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政策解説

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2025.10.09

【令和8年度概算要求シリーズ】内閣官房と内閣府編 〜国の予算を読み解き、事業の羅針盤を手にしよう〜

経済の成長戦略と危機管理の設計図
企業の攻めと守り、どう両立

国土交通省や厚生労働省などが具体的な施策を担う一方、内閣官房と内閣府は、内閣の機能を支える司令塔としての役割を担っています。

  1. 内閣官房は、国家の危機管理や重要政策の総合調整、情報機能の強化(情報収集・分析、サイバーセキュリティ、国家安全保障など)を担う、官邸の中核です。
  1. 内閣府は、他省庁にまたがる横断的な政策や、長期的な未来戦略(科学技術、宇宙、防災、地方創生など)の企画・立案を担う、未来戦略の推進役です。

このような役割の組織であるがゆえに、両機関の予算は、特定の産業や地域に留まらず、国の最重要政策の方向性と危機管理の土台を示しており、企業の事業環境そのものに影響を与えると考えられます。本記事は、内閣官房と内閣府の予算概算要求が示す政策の中身に焦点を当てて解説することで、中小企業の皆様にとって、未来を照らすヒントとなる情報をお届けしたいと思います。

第1章:司令塔が示す「未来への投資」の基本方針

 内閣が所管する予算は、未来への長期戦略と社会のリスク管理という二つの重要な軸で構成されています。内閣府は多岐にわたる分野を所管するため予算規模が大きく、特に以下の分野に重点を置いた要求をしていることが示唆されます。

政策の二大柱

  1. 「成長型経済の実現とフロンティア開拓」
    • 内閣府の所管する科学技術・イノベーション、宇宙開発、地方創生への投資を強化し、コストカット型経済からの脱却と、経済の成長を目指す方向性がうかがえます。これは、未来戦略の推進役としての役割の表れと言えるでしょう。
  2. 「安心・安全の確保と誰一人取り残されない社会」
    • 内閣官房の所管する危機管理、情報収集、経済安全保障といった国の根幹に関する予算や、内閣府の所管する防災庁準備や孤独・孤立対策など、国民生活の基盤となる社会課題の解決を急ぐ姿勢が読み取れます。これは、両組織が果たす危機管理と横断的な課題解決の役割によるものと推測されます。

第2章:五つの羅針盤:重要政策を紹介

羅針盤1:地方創生と地域経済の「稼ぐ力」強化

地方の「稼ぐ力」強化と地域課題解決に向けた予算が示されており、地域での事業機会の創出を目指す姿勢が読み取れます。

※ 以下の事業名に付記している金額は、令和8年度の概算要求額です。予算の性質を読み解く以下の区分が重要です。

  1. 要求額等
    その事業の総合計額です。
  2. うち要望額
    要求額等のうち、新規に始める政策や特に力を入れて拡充する政策のために、国が重点的に予算を要求している部分です。この額が大きいほど、国がその分野に投じる力の大きさが示唆されます。
  3. 事項要求
    概算要求の段階では金額や内容の詳細が確定しておらず、予算編成過程において改めて検討・調整されることになっている重要な経費です。制度の創設や大規模な体制強化など、国が将来的に注力する可能性が高い重要政策に付記されることが多く、今後の政策の方向性を示す重要なサインとなります。
  1. 新しい地方経済・生活環境創生交付金(要求額等:237,367百万円/うち要望額:37,367百万円)
    地方の自主的・意欲的な取組を支援する交付金で、戦略分野の産業拠点整備や避難所の環境改善への支援に重点を置いていることが示唆されます。
  2. 地方大学・地域産業創生交付金(要求額等:1,700百万円/うち要望額:1,200百万円)
    地方大学と地域企業が連携して、地域の産業振興や雇用創出に役立つ事業を支援し、地域における若者の修学や就業促進を図ることを目指します。
  3. 特定有人国境離島地域社会維持推進交付金(要求額等:5,850百万円/うち要望額:850百万円)
    国境離島地域の地方公共団体が実施する、航路・航空路運賃の低廉化や物資の費用負担軽減など、地域社会の維持に役立つ取組を支援します。
  4. 地方創生2.0特区推進事業費(要求額等:809百万円/うち要望額:757百万円)
    地域が抱える課題解決のため、大胆な規制・制度改革を実現する特区制度の推進に必要な調査や実証を支援する事業です。

羅針盤から読み解くビジネスへのヒント

国の予算の方向性から、地方の稼ぐ力を強化する動きが加速すると推測されます。交付金や特区制度を研究することで、地域のインフラ整備や戦略分野での連携、規制改革の先行事例を活かした新事業への参入機会が見込まれるかもしれません。地方大学との連携を強化することも、若手人材の確保に向けたヒントとなりそうです。

