
このほど国の令和8年度当初予算案が公表されました。本シリーズでは、各省庁の予算案から、ビジネスや生活に直結する重要ポイントを紹介します。
経済産業省・中小企業庁編となる今回のキーワードは、「賃上げを継続できる体質への転換」です。経営の基礎を固める「令和8年度当初予算案」と、即効性のある設備投資を支える「令和7年度補正予算」を一体の「15か月予算」として運用し、国内投資と賃上げの好循環を強力にバックアップする方針です。
第1章:国内投資加速と成長基盤の強化
令和8年度の経済産業省予算案は、一般会計で8,694億円(前年度当初比2.2%増)が計上されました。そのうち、中小企業対策や科学技術振興などの直接執行分である「一般分」は3,754億円となっています。
しかし、経済産業省予算の主戦場はここだけではありません。GXや半導体、AIへの巨額投資を支える特別会計などを合わせた総予算は、3兆693億円という巨大な規模にのぼっています。「稼ぐ力」への投資を国家規模で加速させる構えです。
1.価格転嫁の法的な後押し
中小企業が原材料や労務費の高騰を適切に価格へ反映できるよう、「取引Gメン」による監視を強化します。年間1万件以上のヒアリングを実施。下請法を改正・強化し、令和8年1月から施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」により、発注側の責務がさらに明確になり、価格交渉がしやすい環境が整います。
2.大胆な国内投資促進税制の新設
成長投資に対し、建物まで含めた「即時償却(100%経費化)」または税額控除7%(建物、建物附属設備及び構築物は税額控除4%)を認める極めて異例の税制が要望されています(※対象資産要件あり)。建物の即時償却には、国内に投資する企業を本気で後押しする強いメッセージが込められていると言えます。
3.AIとデジタルで人手不足の根本解決狙う
単なる効率化ではなく、深刻な労働供給制約を突破するため、AIや半導体関連に巨額の予算を投じ、現場を救う賢いロボットやAI基盤モデルの開発を加速させます。
令和8年度当初予算案による取引適正化や次世代技術の土台作りと、令和7年度補正予算による生産性革命や大規模投資への強力なブースターを組み合わせることで、経済の体質転換を狙った二段構えの構造になっていると言えます。
第2章:企業成長と課題解決を支える補助金戦略
ここからは、皆さんの経営に直結する主力補助金の新しい仕組みを詳しく見ていきましょう。
令和8年度に向けて、中小企業の設備投資を支える主力補助金は、「新設の補正予算パッケージ(3,400億円)」と「再編された既存基金(2,960億円)」という二つの大きなルートに整理されました。事業承継・M&A補助金や持続化補助金など、皆さんにお馴染みのメニューは、生産性革命推進事業という3,400億円の新規補正予算パッケージの中に整理されました。制度名こそ聞き覚えがあるかもしれませんが、国はこれを企業の変革と飛躍を支えるための主力ルートとして、改めて強力に位置づけています。
今回の予算編成の最大の特徴は、単に機械を買う、ITを入れるといった手段を支援するのではなく、「その投資によってどう会社を作り変え、従業員の賃上げに繋げるか」という経営者の戦略(目的)がこれまで以上に問われている点にあります。
経済産業省と中小企業庁の令和7年度補正予算については、こちらの記事で、詳しくご紹介しています。

【ウオッチ 令和7年度補正予算案】
中小企業向け支援策
総額1兆円超賃上げ・成長支援パッケージ
1. 主力補助金の使い分け
補助金体系は、目的に応じて以下の二つの大きな「器(ルート)」に振り分けられました。
| ルート名 | 予算額(規模) | 主な補助金メニュー | 支援の主な目的 |
| 新規の補正予算ルート (生産性革命推進事業) | 3,400億円 | ・成長加速化補助金 ・デジタル化・AI導入補助金 ・持続化補助金 ・事業承継・M&A補助金 | 「企業の変革」を支援 DXやAI活用、事業承継、売上100億円を目指すような飛躍への挑戦 |
