
デジタル地域戦略
市場とニーズをつかむ
総務省の令和8年度予算概算要求は、デジタル社会の実現と地域社会の持続可能性という国家基盤の強化に焦点を当てています。要求の総額は大きいものの、その内訳には、情報通信技術(ICT)関連企業や地域密着型企業にとって、具体的な成長機会となる種が多数含まれています。特に、自治体DXやインフラ強靭化、そして新しい地域活性化策は、今後のビジネス展開の方向性を決める羅針盤となるでしょう。
目次
- 第1章:総務省概算要求が示す政策の全体像
- 第2章:中小企業の成長機会となる羅針盤
- 羅針盤1:地域社会の担い手とローカルビジネス創出市場
- 羅針盤2:地域DXと行政サービスの変革市場
- 羅針盤3:デジタルインフラの強靭化とセキュリティ市場
- 羅針盤4:放送・配信コンテンツの製作力強化と海外展開推進
- 第3章:社会基盤と未来投資の視点
- 3.1:EBPMの基盤となる統計調査の実施
- 3.2:国際的なAIガバナンスへの貢献
- コラム:郵便局が地域機能を支える「ハブ」になる まとめ:どの「市場」で輝けるか
第1章:総務省概算要求が示す政策の全体像
総務省の令和8年度の一般会計要求額は、19兆884億円+事項要求です。これは、令和7年度当初予算額の19兆3,861億円と比較し、2,977億円の減少(1.5%減)となっています。
このうち、予算総額の大部分を占める地方交付税等財源繰入れは、18兆6,096億円+事項要求であり、地方の安定的な財政運営に必要となる一般財源総額(地方自治体が使い道を決められるお金の総額)の確保が図られています。
また、東日本大震災復興特別会計(総務省関係分)の要求額は、2億円+事項要求となっており、令和7年度予算額(667億円)と比べ665億円の減少です。
※四捨五入などにより、計数が合致しない場合があります。
区分 | 令和8年度要求額A(億円) | 令和7年度予算額B(億円) | 比較増減額C(億円) | 増減率 (C/B)% |
地方交付税等財源繰入れ | 186,096+事項要求 | 188,728 | ▲2,633 | ▲1.4 |
一般歳出 | 4,788+事項要求 | 5,133 | ▲345 | ▲6.7 |
‐恩給費 | 441 | 551 | ▲110 | ▲20.0 |
‐政策的経費 | 4,032+事項要求 | 4,582 | ▲549 | ▲12.0 |
‐重要政策の推進のための要望 | 315 | – | 315 | 皆増 |
総務省所管合計 | 190,884+事項要求 | 193,861 | ▲2,977 | ▲1.5 |
第2章:中小企業の成長機会となる羅針盤
総務省の概算要求の中から、中小企業の事業に直接的・間接的に結びつく可能性が高い主要な事業を、四つの羅針盤として深掘りします。
※事業名に付記している金額は、令和8年度の概算要求額です。事項要求(+事項要求)は、政策的な重要性が高い施策について追加要望するものです。
羅針盤1:地域社会の担い手とローカルビジネス創出市場
人口減少下でも持続可能な地域社会を目指すための、関係人口の拡大や地域内経済循環を促す施策です。
ふるさと住民登録制度の創設(新規:事項要求)
地域との継続的な関わりを持つ「関係人口」の拡大と質の向上を図るため、アプリで簡単・簡便に登録でき、担い手活動等を通じて地域との関わりを深めるプラットフォームとなるシステム構築や周知、広報が予定されています。
ローカルスタートアップ等の支援(15.2億円)
地域の資源と資金を活用した地域密着型の新規事業の立ち上げを支援するローカル 10,000プロジェクトを推進します。
郵便局の「コミュニティ・ハブ」としての活用推進(1.7億円)
自治体が「コミュニティ・ハブ」として郵便局を活用し、地域の必要な機能の維持や行政事務の効率化、住民利便の向上に資する実証事業を支援します。
羅針盤から読み解くビジネスへのヒント