羅針盤2:科学技術・イノベーションとフロンティア開拓

国際競争力を高める、長期的な技術開発への投資が示されており、未来の経済成長の基盤を築く姿勢がうかがえます。

  1. 内閣衛星情報センター(要求額等:74,700百万円/うち要望額:12,500百万円)
    外交・防衛や危機管理に必要な情報収集能力の強化を目的とした情報収集衛星の新規開発、打ち上げ、及び運用を推進する経費です。
  2. 実用準天頂衛星システムの開発・整備・運用の推進(要求額等:24,097百万円+事項要求(16,906百万円)/うち要望額:7,808百万円)
    高精度な測位システム「みちびき」の安定運用と、11機体制の構築に向けた機能・性能向上を図る開発・整備を推進します。
  • 量子技術イノベーション拠点の連携強化(要望額:1,400百万円=新規)
    量子技術イノベーションを加速するため、拠点合同の研究会、国際会議、アカデミアと産業界の人材交流など、拠点横断的な取組を支援する経費です。
  • AI研究開発・活用の推進等を通じたイノベーション促進とリスク対応の両立(要求額等:1,179百万円=新規)
    AIの社会実装を促進しつつ、AIシステムの開発・利用におけるセキュリティ確保に向けた調査などを行い、イノベーションとリスク対応の両立を目指します。

羅針盤から読み解くビジネスへのヒント

国の予算は宇宙、測位、AI、量子技術といったフロンティアに投じられていることが見て取れ、この分野での事業展開は今後の成長が期待できる可能性があります。特に「みちびき」の測位精度を活かした地域サービスや、量子技術分野の人材交流プログラムなどを通じて、最先端技術のタネを自社に取り込む機会が生まれるかもしれません。

羅針盤3:防災・危機管理体制の抜本的強化

大規模災害や新たな感染症危機に備え、国の司令塔機能を強化する予算が示されており、リスク対応の優先度が高いことがうかがえます。

  1. 「防災庁」(仮称)の設置を見据えた災害対応力の充実・強化(要求額等:4,792百万円/うち要望額:3,183百万円)
    能登半島地震の教訓を踏まえ、避難生活環境の抜本的改善や、産官学民連携体制の構築など、政府全体の災害対応能力の強化を目指す経費です。
  2. プッシュ型支援における内閣府備蓄物資の分散備蓄の充実(要望額:655百万円)
    大規模災害時に物資を迅速に届ける「プッシュ型支援」に必要な備蓄物資の品目や数量を追加・分散備蓄するための経費です。
(出典:防災情報のページ
  1. 内閣感染症危機管理統括庁(要求額等:566百万円/うち要望額:77百万円) 次なる感染症危機に備えた訓練や研修の実施、普及啓発など、危機管理の司令塔としての機能を維持・強化するための経費です。

羅針盤から読み解くビジネスへのヒント

「防災庁」設置準備や感染症危機管理体制の強化は、危機管理が国家戦略の最優先事項であることを示していると言えます。このため、企業のBCP(事業継続計画)の策定と見直しが促される要因となるかもしれません。また、防災DXやプッシュ型支援の強化に伴い、関連する資機材やシステム、サービス分野での新たなビジネス需要が見込まれる可能性があります。

羅針盤4:経済安全保障と情報戦略の強化

企業の技術や情報が国際競争の武器となる中、国家として経済活動の安全性を高める予算と、サイバー空間の防御体制が示されています。

  1. 経済安全保障上の重要技術に関するシンクタンク機能や技術流出防止策等の強化(要求額等:2,072百万円/うち要望額:1,694百万円)
    経済安全保障の観点から重要となる技術の特定や、その技術流出を防ぐための調査研究、施策の強化を図るための経費です。
  2. 巧妙化するサイバー攻撃等に対応するための政府機関等におけるサイバーセキュリティ対策強化等(要望額:2,372百万円)
    巧妙化するサイバー攻撃に備え、政府機関のセキュリティ強化と、「能動的サイバー防御」の実現に向けた体制整備等を推進するものです。
  3. サイバー対処能力強化法等の施行を踏まえたサイバーセキュリティ対策強化(2,243百万円+事項要求(1,602百万円)/うち要望額;796百万円)
    「能動的サイバー防御」に向けた体制整備を推進し、重要インフラや民間事業者等のサイバーセキュリティに関するリスク低減を図るための経費です。
(出典:国家サイバー統括室のウェブサイトに掲載されている資料)
  1. 内閣情報調査室(要求額等:4,407百万円/うち要望額:639百万円)
    安全保障上の脅威などから国益を保護するため、情報収集・分析に必要な基盤整備等を実施し、情報機能の強化を図ります。
  2. 重要土地等調査法に基づく土地等利用状況調査の着実な実施等(要求額等:1,692百万円/うち要望額:1,059百万円)
    安全保障上重要な施設の周辺や国境離島等の土地等の利用状況調査を実施し、機能阻害行為を防止するための法執行を推進します。

