
国の令和7年度補正予算の概要を解説するシリーズの最終回は、厚生労働省です。同省の補正予算(一般会計・特別会計合計の追加額)は、2兆3,252億円にのぼります。今回の予算の大きな柱は、人手不足が深刻な医療・介護分野での処遇改善(賃上げ)を前倒しで実施すること、そして中小企業の最低賃金引き上げを支援する助成金の拡充です。
1. 医療・介護 前倒しの処遇改善
物価上昇が続く中、他産業との賃金格差による人材流出を防ぐため、令和8年度の報酬改定を待たずに「賃上げ」を実施するための巨額予算が投じられます。
医療機関・薬局の賃上げ・物価高騰支援:5,341億円
- 内容:医療従事者の賃上げ(1,536億円)と、光熱費・医薬品などの物価上昇分(3,805億円)を直接支援します。
- スペック:病院は1床あたり8.5万円、無床診療所は1施設あたり32万円などが交付されます(補助率10/10)。
介護分野の賃上げ・職場環境改善:1,920億円
- 内容:介護職員に対し、月額1万円規模の賃上げを支援します。さらに、生産性向上や経営の協働化に取り組む事業所の職員には月額0.5万円が上乗せされます。
福祉医療機構(WAM)による優遇融資の実施支援:804億円
- 内容:物価高騰で資金繰りが悪化した医療機関や福祉施設に対し、無利子・無担保等の優遇融資を継続・拡充します。さらに、債務超過等で新規融資が困難な病院向けに、財務改善に役立つ「資本性劣後ローン」を新たに創設します。
- ポイント: 804億円はこれらの優遇措置を実現するための財政支援額であり、実際の融資原資は別途確保されるため、地域医療を支えるための大規模な金融支援体制が敷かれます。
2. 賃上げ支援へ業務改善助成金の拡充
一般の中小企業・小規模事業者にとっても、最低賃金の引き上げに伴う負担軽減策が強化されています。
業務改善助成金による賃上げ支援:352億円
- 内容:事業場内で最も低い賃金を引き上げ、生産性向上のための設備投資(機械導入やソフト買い替え等)を行った中小企業に、その費用の一部を助成します。
- ポイント:引き上げる人数や金額に応じて、最大600万円(30人未満の事業場の場合)が助成されます。助成率は、賃金水準に応じて3/4または4/5となっています。

生活衛生関係営業(飲食・理美容等)の価格転嫁支援:6.9億円
- 内容:物価高騰や賃上げ分を適切にサービス価格へ反映できるよう、専門家による経営診断や、消費者に向けた価格転嫁への理解を深める広報を支援します。
3. 歯科健診と認知症対策
私たちの日常生活に直結する、新しい健康・福祉サービスの実証も始まります。
「国民皆歯科健診」に向けたパイロット事業:8.8億円
- 内容:生涯を通じた歯科健診の普及を目指し、簡易な口腔スクリーニングと受診勧奨を職場や自治体で実施するモデル事業を支援します。

認知症施策推進計画の策定・居場所づくり:5.0億円
- 内容:認知症基本法に基づき、自治体が計画を策定する際の経費や、認知症の人と地域住民が交流できる「居場所」の立ち上げ(1カ所あたり300万円)を補助します。

マイナ保険証の利用促進:224億円
- 内容:マイナ保険証への円滑な移行のため、医療機関のシステム改修や顔認証付きカードリーダーの導入費用などを補助します。
4. 生活扶助判決への対応
今回の予算では、法的判断や社会情勢の変化に応じたセーフティネットの強化も盛り込まれています。
生活扶助基準改定に関する最高裁判決への対応:1,475億円
- 内容:平成25年の生活扶助基準改定について、最高裁判決を踏まえた追加給付を実施します。対象期間の差額分として、1世帯あたり概ね10万〜20万円程度が給付される見込みです。
生活扶助基準改定に関する最高裁判決
平成25年(2013年)以降に3回にわたり実施された生活扶助基準の引き下げ(最大約10%減額)について、最高裁は2025年6月27日、物価変動率のみを指標とした「デフレ調整」に基づく一律減額は合理性を欠き違法であると判断し、生活保護費の減額処分を取り消しました。これを受け、厚生労働省は過去の減額分の補填措置や、専門的な知見に基づく適正な基準改定に向けた検討を加速させています。本補正予算における社会保障関連の調整も、こうした司法判断への対応の一環です。
子ども食堂等の食事・体験支援を強化:2.3億円
- 内容:困窮世帯の子どもを対象とした「子どもの学習・生活支援事業」を拡充。キャンプなどの体験活動への加算や、子ども食堂等の現場を想定した「軽食の提供」に対する補助を新設し、子どもの「体験格差」解消を目指します。
5.人件費高騰を乗り切るための支援充実
厚生労働省の補正予算は、「働く人の給料を守る投資」と「国民の健康・生活の安心を守る投資」の両輪で構成されています。特に中小企業の皆さんにとっては、人件費高騰を乗り切るための「業務改善助成金」や、医療・介護事業所向けの直接支援金が大きなポイントとなります。
令和7年度補正予算は総じて「足元の物価高への対応」と「未来に向けた成長投資」を強く意識した内容となっています。これまで解説してきた各省庁の多彩な支援策を、自社の経営課題や生活の現場に合わせて適切に組み合わせ活用されることで、激動の経済環境を乗り越え、持続可能な未来を築くための鍵となるはずです。
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