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政策解説

bizrize

2026.02.06

【令和8年度予算案:厚生労働省編】 人が増えない時代の経営に備える 賃上げ・人材維持・省力化を同時に進める施策群

厚生労働省の令和8年度当初予算案は、一般会計総額が35兆433億円(前年度比2.1%増)に達しました。注目すべきは、高齢化による社会保障費の自然増とは切り離し、約2900億円もの賃上げ・物価対応予算が政策判断として新たに確保された点です。
これは、景気回復や一時的な人手不足への対応ではなく、少子高齢化によって働き手の総数そのものが増えないことを前提に、賃上げや人材投資、生産性向上を同時に進めなければならない――いわゆる「労働供給制約社会」に本格的に向き合い始めたことを示しています。 本記事では、中小企業が実際に利用できる助成金や専門家派遣等の支援について、「どう使えるか」という視点を重視し、現場での活用イメージを想像しやすい構成としました。

第1章
令和8年度予算案の全体像

1.経済・物価動向等の対応分を大規模に積み増し

令和8年度の厚生労働省予算案は、一般会計総額が35兆433億円に達し、前年度当初予算比で2.1%の増加となりました。その中心となる社会保障関係費は34兆7088億円を占めています。
今回の予算案における最大の特徴は、予算編成の構造そのものが変わった点にあります。従来、社会保障費の伸びは高齢化に伴う自然増が主因でした。令和8年度予算では、この自然増を4800億円程度(年金スライド分含む)に抑制する一方で、それとは別枠として経済・物価動向等を踏まえた対応分を大規模に積み増しています。
政府全体の社会保障関係費では、この別枠加算が0.52兆円(5200億円)に達します。
そのうち厚生労働省分だけでも、約2900億円が賃上げや物価高騰への対応として「外数」で上乗せされています

デフレ脱却という新たなステージへの移行を背景に、これほど巨額の賃上げ・物価対策費が自然増とは別個に確保されるのは、厚生労働省の予算編成史上でも異例の攻めの投資と言えるでしょう。
この背景にあるのが「労働供給制約社会」への構造転換です。労働供給制約社会とは、特定の企業に人が集まらないという従来の人手不足とは異なり、少子高齢化によって社会全体の働き手の総数そのものが物理的に限界を迎え、もはや増えることがない構造的な限界を指します。この2900億円という規模は、労働者が企業を選ぶ時代において、賃上げ、リスキリング、職場環境の改善にかつてない本気度で取り組む国の姿勢を示していると言えます。

この異例の投資枠を背景に、国が掲げる重点事項は次の三つに集約されます。

  • 物価上昇を上回る賃上げの普及、定着
  • リスキリングによる労働者の能力向上
  • 人口構造の変化(労働供給制約社会)を見据えた保健、医療、介護体制の再構築
本記事の図表の出典は、いずれも厚生労働省のウェブサイト「令和8年度厚生労働省所管予算案関係」に掲載の資料

2.支援策を活用し負担軽減を

中小企業経営者にとって、社会保険料の負担が年々重くなっていることは、避けて通れない現実です。令和8年度の厚生労働省予算案でも、社会保障関係費は引き続き大きな割合を占めており、経営コストへの影響を懸念する声は少なくありません。
一方で今回の予算では、前述の別枠予算を活用し、賃上げや人材育成、職場環境の改善を後押しするための支援策が手厚く用意されています。国としても、労働力不足が深刻化する中で、企業が人材に投資しやすい環境を整える必要性を強く意識していることがうかがえます。
例えば、従業員のリスキリングに取り組む場合、教育訓練費用の最大75%が助成対象となる制度があります。さらに、訓練後の生産性向上を目的とした設備導入についても、最大150万円の助成が新たに設けられています。賃上げや人材育成に伴う資金負担を、こうした支援策によって一定程度軽減できる余地がある点は、見逃せません。

3.自社に合った選択が必要

労働力が希少となる社会では、社会保障費を単に避けられない負担として受け止めるだけでなく、同時に用意されている支援制度をどう活用するかが、経営の安定性に影響してくるでしょう。今いる人員を前提に、補助金や助成金を最大限活用し、徹底した省力化投資に取り組むことが求められる時代。助成金や無料支援を組み合わせながら、人材の定着や生産性向上につながる体制づくりを進めていく。令和8年度は、そうした視点で予算を読み解き、自社に合った選択を積み重ねていくことが、これまで以上に重要になる一年と言えそうです。

