専門家・企業ブログ

政策・地域創生

bizrize

2026.05.28

地元の特産や規格外野菜を有効活用 廃校がレストランへ再生

ローカル10,000プロジェクトの先行事例に学ぶ「いぶすきブルワリー」編

事業者と地方自治体、金融機関などの連携により、地域の資源と資金を活用した新規事業の立ち上げを支援する総務省の補助事業「ローカル10,000プロジェクト」。地方創生を後押しする施策として、いま全国の中小企業やスタートアップから高い注目を集めています。
本記事では、廃校をクラフトビール醸造所やレストランへと生まれ変わらせた鹿児島県指宿市の「いぶすきブルワリー」の事例をご紹介します。本制度の補助対象となったのは併設するレストランの改修工事です。産官金連携のヒントとしてぜひ参考にしてください。

校舎のはるか向こうにそびえるのは、薩摩富士の愛称で親しまれる開聞岳。ここは、2021年3月に140年を超す歴史に幕を下ろした鹿児島県指宿市の旧徳光小学校です。かつて子どもたちの声が響いていたこの場所は今、クラフトビールの芳醇な香りが漂う醸造所「いぶすきブルワリー」へと生まれ変わっています。
オーナーの今奈良孝さんは、市内で高齢者福祉事業などを営む傍ら、商工会議所の活動を通じて長年地域づくりに尽力してきました。約10年前から「クラフトビールで地域を盛り上げたい」と構想を温めており、市が募集した廃校利活用の公募がきっかけで動き出します。

▼醸造所で作業中の今奈良孝さん。
本記事の写真提供:いぶすきブルワリー、今奈良さん

資金借り入れから開業まで2年半の道のり

オープンまでに要した歳月は約2年半。当初は自らの借り入れで資金を調達し、事業をスタートさせました。「必ずこの場所をよみがえらせる」という経営者としての強い情熱があったからこそ、酒類製造免許取得までの長い資金繰りや、草が生い茂った敷地を自らの手で整備するといった苦労を乗り越えることができました。

▼校舎の外観。生い茂っていた草(いずれも写真上)を刈り取り、整備しました。

「廃校復活プロジェクト」のなかで、併設するレストランへと改修するための工事を後押ししたのが、総務省の「ローカル10,000プロジェクト」の活用でした。きっかけは指宿市役所の担当者からの提案だったといいます。レストランのメニューには、規格外野菜の活用による「フードロス削減」、そして今奈良さんの本業の知見を活かした将来的な障害者の就労支援の場づくりが見据えられていました。この農業、福祉、観光の連携という高い公益性(地域課題の解決)と事業性の両立が、金融機関(南日本銀行)による無担保融資と伴走という形での力強い参画へとつながりました。

ビール醸造技術や機材手配については東京の専門コンサルタントを頼る一方で、補助金の申請書類づくりは、指宿市役所の担当者の協力を得ながら進めました。専門家と行政のサポートを賢く使い分けるという工夫は、これから申請を検討する事業者にとっても参考になるはずです。

軌道修正しつつ事業を前進させる

今奈良さんには当初、校舎全体を事業に活用し、補助金は醸造設備にも充てたいという思いがあったそうです。結果としては、より多角的な廃校活用の枠組みの中で、別の事業者と校舎のエリアを分割して活用することになり、補助金はレストラン「廃校キッチン 麦と庭」の工事に充てることとなりました。
補助事業においては、すべてが当初の構想通りにいかないこともあり得ます。ときには、与えられた条件の中で柔軟に補助対象を見極め、事業を前進・実現させることも必要になるでしょう。

銀色の醸造タンクが並ぶ、かつての家庭科室。音楽室は旧徳光小学校の校歌を掲示するなど、学校の面影を活かしたノスタルジックなレストランへと生まれ変わりました。「1年目はビール造りと販路開拓に必死でした。これからはさらに販路を広げ、広い校庭や体育館を使ったイベントなども仕掛けていきたい」と、今奈良さんは先のビジョンを見据えます。
情熱と覚悟を持った民間事業者と、それを支える自治体、伴走する金融機関。地域の資源と国の施策を巧みに掛け合わせ、昔懐かしい空間に新たな価値を生み出した「いぶすきブルワリー」の挑戦は、地方創生における一つの理想的なモデルと言えるでしょう。

▼旧音楽室(上)はレストランに生まれ変わりました

▼旧家庭科室(上)は醸造所に生まれ変わりました


指宿市役所企画政策課・ご担当者にうかがいました

地域課題の解決と、にぎわい創出の拠点としての再生を重視

――旧徳光小学校については、いぶすきブルワリー単独ではなく、イベントスペースの運営事業者と共存する形で利活用する枠組みにしたそうですね。複数の事業者を誘致することで、地域コミュニティの維持や観光面でどのような相乗効果を期待されていますか。

