ新市場開拓等促進事業(140億円)

加工用米・米粉用米に加え、新たに「酒造好適米」を支援対象に追加し、需要に応じた生産を後押しします。

3.デジタル技術を活用した水稲収穫量調査の精度向上に向けた研究・実証(8億円)

民間企業で利活用が進んでいる人工衛星データやAIなどのデジタル技術を活用し、効率的で信頼性の高い調査手法の開発を目指します。

本記事の図表の出典は、いずれも農林水産省のウェブサイト「令和8年度農林水産予算概算要求の概要」掲載の資料

第2章のまとめ

お米作りは、種まきから新しい食べ方の開発まで、いわばひとつの大きなチームプレーです。良い種(2億円)が強い選手を育て、工夫を凝らした栽培(6億円)がチーム力を高めます。そして、新しいコメの使い道(140億円)が攻めのバリエーションを広げます。さらに、最新のデジタル検品・予測システム技術(8億円)が監督のように全体を見渡し、試合(市場)の状況を的確に判断して、お米が途切れることなく消費者に届くよう連携を強化しています。

第3章
物流効率化と適正取引へ環境整備

輸送コストの上昇や不当な買いたたきを防ぎ、事業者が正当な利益を得られる環境を整備します。

1.持続可能な食品等流通総合対策事業(32億円)

物流の標準化(標準仕様パレットの導入等)やデジタル化、中継共同物流拠点の整備を支援することで、輸送能力の不足が懸念される状況(物流の2024年問題)への対応を強化します。

2.合理的な価格の形成(9億円)

「フードGメン」による取引状況の監視を強化するとともに、コスト指標の作成や消費者への理解醸成を促進し、合理的な価格形成を後押しします。

3.強い農業づくり総合支援交付金(12013百万円)

食料システムの構築や産地の基幹施設(集出荷・貯蔵施設、冷凍野菜加工施設など)、卸売市場の物流・品質管理の高度化といった現場の課題解決に向けて、拠点事業者や農業者、団体が連携して行う施設整備や仕組みづくりを総合的に支援します。

第3章のまとめ

物流が円滑に流れることで、地域経済の事業者に利益がしっかりと行き渡ります。もし物流が滞れば、ちょうど身体の血管が詰まるように、事業者への利益の流れも妨げられてしまいます。また、不当な取引による損失は、栄養がうまく全身に届かない状態と同じです。これらの課題を解決し、健やかな経済活動の循環を目指しています。

第4章
食のセーフティネットと担い手・多様な人材

地域の資源を有効活用し、次世代の担い手を呼び込むための施策です。

1.食品アクセス総合対策事業(643百万円)

経済的困窮者や買物困難者への食料提供に向け、フードバンクやこども食堂と地域の関係者が連携する体制づくりを支援します。

2.新規就農者育成総合対策等(114億円)

就農前の研修資金や就農直後の経営開始資金の交付、および雇用労働環境の整備等を強力に進めます。

3.女性が変える未来の農業推進事業(7200万円)

女性グループの活動を後押ししたり、地域のリーダーとなる女性農業者を育てたりします。また、女性農業者が活躍している事例を紹介し、意思決定に関わる方々の意識を高める活動も行います。さらに、男女の格差をなくすための実証的な取り組みも進めていきます。

第4章のまとめ

地域社会というチームを支える新戦力を補強したり、救護体制を整備したりすることで、チーム全体がどんな逆境(物価高など)にも負けないタフな集団に進化していくことを目指しています。

第5章
輸出の「パスポート」取得と攻めの計画認定

日本の稼ぐ力を最大化するため、国際基準への適合と、産地から食卓までを一気通貫でつなぐ計画的な取組を支援します。

1.海外の規制をクリアし、高付加価値な世界市場へ参入

【施策名】

食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業

【予算額】

123百万円
農林水産物と食品の輸出額を2030年までに5兆円へ拡大する目標に向け、輸出先国が求める厳しい規制や条件をクリアするための基盤整備を支援する事業です。主な内容は以下の通りです。