第2章
人材を辞めさせない組織づくり

働き手が物理的に減少する中、今いる人材を離職させないための環境整備を支援します。

1.ハラスメントから従業員を守る

【施策名】

職場におけるハラスメントへの総合的な対応

【予算額・制度内容】

9.2億円。パワハラ、セクハラ、妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント、カスハラなどは労働者の尊厳を傷つけ、継続的な就業を妨げる大きな障害となります。相談窓口担当者等を対象とした研修動画の配信、マニュアル周知、労働局による相談対応、実態調査(新規)などが予定されています。

2.多様な正社員制度で、優秀な人材を逃さない

【施策名】

「多様な正社員」等の多様な働き方の実現のための環境整備の推進

【予算額・制度内容】

6200万円。勤務地や時間を限定した「多様な正社員」制度を導入し、育児や介護でフルタイムが難しい層を戦力として確保することを支援します。制度導入については、「働き方改革推進支援センター」で、社会保険労務士などの専門家による無料コンサルティングを受けることができます。

助成金

新たに「多様な正社員」を規定して、有期雇用労働者などから転換した場合、キャリアアップ助成金を活用すると1人当たり最大90万円(障害者の場合。大企業67.5万円)が支給されるのに加え、1事業所当たり40万円(大企業30万円)が加算されます。

3.新制度「育成就労」で外国人材を長期戦力へ

【施策名】

育成就労制度の施行に向けた必要な体制整備

【育成就労制度】

従来の技能実習制度に代わり、人材育成を通じた国際協力を推進することを目的とした新制度です。外国人の技能等の修得および保護を図り、育成した人材を「特定技能1号」相当へ導くことを目指しています。同制度の導入に伴い、外国人労働者の適正な雇用管理や職場定着を支援するため、ハローワーク等における通訳員の配置や専門的な相談援助体制の整備も並行して行われます。

【予算額・制度内容】

88億円(外国人技能実習機構への交付金として。システム改修等含む)。外国人材を将来のリーダー候補として育成・定着させるための新制度へのスムーズな移行を国がバックアップします。

第2章のまとめ

企業がハラスメント対策に取り組み、多様な働き方を提示することは、今や福利厚生にとどまりません。人材流出を防ぎ、採用費を抑えるための経営の防波堤とも言えるでしょう。

第3章
生産性向上と能力の「見える化」

1.タスク・シフト/シェアで専門職の不足を解消

労働供給制約社会において、専門職がその能力を最大限に発揮できるよう、周辺業務を補助スタッフ等に移管する「タスク・シフト/シェア」を強力に推進します。

(1)介護現場:周辺業務の切り分けによる負担軽減

【施策名】

訪問介護における人材確保のためのタスクシェア・タスクシフトの推進支援

【予算額】

地域医療介護総合確保基金86億円の内数

【内容】

掃除、洗濯、見守り、ゴミ出しといった周辺業務を、地域のボランティアやシルバー人材センター等に分担する仕組みの構築を支援します。訪問介護員が身体介護などの専門業務に注力できる環境を整え、現場が回らない状況を解消します。

【どんな場面で使える?】

家政婦(夫)との協働モデル構築、地域ボランティアや学生とのマッチング支援、業務の役割分担ルール策定や実証事業の実施などに要する費用が補助対象(補助率2/3)になります。

(2)医療現場:支援人材への業務移管の促進

【施策名】

医療専門職支援人材確保・定着支援事業

【予算額】

1000万円

【内容】

医師や看護師が行っている作業や業務を、医師事務作業補助者や看護補助者等の「医療専門職支援人材」へ移管(タスク・シフティング)することを推進します。

【ポイント】

支援人材が現場に定着するための研修プログラムの開発や、医療機関向けの導入支援、業務内容の周知啓発などが実施されます。

2.「三位一体の労働市場改革」による適切なマッチングと処遇改善

労働者が自らの意思でリスキリングや労働移動を行い、企業が個々の能力を正当に評価できるよう、情報インフラの整備と人事制度の変革を同時に進めます。

 

三位一体の労働市場改革

リスキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化を実現することにより、客観性や透明性、公平性が確保される雇用システムへと転換し、構造的な賃金上昇を目指す仕組みです。

(1)労働市場の可視化

【施策名】

職業情報提供サイト(job tag)の運用等

【予算額】

4.1億円

【内容】

一人ひとりが持つ能力を最大限に活かし、人材配置のミスマッチを減らすための情報インフラです。500超の職業について、仕事内容の動画紹介や、職種別・都道府県別の賃金、求人倍率などの客観的なデータを提供します。求職者の利活用のみならず、企業側においても「職務整理支援機能」を活用した職務定義書の作成、社員のスキルや知識データを活用した人事評価項目の策定、さらには社員のキャリア開発や能力チェックといった、自社の能力評価や賃金制度を整備するための公的な基準として幅広く活用できます。