羅針盤から読み解くビジネスへのヒント

技術流出防止やサイバー防御体制の強化など、経済活動における安全保障の視点が強化されていることがうかがえます。企業は、政府が特定する重要技術の動向を注視し、自社の技術・情報管理体制を見直すことが、リスク回避に繋がるかもしれません。特にサイバー防御への注力は、民間企業のセキュリティ対策も強化する必要があることを示唆していると考えられます。

羅針盤5:「誰一人取り残されない社会」に向けた人への投資

少子高齢化・人口減少下で、社会全体で人を活かすための施策が示されています。

  1. 地域就職氷河期世代等支援加速化交付金(仮称)(要望額:1,000百万円=新規)
    就職氷河期世代の社会参加やリ・スキリングを含む就労・活躍支援を促進するため、地方公共団体の支援事業を後押しする交付金です。
  2. 地域女性活躍推進交付金(要求額等:875百万円/うち要望額:575百万円)
    地方公共団体が行う女性デジタル人材や女性起業家の育成、女性登用など、地域における女性活躍を推進する取組を支援します。
  3. 孤独・孤立対策推進交付金(仮称)(要望額:176百万円/うち要望額;40百万円)
    地方における官、民、NPOなどの連携による、地域の実情に応じた孤独・孤立対策の推進を支援するものです。
  4. 性犯罪・性暴力被害者支援、DV被害者等支援(要求額等:1,380百万円/うち要望額:496百万円)
    性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの体制強化など、被害者支援の推進を図ります。

羅針盤から読み解くビジネスへのヒント

国が就職氷河期世代を含む潜在的な労働力の活用に重点を置いていることがうかがえます。企業は、地方自治体と連携することで、リ・スキリングを経て就職を目指す氷河期世代の人材を確保する機会を得られるかもしれません。また、女性活躍や孤独・孤立対策への支援は、企業の働く環境と社員の定着に繋がりうる要素として捉えることができるでしょう。

コラム:司令塔予算の効能

進路を定める羅針盤のようなものかもしれません。その最大の効能は、未来のルールや市場の方向性を指し示してくれることにあると言えそうです。

1. 予算が教えてくれる「次にくるルール」

内閣官房・内閣府の予算で計上された事業は、単なる資金の配分以上の「警告灯」の役割を果たします。

  1. 防災庁設置準備や感染症危機管理体制の強化が進められることは、今後、民間企業にも強靭な体制づくりや事前の備えに関する新たな仕組みが求められるシグナルだと考えられます。
  2. 国家サイバー統括室の予算増は、政府機関だけでなく、重要インフラを担う企業にも、より厳しいセキュリティ基準や官民連携が課される予兆と捉えることができるかもしれません。

予算概算要求を読むことは、守りの経営において、次にどんなルールが来るのかを事前に知るための大きなヒントになりそうです。

2. 予算が示す「成長のヒント」

一方、内閣官房と内閣府の予算概算要求は、国がどの分野に長期的な成長機会を見出しているのか示唆しています。

  1. 子技術やAIの安全性確保への投資は、これらの分野で今後、大規模な公的調達や研究開発の連携が生まれることを予感させます。
  2. 地方創生交付金の大規模な要求は、単なる地域への支援にとどまらず、地域の課題解決に貢献できる民間技術を国が強く求めているというメッセージだと読み解けます。

国の司令塔の予算を読み解く意義の一つは、ルールと市場の変化を先読みすることにあるのかもしれません。

まとめ:司令塔の「羅針盤」を経営戦略に活かす

内閣官房と内閣府の予算は、単なる資金源ではなく、国の未来のルールや長期戦略の方向性を示していると言えます。

  1. 守りのアクション(リスク回避)の示唆
    防災庁設置やサイバーセキュリティ体制強化の動きは、企業がBCP(事業継続計画)や技術流出防止策を強化する上での共通認識を提供するでしょう。
  1. 攻めのアクション(成長機会の獲得)の示唆
    地方創生交付金やAI・量子技術投資の方向性を捉えて地域社会の課題を解決したり、新たなフロンティア技術との連携を図ったりすることは、企業の成長戦略のヒントになるかもしれません。

国が描く未来の設計図を情報として消費するにとどまらず、その情報を自社の行動指針として活用し、能動的に経営戦略に取り込むことも大切になってくるのではないでしょうか。

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