
大手法律事務所で約30年にわたり大企業の案件を牽引してきた実務経験を活かし、ベンチャーやスタートアップ支援に特化した事務所を立ち上げた淵邊善彦弁護士。単なるリスク回避のブレーキ役にとどまらず、ビジネスの実現方法を共に考える攻めの企業法務や、各分野の専門家と連携したワンストップでの伴走支援が最大の強みです。大胆な挑戦とスピード感が求められる起業家たちを法的な落とし穴から守り、IPO(新規上場株式)や次なる成長へと導く「経営者の右腕」としての、独自の支援手法と熱い信念をうかがいました。

――スタートアップにとっての「企業法務」とは、ビジネスにおいてどのような役割を果たすべきでしょうか。
大企業の企業法務の場合は、組織として整っていてルールが決まっており、それに沿って動くことになります。しかし、スタートアップの場合は、経営者の参謀的な役割として、ブレーキだけでなく「アクセルの役割」も必要になってきます。グレーゾーンでリスクを取る必要もありますし、走りながら考えるトライアンドエラーのような側面もあるため、法務の役割としてはかなり前向きにビジネスを進める役割が大きいと考えています。
大企業であってもコンプライアンスばかり強調されると法務が内向きになってしまい、うまくいかない時代です。ましてやスタートアップは新しいことに挑戦していくわけですから、一定のリスクを許容しながら、「どこまでリスクを取れるのか」についてアドバイスやチャレンジを促すことが必要です。
業界と経営者の個性に応じた舵取り
――弁護士として、攻めと守りのバランスを取るための舵取りは、どのような観点に注意していますか。
舵取りにおいて注意しているポイントは、大きく分けて2つあります。一つは「業務分野・業界」による違いです。例えば医療や薬機(医薬品・医療機器等)に関わるなど、人の生命・身体に関わる分野は、何か問題が生じれば一発アウトになりかねませんので、慎重な舵取りが求められます。一方で、ITやAIなどある程度リスクを取りながら失敗しても修正が効く業界では、アプローチが大きく変わってきます。 もう一つは経営者の個性です。しっかり守りを固めながら経営するタイプか、突っ走るタイプかによって、法務の果たすべき役割は変わります。スタートアップをリードする社長やCEOに対し、我々外部の人間がしっかりと情報をインプットし、「どういう経営判断をすべきか」という判断のサポートをしてあげることが一番大事だと考えています。
「ノー」ではなく規制に抵触しない代替案を示す
――リスクとリターンを踏まえて「どうすれば実現できるか」を一緒に考える「攻めのリーガルチェック」とは、具体的にどのようなサポートなのでしょうか。
例えば、AIやITを使った新しいヘルスケアサービスを提供しようとした時、それが医療行為に当たると医師しかできないということになってしまいますし、医薬品に当たれば薬機法に基づく許可が必要になります。また、何か問題があった時の補償の仕組みが保険に当たると保険業法の規制を受けます。
ユーザーのために便利なサービスを考えれば考えるほど、様々な規制にぶつかります。そこで単に「違法だからノー」と言ってしまってはビジネスが進みません。どうすれば規制に抵触しない形でサービスを提供できるか、スキームを少し変えるなどして、一緒に代替案を考えていきます。
日本は未だに規制が多く、参入障壁が高い傾向にありますが、新しいモビリティサービス(新しい移動サービス)のように、実証実験を経て安全性を確認し、法改正につなげたケースもあります。リスクが発生する可能性と、顕在化した時のインパクトを見極め、「ここまでは大丈夫、ここから先は危ない」と見立てをして、より安全な案を一緒に考える。この規制を乗り越える手助けは弁護士にしかできない、スタートアップ支援の面白さでもあります。
――大手法律事務所で30年活躍された後、ベンチャーや中小企業の支援に特化した事務所を立ち上げられた経緯を教えてください。また、起業家と接する中で、どのようなことに魅力を感じますか。
長く大企業の法務を見てきて、非常にやりがいはありました。ただ、大企業はどうしても保守的で意思決定に時間がかかる傾向があります。また、インハウス(企業内弁護士)が増えてきたことで、我々外部の弁護士が担うのは極めて専門性の高い一部の業務になってきました。
ビジネスを動かす楽しさ、父の背中が原点
実は、私が中小企業やベンチャーに関心を持った原点には、父の存在があります。父は元々大企業に勤めていたのですが、その後田舎の鹿児島に戻り、親戚と一緒に自動車関係の中小企業を経営していました。大企業時代とは違い、自分たちで会社を動かして楽しそうに働く姿を間近で見て、「自分でビジネスを創り出すって、楽しいのだろうな」と子ども心に感じていたのです。
その後も弁護士として、新しいことにチャレンジする多くの経営者を間近で見てきました。彼らの挑戦を応援したいという思いはずっと持っていたのですが、大手事務所では費用面などから、成長途上の会社をサポートするのが難しかったのです。そこで、スタートアップ支援を手掛けるために独立した、という経緯です。