【ポイント】

令和8年度は新規職業の追加に加え、ユーザビリティ向上のためのサイト改修(アンケート機能の実装や構成の直し等)を予定しており、より実務に使いやすい環境が整えられます。

(2)ジョブ型人事制度の普及

【施策名】

中小企業・小規模事業者等に対する働き方改革推進支援事業

【予算額】

30億円

【内容】

各都道府県に設置された働き方改革推進支援センターにおいて、社会保険労務士などの専門家が、個々の企業の実態に合わせた「ジョブ型人事指針」の周知や相談対応を行います。

【ポイント】

単なる情報提供にとどまらず、賃上げや人手不足解消に向けた雇用管理改善など、各社の課題に応じた伴走型支援を無料で受けることが可能です。

第3章のまとめ

タスク・シフトによる現場の業務効率化や、ジョブ型人事制度の普及といった施策を通じて、人材の能力を最大限に発揮できる環境づくりが進められています。国はこれらの取り組みに予算を投じ、個々の働き手が適切な職場で活躍し、その成果がしっかりと還元される仕組みの実現を目指しています。

第4章
健康維持は、安心して長く働く第一歩

生活者や労働者の歯や体の健康維持につながる施策に取り組むことで、安心して長く働くことができる環境を整備します。

1.女性の健康課題に向き合い、離職を食い止める

【施策名】

不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース(両立支援等助成金)

【助成金額】

1事業主当たり各1回限り 1回30万円(①不妊治療、②月経に関する課題の解決、③更年期に関する課題の解決。環境整備や休暇取得に関する条件あり)。更年期や不妊治療による離職を防ぐための職場環境整備に対し助成されます。令和8年度までの経過措置として、不妊治療において20日以上連続して休暇を取得させた場合、さらに30万円を加算する長期休暇の加算措置も設けられています。

【ポイント】

従業員からの相談に応じる者を選任する、休暇制度などを就業規則に規定するといった所定の要件を満たすことで助成金を受給できます。女性の健康課題に対応するため、これらの環境整備を進めることは、女性従業員の離職という大きな損失を防ぐための投資になるでしょう。

2.国民皆歯科健診への第一歩(令和7年度補正予算)

【施策名】

生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)パイロット事業(令和7年度補正予算)

【予算額・制度内容】

877百万円。将来的な医療費爆発を防ぐため、国が全世代の歯科健診を主導。簡易な口腔スクリーニングを用いた歯科健診を主体的に行う保険者及び事業主に対する支援です。

第4章のまとめ

従業員の健康管理は、企業の稼働停止リスクを回避するための保険とも言えます。助成金で、そのコストの一部を支援する取組が始まっています。

第5章
課題別「逆引き」ガイド

「介護・医療の現場が回らない。専門職の負担を減らしたい」

>> 第3章-1:タスク・シフト/シェア支援。

介護では周辺業務を地域人材に切り分ける仕組みづくりが補助対象です。
医療では医師・看護師の業務を支援人材へ移管するための研修・導入支援が受けられます。

「社員のスキルを正しく評価したい」

>> 第3章-2(1):job tag(職業情報提供サイト)で職務内容、賃金水準、必要スキルを可視化し、自社の職務評価や賃金制度の整備に活用できます。

「ジョブ型人事に移行したいが、何から始めればいいか分からない」

>> 第3章-2(2):働き方改革推進支援センターで、社会保険労務士によるジョブ型人事制度の導入支援(無料の伴走支援)が受けられます。

「育休や介護でフルタイムが難しい社員が辞めることなく、戦力になってほしい」

>> 第2章-2:多様な正社員制度の導入支援。

勤務地・勤務時間を限定した「多様な正社員」を導入することで、育児・介護中の従業員を長期的な戦力として確保できます。制度導入時には専門家の無料コンサルティングが受けられ、有期雇用から転換する場合はキャリアアップ助成金(最大90万円+事業所加算40万円)が活用できます。

「外国人材を一時的な労働力ではなく、長期的な戦力・リーダー候補として育てたい」

>> 第2章-3:育成就労制度の円滑な施行。技能実習に代わる新制度への移行をハローワークや専門機関がバックアップし、特定技能へのステップアップを支援します。

「女性従業員の健康課題に対応したい」

>> 第4章-1:両立支援等助成金(不妊治療・女性の健康課題対応コース)。所定の環境整備を行うことで1回30万円の助成金が支給されます。

社会保障費の増加は避けられない一方で、企業が取り組みやすい形でさまざまな支援策が用意されています。助成金の活用は、人材の定着や働きやすい環境づくりに確かな後押しとなるでしょう。変化の大きい時代だからこそ、使える支援を上手に取り入れながら、自社に合った形で体制を整えていく。そんな積み重ねが、これからの経営を支えていくはずです。

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