旧徳光小学校の利活用にあたっては、廃校となった施設を単に再利用するだけでなく、民間事業者の創意工夫により、地域課題の解決や新たなにぎわいの創出につながる拠点として再生することを重視しました。
一つの用途だけで活用するのではなく、複数の機能が共存する形にすることで、地域住民、観光客、事業者など、さまざまな方が訪れる機会が生まれ、地域コミュニティの維持や交流人口の拡大につながるとともに、地域雇用や新たな特産品を創出することで「地域ブランド力」の向上につながることを期待しています。
また、当地域に、当事業者様のクラフトビール醸造所・レストランが組み合わさることで、地元住民に加え、観光客が立ち寄る新たな観光ルートとしての効果も期待しています。

――補助金は、ブルワリーに併設するレストランの改修に充てられたそうですね。地域の食の魅力発信や交流拠点化に向けて、市としてどのような戦略や狙いがあったのでしょうか。

ローカル10,000プロジェクトの対象となったレストラン部分については、地域の食材や地域資源を生かし、指宿ならではの魅力を発信する拠点としての役割を持つものと考えました。
具体的には、地元の黒牛等や規格外品の野菜、就労支援B型事業所で製造されたパン等を活用することで、食品ロスの削減、農家所得の向上、福祉分野との連携等につながることを期待しています。
また、池田湖、開聞岳、フラワーパークかごしまなど周辺観光地とあわせた新たな観光周遊ルートの拠点になることも期待しています。

――今奈良さんから廃校活用の相談を受けた際、市役所からローカル10,000プロジェクトの活用を提案されたと伺いました。地域振興に関する補助金はいくつかあると思いますが、本制度を推された理由を教えてください。

本制度を提案した理由は、今回の事業が、地域資源を活用しながら地域課題の解決と地域経済循環の創出を図るという、ローカル10,000プロジェクトの趣旨に合致していると考えたためです。
本事業は、廃校となった旧徳光小学校、徳光スイカ等の地元特産品、指宿の温泉、地域金融機関の融資、事業者のノウハウ等を組み合わせた取組です。
事業化にあたっては、レストラン改修等の初期投資が必要であったことから、地域金融機関の融資とあわせて事業の立ち上げを後押しできる本制度が有効であると判断しました。

事業者の構想を整理し、制度趣旨に沿った事業計画となるよう支援

――関係者と連携して申請をスムーズに進めるために、指宿市としてどのような調整や伴走支援に注力されましたか。

申請にあたっては、事業者、地域金融機関、市がそれぞれの役割を整理しながら、制度の趣旨に沿った事業計画となるよう支援しました。
市として特に注力した点は、事業者の構想を、地域課題の解決、地域資源の活用、新規性・モデル性、地域経済への波及効果という観点から整理し、事業計画書等で分かりやすく伝わるようにすることです。
具体的には、旧徳光小学校の利活用という背景、地域コミュニティの衰退や災害時拠点といった地域課題、地元特産品や温泉などの地域資源、農業・福祉・観光の連携、雇用創出や観光周遊への効果などを整理しながら、申請内容に反映できるよう支援しました。 また、金融機関様には、資金面での支援と伴走的支援を担っていただき、市としても関係分野と連携しながら進めました。


ローカル10,000プロジェクトとは

事業者や地方自治体、金融機関などの連携により、地域の資源と資金を活用して地域に雇用を生み出す地域密着型事業の立ち上げを支援する総務省の補助事業(補助金)です。事業が採択されるためには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 地域密着型:地域の資源を活用する事業であること
  2. 地域課題への対応:公共的な課題の解決につながる事業であること
  3. 地域金融機関等による融資:公費による交付額と同額以上の融資(原則として無担保)を受けること
  4. 新規性:事業者にとって新規事業の立ち上げであること
  5. モデル性:地域の中で前例がなく、モデルとなる事業であること

資金構成としては、公費(国費+地方費)、地域金融機関による融資、自己資金を組み合わせます。支援対象となるのは、民間事業者の初期投資費用(施設整備費、機械装置費、備品費など)です。

いぶすきブルワリー

名称 いぶすきブルワリー
住所 〒891-0513 鹿児島県指宿市山川岡児ヶ水218-1
電話 0993-23-8177
営業時間 11:00~15:00(オーダーストップ14:00)
※醸造見学などは10:00~16:00
定休日 火曜日・水曜日(祝日の場合は営業、翌日休)
URL https://ibusuki-brewery.jp/

主なメニュー(価格は税込み)

byBizRize

専門家・企業ブログ