ベンチャーの経営者と直接やり取りする中で、我々のアドバイスによって事業や経営がうまくいった場合には、すぐに結果として表れます。経営者と一緒に喜べること、そして会社が成長して上場まで一緒に歩めることは、本当にエキサイティングでワクワクしますし、何よりのやりがいですね。
――事務所の理念として地方企業のサポートも掲げられていますが、そこにはどのような思いや使命感があるのでしょうか。
日本全国に、素晴らしい技術を持っている企業や、ユニークな事業を展開している企業がたくさんあります。最近は地方の企業も早い段階から海外展開を目指していますが、地方は、それを法的にサポートできる人材が圧倒的に不足しています。国際取引の案件に対応できる弁護士は東京や大阪に集中しているのが実情なのです。
そのため、地方の企業が誰にも相談せずに、あるいは不適切なコンサルタントに頼ってしまい、きちんとした契約書を作らずに海外取引をして失敗してしまうケースが非常に多いです。私は日本弁護士連合会の「中小企業の国際業務の法的支援に関するワーキンググループ」座長を務めているのですが、そういった背景もあり、地方の企業が必要な法的サービスを受けられる体制を作っていくことに強い使命感を持っています。

「誰に相談すべき?」を解決する「ラボ」という場
――事務所名である「ラボ(実験室)」にはどのような思いが込められているのでしょうか。また、他士業や起業経験者と「ワンストップ」のチームを組むことで、顧客にどのような安心感を提供できると感じますか。
スタートアップの経営者は、「そもそも、どこに問題があるのか、誰に聞けばいいのか」分からないことが多いんです。目の前にある課題が、法律の問題なのか、税務なのか、労務の専門家に聞くべきなのか判断がつきません。
そこで、「とりあえずうちに相談に来てもらえればなんとかする」という場を作りたかったのです。当事務所には、自ら起業・上場させた経験を持つ者が顧問として参画しています。私たち弁護士のほかにも、税理士、会計士、弁理士、社労士など様々な外部サポーターがそろっており、会社設立から上場まで企業の成長に伴走できる体制を整えています。起業家自身が各専門家を探すのは大変ですし、コストもかかります。リーズナブルに長期的なトータルサポートができる「実験室(ラボ)」のような場にしたい…。事務所名には、そのような思いも込めています。
――最近は生成AIの進化も著しいですが、法務の現場においても影響は感じられますか。
ええ、急速に進化しています。経験が浅い弁護士に相談するよりも、AIの方が良い答えを出してくれるレベルまで来ていますね。これからはリサーチや一般的な契約書の作成などはAIに任せ、人間はより高度な判断やビジネス戦略に集中する時代になります。 そのためにも、弁護士はビジネスを深く理解し、経験を積まなければなりません。ひたすら文書チェックばかりしていては、AIに代替されてしまいます。ビジネスの最前線で、経営者と一緒に「どこまでリスクを取るべきか」を考え、挑戦を支える。そのような「スタートアップの法務」にこそ、これからの弁護士の価値やチャンスがあると考えています。
「取り返しがつかない」を防ぐ予防法務
――アーリーステージからの予防法務や、企業の健康診断である「法務ドック」を推奨されていますが、その理由と最適な受診タイミングを教えてください。
スタートアップは走りながら事業を修正していくことも多いですが、致命的な法的問題は後から取り返しがつきません。例えば、必要な許認可を得ずに事業をしていたり、個人情報を同意なしに第三者に提供していたりすると、後でベンチャーキャピタル(VC)から資金調達しようとしたり、M&Aで会社を売却しようとしたり、上場しようとした際に違法性が発覚して、すべてが頓挫しかねません。 そこで、リーガルチェックが必要になるわけですが、そのタイミングが資金調達の直前では遅すぎます。なるべく早い段階でリーガルチェックを受ける予防法務が重要になります。タイミングとしては、医療や製薬などリスクの高い業界であれば立ち上げ時から、それ以外の業界でもVCから本格的な資金調達をする前には受けていただくのが望ましいです。
予防法務
法的な紛争が生じる状況を想定し、紛争防止やリスクヘッジのためにあらかじめ対処しておく業務のことです。
――「法務ドック」では、具体的にどのような点をチェックし、アドバイスされるのでしょうか。