| 既存基金ルート (事業再構築基金の再編) | 2,960億円 | ・新事業進出・ものづくり補助金 ・省力化投資補助金(カタログ型等) | 「現場の強化」を支援 革新的な製品開発や輸出、人手不足を解消する即効性の高い投資 |
2. 「ものづくり」支援の考え方が変わる
「ものづくり」については、これまで、「ものづくり補助金」という一つの窓口に相談が集中していましたが、今後は「何のためにものづくりを強化するか」によって選ぶべきルートが変わる、と言えます。
- 「現場の技」で新市場や海外を狙うなら⇒既存基金ルートの「新事業進出・ものづくり補助金」の活用が適していると考えられます。
- 「全社的な飛躍」や100億企業を目指すなら⇒新規補正予算ルートの「成長加速化補助金」が、他の大規模投資施策とも連携しやすいため適していると考えられます。
つまり、従来の「看板(補助金名)」だけで選ぶのではなく、自社の成長ステージと投資の目的を照らし合わせて、最適な「道具箱」を選ぶ戦略が必要になります。
3. 人手不足対策のカタログ注文型を拡充
現場の喫緊の課題である人手不足に対しては、既存基金ルートの「中小企業省力化投資補助金」が強力な武器となります。複雑な事業計画書を一から作成しなくても、清掃ロボットや自動券売機など、効果が実証済みの汎用製品を「カタログから選ぶだけ」で導入可能です。スピーディーに現場の負担を軽減したい企業にとって、最も使い勝手の良い選択肢となるでしょう。
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4. 数十億円規模の大規模成長投資
【事業名】大規模成長投資補助金(4,121億円)(令和7年度補正予算)
中堅・中小企業が賃上げを伴いながら行う、工場新設などの大規模投資を最大50億円まで支援します。特に「売上高100億円」を目指す成長志向の強い企業には、下限額の緩和などの優遇枠(1,000億円程度)も用意されています。
5. 独自の技術で世界や大企業と渡り合う
【事業名】成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)
【予算額・制度内容】122.2億円
大学や公設試験研究機関と連携して行う、革新的な製品・サービスの研究開発を支援します。
【ここがポイント!】
Go-Tech事業は、「大企業には真似できない中小企業の強み=技術力」を最大限に伸ばすための中核施策です。「中小企業技術基盤強化税制」の拡充により、研究開発に取り組む際の税負担も軽減される仕組みが整っています。
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第2章のまとめ:自社の課題を見極めて適切な選択を
これまでは、「ものづくり・商業・サービス補助金」という一つの大きな道具箱の中に、DXも海外展開も新事業も、あらゆるシーンで使える道具が詰め込まれていた状況です。
今回の再編は、この中身を整理し、「会社を飛躍させるためのセット(令和7年度補正予算に基づく新規パッケージ)」と、「現場の技を革新するためのセット(既存基金/令和8年度当初予算案)」に分けたようなものです。
どちらの箱にも似たような道具(支援策)は入っていますが、「今、自社が直面している課題は現場の改善か、それとも未来への飛躍か」をまず定義すること。それが、令和8年度の支援策を賢く使いこなすための第一歩となるでしょう。
第3章:資金繰りを支える税制優遇が大幅拡充
令和8年度の予算案および税制改正要望では、長引くエネルギー価格の高騰への対策と、企業の資金繰りを直接支える税制優遇が大幅に拡充されています。これらは補助金のような複雑な申請を必要としないものも多く、即効性の高い経営改善策となりえます。
1. 電気代コントロールへ攻めの対策
当初予算案では、単なる省エネにとどまらず、エネルギーを自ら創り、蓄えることでコストを抑える「攻めのエネルギー管理」への支援が強化されています。
- 省エネルギー・非化石転換の投資促進・社会実装支援事業(840億円):先進的な省エネ設備への更新を支援します。
