
2026年に入っても、インフレや金利のある世界への移行、海外情勢の変化など、私たちを取り巻く環境は依然として予断を許しません。しかしその一方で、力強い賃上げや内需の回復といった明るい兆しも確かに見え始めています。
期待と不安が交錯するこの時代、経営者は何を羅針盤として舵を取るべきか――。「飛躍への道標」(随時掲載)では、経済・産業界のキーパーソンへのインタビューを通じて、変化を恐れず、次なる成長へ踏み出すためのヒントを探ります。 第1回は、全国の中小企業を知り尽くすシンクタンク、信金中央金庫 地域・中小企業研究所の鉢嶺実・上席主任研究員をお迎えし、最新のデータから読み解く日本経済の現在地と、企業が目指すべき姿についてうかがいました。
信金中央金庫 地域・中小企業研究所(https://www.scbri.jp/)
信用金庫のセントラルバンク「信金中央金庫」のシンクタンク部門(1994年設置、2010年改称)。「地域」「中小企業」「協同組織」等をテーマに専門的な調査研究を行い、地域経済の活性化に貢献しています。特徴の一つは、四半期ごとの「全国中小企業景気動向調査」です。郵送やネット調査が一般的な中、全国の信用金庫担当者が取引先を直接訪問する面接聴き取り(現場の感触)を重視しており、大手の統計には表れにくい小規模企業のリアルな実態を捉えたデータとして高く評価されています。
―― 証券会社系のシンクタンクに勤務されていたころから、中小企業に関する調査研究に携わっていたそうですね。
私は証券会社系のシンクタンク時代、12年ほど中堅・中小企業の調査研究とベンチャーキャピタルの投資審査に従事していました。
今の研究所では20数年、産業と中小企業をフィールドワーク的な視点で、経営者の方のお話を聞きながら取り組み事例をまとめることを主な業務としています。それと並行して、中小企業景気動向調査の取りまとめ、分析、発表業務にも携わってきました。証券会社系のシンクタンク時代に見ていた中小企業というのは、年商100億円前後の中堅企業に近い目線でしたが、信用金庫のお客様はそこから2桁ほど規模の小さい会社が主役です。世に出回っている大手企業の動向とはまた違った観点で、信用金庫のお客様目線の情報を集めて発信したいという思いで活動しています。
今回説明する景気動向調査のサンプル(有効回答数:約1万3,000社)も、従業員19名以下の会社が7割ほどを占めています。こうした、街場で地域密着型の事業を展開している方々の切実な声を拾い上げ、分析・発信することが私たちの役割です。
足元の経済活動は堅調
―― 2025年12月25日に発表された「第202回全国中小企業景気動向調査」から、足元の状況をどう見ていますか。
この景気動向調査は、四半期ごとに全国254の信用金庫の協力のもと、1万数千件の中小企業者に景況感を聞いている調査です。メイン指標は「良い」と答えた割合から「悪い」を引いた「業況判断DI」です。
グラフを見ると、2020年のコロナショックでリーマンショック以上に悪化しましたが、直近では0(プラマイゼロ)近辺まで回復しました。良いと言っている人と悪いと言っている人がほぼ同数ということで、足元の経済活動は意外と堅調であると受け止めています。
―― 価格転嫁についてはいかがでしょうか。
仕入価格の上昇は依然として厳しい(高止まり)ものの、販売価格への価格転嫁も少しずつ定着し始めています。一方で人手不足感は非常に強く(今期のDIはマイナス26.8、来期見通しはマイナス25.9)、引き続き経営の大きな課題となっています。
経営者の前向きなマインドは明るい材料
―― 2026年の景気見通しについて、日本の景気は慎重に見る一方で、自社の業況には強気な経営者が多いというデータが印象的です。
まず2026年の景気見通しですが、昨年同時期に比べて相当上に振れており、前向きに見ている方が増えています(DIはマイナス24.6)。 他方、2026年の自社の売上額伸び率見通しはプラス11.8と、5年連続でプラスの見通しとなっています。おっしゃる通り、前向きな予測をされている方が多いと言えるでしょう。背景には、トランプ関税への不安が当初より払拭されたことや、高市政権の積極財政への期待などもあるでしょう。何より「日本の景気は悪いけれど、うちはなんとかする」という経営者のポジティブなマインドが反映されており、これは非常に明るい材料です。
―― 業況改善の見通しが立たない企業も26.6%存在するという二極化の現状を、どう打開すべきでしょうか。