法務ドックとは、人間の健康診断のように企業の法的リスクを「見える化」する当事務所のサービスです。具体的には、ビジネスモデルを把握した上で、許認可や個人情報保護、消費者契約法などに違反していないかといった「守り」の面をチェックします。それだけでなく、「このビジネスモデルなら特許が取れるのではないか」「商標でブランドを強化できるのではないか」といった「攻め」の面も見ていきます。特に昨今は、ITとビジネスを組み合わせた「ビジネスモデル特許」が比較的取りやすくなっています。特許は早い者勝ちなので、最初の段階で専門の弁理士とチームを組んで特許を取り、それをベースに契約書でビジネスを固めていけば、資金調達も上場もしやすくなります。単なる法律のチェックにとどまらず、ビジネスを強くするための前向きなアイデア出しを行っています。
組織やビジネスに法務面で問題はないか、契約や労務管理、知的財産が活用できているかなどをチェックし、将来の紛争を未然に防ぐためのサービスです。
成長の土台となる「CLO」の存在
――IPOを目指すスタートアップが、ベンチャーならではのダイナミックなスピード感を損なわずに、成長の土台となる法務・ガバナンス体制を構築するコツは。
一つは、経営トップ自身が「法律やコンプライアンスを守ろう」というリーガルマインドを持っていることです。そしてもう一つは、組織の中に「法的な素養があり、ビジネスや経営も分かっている人材」(CLO:チーフリーガルオフィサー=最高法務責任者)を置くことです。スタートアップのCLOは、ガチガチに組織を管理するのではなくCEO(最高経営責任者)の右腕としてリスクを管理しながらガバナンス体制を作っていく存在であるべきです。大企業の法務部長をそのまま連れてきてCLOに据えても、カルチャーが合わず失敗するケースが多いですね。ベンチャーのスピード感や柔軟性を理解できる人材を配置することが重要なのです。
CLO
単なる法務担当ではなく、経営陣の一角として戦略的法務を推進する役職のことです。
大手もベンチャーも知るからこその強み
――大企業とベンチャーのアライアンス(業務提携)が増えていますが、双方がWin-Winとなる対等な関係を築くために、弁護士として間に入り、どのようにサポートされていますか。
私は大企業とスタートアップ、両方の立場から弁護士として関わってきた経験があるため、両者の論理やカルチャーの違いがよく分かります。大企業が提示してくる厳しい契約書に対し、スタートアップ側はそのまま飲むことはできませんし、逆に読まずにサインしてしまうのも危険です。
そこで私が間に入り、若い経営者には「大企業の社内プロセス上、ここは仕方ない部分なんだよ」と説明して緩和剤になったり、逆に大企業側には「スタートアップのリスクテイクの姿勢を理解して、歩み寄る必要がある」と伝えたりします。お互いの認識には違いもありますが、いつまでも交渉が終わらない事態を避けるべく、両者の立場が分かる第三者として、「この辺りが合理的な落とし所でしょう」と着地点を見つけるサポートをしています。これは長年の経験がないと難しい役割だと感じています。
起業家の大胆な挑戦を全力で応援したい
――最後に、これからIPOや新しいイノベーションに挑む起業家へ、ビジネスを共に創るパートナー(右腕)としてメッセージをお願いします。
今、生成AIの進化や社会情勢の変化など、世の中が急激に変わっています。スタートアップにとって難しい環境でもありますが、逆境を利用して新しい価値を生み出す最大のチャンスでもあります。
これからの日本企業は、国内市場だけでなく、最初からグローバルなビジネスを見据える必要があります。例えば私の地元である鹿児島をはじめ、九州には第一次産業(畜産や水産)など、海外で高く評価されるポテンシャルを秘めたビジネスがたくさんあります。そこにITやAIなどの新しい技術を組み合わせることで、グローバルに展開できるチャンスは無限に広がっています。
日本は、一度企業を倒産させると再起が難しい環境がまだありますが、だからこそ我々のような専門家をうまく活用し、失敗しないようにリスクをコントロールしながら大胆にチャレンジしてほしいと思います。情熱を持った起業家の挑戦を、我々は全力で応援していきます。
専門家プロフィール

淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表
弁護士
企業法務の第一線で培った豊富な実務経験と、大学院で教鞭をとった実績を併せ持つ弁護士。ビジネスの現場を熟知した知見を活かし、トラブルを未然に防ぐ予防法務や、事業の成長を見据えた経営・知財戦略の支援を得意とする。多様な専門家が集まり、新たなビジネスを共に創り出す「実験室(ラボ)」でありたい――。事務所名には、起業家を全力で応援する熱い思いが込められている。
事業者情報
| 事務所名 | ベンチャーラボ法律事務所 |
| 代表者 | 淵邊 善彦(弁護士4名) |
| 連絡先 | TEL:03-6434-5251 FAX:03-6434-5259 |
| 事業内容 | 弁護士業務、法務コンサルティング業務全般 |
| 住所 | 〒107-0062 港区南青山2-22-17センテニアル青山5階 |
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