- >再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統用蓄電池等の電力貯蔵システム導入支援事業(350億円):再エネを無駄なく使う蓄電システム導入を支えます。
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- ペロブスカイト太陽電池等のサプライチェーン構築及び導入促進事業(567億円):「ビルの壁面」など、従来のパネルでは難しかった場所での発電を可能にします。
【どんな場面で使える?】
「工場の電気代が経営を圧迫している」という企業が、省エネ設備の更新と壁面パネルによる自家発電を組み合わせることで、外部からの電力依存度を大幅に下げ、将来的なコスト変動リスクを最小化する取り組みが想定されます。
2. 「40万円」まで即時経費を拡充
【施策名】中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の拡充・延長等
【ここがポイント!】
補助金のような審査を待つことなく、経営者の判断で即座に節税効果(利益の圧縮)を得られる強力な武器です。令和8年度からは、対象となる備品の取得価額が従来の30万円未満から「40万円未満」に引き上げられる方針です。合計300万円を上限に、購入したその年に全額を経費として計上(即時償却)できるため、高機能パソコンや最新事務機器などを揃えたい中小企業にとって、最も身近で強力な「節税の武器」となるでしょう。
3. 大胆な投資を後押しする新税制創設
【施策名】大胆な投資促進税制(新設)
高付加価値な投資を行う企業を対象に、建物まで含めた「即時償却(100%経費化)」または税額控除7%(建物、建物附属設備及び構築物は税額控除4%)を認める極めて異例で強力な税制が要望されています(※投資下限額やROI(投資利益率)水準に要件あり)。建物の即時償却に踏み切る背景には、国内に投資する企業を本気で後押しする強いメッセージが込められていると考えられます。
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4. 従業員の福利厚生と事業承継を支援
- 食事支給の非課税枠拡大:従業員に支給する食事代の所得税非課税限度額が、月額3,500円から7,500円(税抜)に倍増されます。物価高の中での実質的な手取りアップを支援する仕組みです。
- 事業承継税制に係る特例承継計画の期限延長:事業承継時の贈与税・相続税を猶予する特例措置について、特例承継計画の提出期限が延長(法人版:令和9年9月末、個人版:令和10年9月末)されます。
【ここがポイント!】
これは、後継者が事業を引き継ぐ際の税負担を100%猶予する仕組みです。税金の心配をせずに代替わりに取り組める環境を、国がさらに数年分確保したと言えます。計画的な代替わりを検討する絶好のタイミングになるでしょう。
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第3章のまとめ:上手に組み合わせて成長加速
今回のエネルギー、税制施策は、いわば、経営という航海における「船体の軽量化(節税)」と「新型エンジンへの載せ替え(固定費抑制)」を両立させた内容です。
補助金が「新しい目的地へ行くための燃料代(資金援助)」であるのに対し、エネルギー、税制施策は「船そのものの燃費を良くし、手元に残る食糧(キャッシュ)を増やす」役割を果たします。これらを組み合わせることで、より遠く、より速い成長が可能になるでしょう。
第4章:経営の悩みを解決する相談体制と地域の維持
企業の足腰を鍛え、経営の土台を固めるための施策です。これらは相談窓口の維持や取引の実態調査、事業承継の体制整備など、いわば企業の基礎体力を支える取り組みといえます。
1. 後継者不在や収益悪化…一人で悩まず専門家の知恵を借りる
【事業名】中小企業活性化・事業承継総合支援事業
【予算額・制度内容】138.7億円
収益力改善を助ける「活性化協議会」と、親族内・第三者承継(M&A等)を支援する「事業承継・引継ぎ支援センター」の運営を支えます。