これは景気云々という次元を超えた、中小企業が抱える構造的な問題が表れていると考えています。では、中小企業はどうすればいいのか。
まず取り組むべきは、単なるコストの価格転嫁を超えた「単価の持ち直し」、すなわち付加価値を増やしていく経営です。少々高くてもお客様に理解していただける経営を進めていくことが必要です
労働生産性を上げる際、分母の労働時間を削る努力には限界があります。それよりも、分子である付加価値額を増やすことを目指すべきです。値上げや価格転嫁によって営業利益を改善させることが大きなポイントだと言えるでしょう。デフレ時代とは違い、今は値上げ交渉がしやすい環境が整いつつあります。自社ブランドを持ち、地域やお客様に必要とされる「脱・下請け」へのチャレンジには大きな価値があります。
労働生産性
投入した労働量(人手や時間)に対して、どれだけの成果(付加価値)を生み出せたかを示す指標です。数値が高いほど、少ない労力・時間で多くの価値を生み出している効率性の高さを示します。労働生産性を高めるためには、単なる売上の増加ではなく、付加価値の増大を目指すことが重要とされます。
- 付加価値労働生産性:企業が生み出した付加価値額を労働投入量(総労働時間)で割ったもので、企業全体の効率性を測る指標です。
- 計算式:付加価値額 ÷ 労働投入量(労働者数 × 労働時間)
※本インタビューにおける付加価値額とは、会社に残る利益に従業員の給与などを足し戻した総額(営業利益+人件費+賃借料+租税公課)を指します。
―― 景気動向調査では、中小企業の前向きな声も紹介されています。地元の学生と取り組む商品開発や、SNSによる情報発信に注力した事例などは参考になりそうです。
Instagramなどの低コストのツールを活用してお客様に浸透していくことは、中小企業が取るべき戦略の一つです。経営者が理解を示したうえで、ITに慣れた若い従業員に任せている会社ほど、ファンを引き寄せてうまく回っています。
例えば、当研究所の月報で、横浜のフットサル用品会社がSNSでファンを獲得している事例を紹介したことがあります。自社の良さを世の中に認識してもらうことが、ビジネスの好循環を生む鍵と言えるでしょう。
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また、「価値創造」というテーマを取り上げた際には、下請け仕事が中心だった板金屋さんが自社ブランドを立ち上げ、BtoCでヘアアクセサリーを販売した事例を掲載しました。世界最高レベルの工作機械を何台も持つ高い技術力を活かした事例です。興味深いのは価格設定です。当初は原価積み上げ方式で価格設定していた社長に対し、バイヤーが「これは倍でも売れますよ」と進言したことで、1万数千円の価格設定でもかんざしは人気商品として定着しました。顧客が認める価値によって、原価に縛られない高い価格設定を実現したのです。
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早期のデジタル移行は不可避な課題
―― 2027年3月末の「紙の手形・小切手」廃止に向けて、約3割が残存している現状をどう見ますか。
取引先の慣行や、資金繰り上の理由(手形の方が支払いを先延ばしにできる)から、あえて使っている会社もあります。高齢の従業員の方の中には、デジタル化への対応を難しく感じ、「今のままでいい」という声が根強くあるのも事実です。 ただ、最大の壁は後回しの構造です。小規模企業の経営者は毎日「明日の支払いは大丈夫か」と頭をフル回転させており、「今日やらなくてもよい」制度変更の対応は、どうしても後にずれてしまいます。規模が大きい中小企業ほど手形を多用している実態もあり、早期のデジタル移行は不可避な課題です。
―― 価格転嫁、人手不足、手形・小切手の問題など課題はありますが、2026年に経営者が優先的に取り組むべきことを挙げるとしたら何でしょうか。
最優先すべきは、価格の引き上げを目指す経営です。それが結果として生産性向上や賃上げの原資につながります。 次にSNSなどを活用したデジタル化への対応です。自社の価値を磨き上げたうえで魅力を発信し、ビジネスの好循環につなげていただきたいですね。世界情勢に翻弄されすぎず、自社の価値をしっかり見つめ直して、売上の増大と収益の確保に邁進していただきたいと思います。
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