 

多様な国際認証と規制への対応を支援

支援対象となる主な認証

  • 輸出先国の政府機関が定めるHACCP認定
  • ISO、FSSC、JFS-C、有機JAS等の国際的な認証取得
  • ハラール・コーシャ等の宗教的規制への対応
  • 検疫や添加物の規制に対応した製品製造に必要な施設・設備も対象となります。
 

施設の新設・改修から高度な機器導入まで

食品製造事業者や流通事業者が行う以下のハード整備に対し、1/2以内(都道府県経由)を補助します。

施設整備
衛生管理を強化するための排水溝、床、壁等の改修や、空気による汚染を防止するパーティションの導入など。

機器導入
厳密な温度管理を可能にする急速冷凍庫や、輸出専用ラインにおいて添加物の混入を回避するための専用ミキサーなど。

 

投資効果を最大化するコンサルティング費用を支援

施設整備と一体的に行うことで、その効果をより高めるために必要なコンサルティング費用等の経費も支援の対象に含まれています。

この事業は単なる設備の更新ではなく、海外市場という新しい販路を獲得するための攻めの投資を支えるものです。特に食肉分野においては、別途「食肉流通構造高度化・輸出拡大総合対策事業(1,731百万円)」などの関連施策も用意されており、業種に応じたきめ細かな支援が受けられます。

2.食料システム法を追い風に、地域連携で稼ぐ力を最大化

【施策名】

地域の持続的な食料システム確立推進支援事業

【予算額】

311百万円

【内容】

食料システム法に基づき、食品事業者が行う環境負荷低減や流通合理化、安定的な取引関係の構築を強力に後押しします。前年度から予算を約3倍に拡充し、地域内外の連携を主導する司令塔としての機能を強化しています。
具体的には、以下の三つの柱で構成されています。

地域連携推進支援プラットフォーム(89百万円)
事務局となる民間団体を通じて、食品バイヤーや輸出アドバイザーといった専門家の派遣や、異分野マッチングを担うコーディネーターの配置など、事業の立ち上げから自走までを伴走支援します。

地域型食品企業等連携促進事業(197百万円)
地域の食品企業や農林漁業者が連携したコンソーシアムの設置を支援。新商品の試作開発や販路開拓、地域の食材を安定的に利用するための契約栽培の構築(中長期の契約締結)といった実証的な取組を支援します。

広域産地連携支援事業(25百万円)
地域を超えた広域的な産地連携を促進。食品メーカーや種苗会社、機械メーカー等が参加する「産地連携フォーラム」を開催し、原材料の安定調達に向けた実務家の派遣やノウハウ共有を行います。

【どんな場面で使える?】

「環境に配慮した新商品を開発したいが、地域の農家とのネットワークがない」「物流コスト削減のため、近隣の事業者と共同配送の仕組みを作りたい」といった際、専門家のコンサルティングやマッチング、実証にかかる経費(補助率1/2等)の支援を受けることができます。

【事業目標】

令和12年度までに、本事業を通じて食品事業者による持続的な食料供給の取組を1,000件創出することを目指しています。

第5章のまとめ

衛生管理(HACCP等)の徹底と、計画認定による生産から販売までの体系的な支援を通じて、日本の食産業が世界市場で競争力を高め、持続的な成長を実現することを目指しています。地域の食品企業や生産者が連携することで、環境負荷の低減や流通の合理化、新たな販路開拓など多角的な取り組みが促進され、その結果として日本の食が世界ブランドとして確立されるための基盤が整うことが期待されます。

第6章
福島の「なりわい」を繋ぎブランドを守る

福島の復興再生は、日本全体の食料安全保障を支える国家プロジェクトです。以下の2施策は、東日本大震災復興特別会計の予算に基づくものです。

1.福島県営農再開・高付加価値産地展開支援事業(37億円)