【どんな場面で使える?】
「メインバンクから経営改善を迫られているが、具体的に何から手をつければいい?」「息子が継がないと言い出したので、外部への売却も視野に入れたい」といった、経営の岐路に立った場面で伴走してくれるでしょう。
2. 「よろず支援拠点」は街の経営相談所
【事業名】中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業
【予算額・制度内容】33.2億円
各都道府県の「よろず支援拠点」において、売上拡大やデジタル化、副業・兼業人材の活用など、あらゆる経営課題の相談に応じます。
【ここがポイント!】
令和8年度は、IT人材不足を補う「地域デジタル人材育成」や、外部の副業人材の活用支援も強化。よろず支援拠点は無料で利用できるため、「まずは誰かに相談したい」という経営者の第一歩として活用できるでしょう。
3. 人口減少地域で「地域の店・サービス」を守り抜く
【事業名】生活維持役務等効率化促進事業
【予算額・制度内容】3.0億円(新規予算)
人口減少地域のスーパーやガソリンスタンド等が、多角化や他業種との協業によって事業を継続する新モデルを支援します。生活者にとっても非常に身近な、地域の基盤を守るための、令和8年度注目の新規事業です。
【どんな場面で使える?】
「近所の給油所や商店がなくなると生活が成り立たない」といった住民の不安に対し、給油所や商店などの事業者が、他業種と連携して荷物の配送拠点を兼ねたり、高齢者の見守りやコミュニティカフェといった多角化経営を行ったりすることで、収益性を確保しながら地域インフラを維持する取り組みが想定されます。
第4章のまとめ:荒波を乗り越えるための羅針盤と港
本章で紹介した施策は、経営に行き詰まった時の「羅針盤(相談窓口)」であり、地域経済という海そのものを枯らさないための「港の整備(地域インフラ維持)」です。
補助金という「燃料」を積む前に、まずは専門家の知恵を借りて自社の現在地を確認すること。そして、地域全体で支え合う基盤を整えること。この「守り」の体制がしっかりしているからこそ、攻めの投資である「強力なブースター」が、迷いなく最大の効果を発揮できるでしょう。
第5章:課題別「逆引き」ガイド
国の支援策は、その中身を知り、実際に使いこなすことで、企業の未来が大きく変わることがあります。あなたが抱える課題を解決するのに最も適した事業を振り返ってみましょう。
- 「人手不足で、とにかく現場を楽にしたい」
👉 第2章-3:省力化投資補助金を活用。大幅賃上げを行う場合は、カタログ型、一般型ともに補助上限額が引き上げられます。また、一般型の場合、最低賃金引上げ特例として補助率の引き上げも設けられています(※小規模・再生事業者は除く)。
- 「賃上げとセットで一気に規模を拡大したい」
👉 第2章-4:大規模成長投資補助金でアクセルを。最大50億円の補助が視野に入ります。
- 「コスト増を価格に乗せたいが、交渉が怖い」
👉 第1章:取引Gメンによる監視と令和8年1月施行の「取適法」を武器に、正当な価格交渉を。
- 「そろそろ引退を考えているが、後継者の税金が心配」
👉 第3章-4:事業承継時の税猶予を活用し、円滑なバトンタッチを。
- 「備品を買い替えて、今すぐ節税したい」
👉 第3章-2:40万円特例を活用。即時経費化が可能です。
- 「独自の技術で大手と勝負したい」
👉 第2章-5:Go-Tech事業で研究開発を加速。
令和8年度の予算・税制改正案は、いわば「経営の足腰を固める守りの施策」が、「未来を切り拓く攻めの施策」を支える重層的な設計となっています。 価格転嫁の適正化や税制優遇によって手元のキャッシュを確保し、経営の「守り」を固めること。その安定した土台の上で、大型補助金や先端技術支援を「攻め」のブースターとして活用すること。この「両輪」を自社の成長フェーズに合わせて賢く組み合わせることが、不透明な時代を勝ち抜き、次なるステージへ飛躍するための最強の経営戦略となるはずです。
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