これまで個別に運用されていた営農再開支援や機械の取得支援、高付加価値産地の創出に向けた支援を一つのパッケージに統合しました。福島県に設置した基金を活用することで、現場のニーズに合わせて機械の導入から市町村を越えた広域的な産地形成までワンストップで柔軟に支援できる体制へと進化しています。

2.福島県農林水産業復興創生事業(33億円)

放射性物質の検査や国内外の販売促進、第三者認証GAPの取得などを通じ、生産から販売までを総合的に支援します。

第6章のまとめ

福島の再起を支援することは、日本の食料供給力を強固にし、安全・安心な国産ブランドの信頼を守ることそのものと言えます。

第7章
課題別「逆引き」ガイド

農林水産省の予算案には、食の現場が直面する物価高や人手不足を突破するための具体的な「道具箱」が揃っています。ご自身の立場や目的に合わせて、最適な支援策を見つけてください。

1.【事業者・生産者の方向け】経営を強くし、販路を広げる

「コメの需給ひっ迫に対応し、増産や新しい需要づくりに取り組みたい」

>> 第2章 (米穀等安定生産・需要開拓等)加工用米・米粉用米への転換支援や、デジタル技術を用いた高精度な収穫予測を推進します。

「物流費や原材料の高騰を、効率化や適正な価格交渉で乗り越えたい」

>> 第3章‐1、2 (持続可能な食品等流通/価格形成)物流の標準化(パレット導入等)への補助や、フードGメンによる不当な買いたたきの監視を強化します。

「人手不足に対応するため、産地の集出荷や加工などの共同利用施設を強化したい」

>> 第3章‐3 (強い農業づくり総合支援交付金)産地の基幹施設(集出荷・貯蔵施設、冷凍野菜加工施設など)の整備や、物流・品質管理の高度化を支援します。

「輸出に挑戦するため、HACCP認証や海外の厳しい規制をクリアしたい」

>> 第5章‐1 (HACCP等対応施設整備) 輸出先国の規制に適合するための施設改修や、国際認証の取得に必要な経費を補助します。

「脱炭素や環境配慮を、地域全体でビジネスチャンスに変えたい」

>> 第5章‐2 (地域の持続的な食料システム確立推進)環境負荷低減に取り組む事業者間のマッチングや、起業の伴走支援を行います。

2.【個人・新規就農を目指す方向け】農業の世界に挑戦

「農業を新しく始めたい/就農直後の不安定な時期を支えてほしい」

>> 第4章‐2 (新規就農者育成総合対策等)就農前の研修資金や、就農後の経営開始を支える資金を交付し、スムーズな立ち上がりを助けます。

「女性農業者としてリーダーシップを発揮し、グループ活動を広げたい」

>> 第4章‐3 (女性が変える未来の農業推進) 女性農業者のネットワーク形成や、意思決定の場への参画を後押しする実証事業を支援します。

3.【地域組織、NPO、生活者の方向け】食の安全網や地域の誇りを守る

「フードバンクやこども食堂を通じて、地域の食のセーフティネットを強化したい」

>> 第4章‐1 (食品アクセス総合対策事業)困窮者の方たちへの食料提供を円滑にするための体制づくりや、地域の関係者間の連携を支援します。

「東日本大震災からの歩みを止めず、福島の農林水産ブランドを再生したい」

>> 第6章‐1、2 (福島県営農再開、復興創生事業)機械導入から産地形成、放射性物質の検査体制維持まで、福島の「なりわい」を多角的に守ります。

農林水産省の令和8年度予算案は、人手が足りない、コストが上がって困っている、販路の確保が難しい、といった現場の悩みに応えるため、具体的な支援策が用意されています。自社や地域の状況に合った施策を選んで活用すれば、経営や日々の取り組みに新しい選択肢が生まれるはずです。国の予算を、身近な課題の解決や次の一歩につなげていくことで、私たちの現場も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

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