国の支援は、地域活性化を単なる補助金の注入から、外部人材の継続的な巻き込みと地域内での事業創出へとシフトさせていると言えます。
- デジタルと地域をつなぐ接点業務の獲得:「ふるさと住民登録制度」は、単なるWebサイト制作ではなく、関係人口の活動を管理するアプリ開発や、地域とのマッチングを円滑にするデジタルプラットフォーム運営という新しい市場を生み出すでしょう。
- 地域金融・商工会との連携強化:「ローカルスタートアップ等の支援」は、地域密着型のビジネスコンサルタントや、地域金融機関と連携できる経営・事業承継コンサルティング企業にとって、安定的な案件創出の基盤となりえます。
- 生活サービスのデジタル化への参入:郵便局の「コミュニティ・ハブ」活用は、高齢化が進む地域での見守りサービスや生活支援サービスをデジタル化し、郵便局という強固なネットワークに乗せて提供するチャンスになると考えられます。
羅針盤2:地域DXと行政サービスの変革市場
自治体DXは、マイナンバーカードの利用環境整備と基幹システムの標準化に集中しており、IT・デジタル関連企業に大きな需要を生むでしょう。
マイナンバーカードを円滑に取得、更新できる環境整備(823.9億円)
カードや電子証明書の更新需要の増加への対応や出張申請受付等の推進など、円滑な取得環境・交付体制を整備します。
自治体情報システムの標準化(3.1億円+事項要求)
標準準拠システムへの移行に必要な経費(現行システムの分析、データ移行等)を地方自治体に補助するため、デジタル基盤改革支援基金を拡充します。
AI等のデジタル技術と通信インフラを用いた地域の社会課題解決の推進(21.1億円)
AI、自動運転などの先進的ソリューションや先進無線システムの実証を通じて、好事例を創出し、全国への早期実用化を促進します。
羅針盤から読み解くビジネスへのヒント
自治体DXは「待ったなし」の国家事業であり、特に標準化と円滑な利用環境の整備が二大市場となります。
- 標準化特化型サービスの開発:自治体システム標準化は、全国の自治体が同じ仕様のシステムに移行することを意味します。この移行に伴う現行システムの分析、データ移行、システム連携といった専門性の高い工程をサポートするパッケージ化されたコンサルティングサービスの需要が急増すると予想されます。
- デジタル・アウトソーシングの機会:マイナンバーカード関連事業は、窓口業務のデジタル・アウトソーシング市場を創出するでしょう。タブレット端末等の機器供給や、窓口での操作支援・ヘルプデスク業務を受託することで、安定した事業基盤を構築することが可能になると考えられます。
- 地域課題解決型ソリューションの事業化:実証事業への参画は、単なる技術研究にとどまりません。地域の交通、防災、医療など、具体的な課題を解決するAI、IoTソリューションを開発して実証段階からビジネスモデルを構築することで、全国展開可能な事業へ成長させる好機となります。

羅針盤3:デジタルインフラの強靭化とセキュリティ市場
災害に強く、国際競争力を持つデジタル基盤の構築に向けた投資です。
データセンター、海底ケーブル/5G、光ファイバ等の通信インフラ整備(77.6億円+事項要求)
AI活用を支えるため、データセンターの地方分散、国際海底ケーブルの多ルート化に向けた支援や、5G、光ファイバ等の情報通信インフラ整備を推進します。
通信ネットワークの強靭化(35.1億円)
災害時の停電や伝送路断に備え、大容量化した蓄電池や発電機、ソーラーパネルの設置など、携帯電話基地局の強靭化を推進します。
行政機関や重要インフラ事業者等を対象とした高度セキュリティ人材の育成(17.5億円)
実践的サイバー防御演習「CYDER」の実施や、より高度な演習のための大規模環境を新たに構築し、高度なサイバー攻撃に対処可能な人材の育成を推進します。
羅針盤から読み解くビジネスへのヒント
国の支援は、デジタル基盤の地方分散と強靭化という明確な方向性を示しており、ハード・ソフト両面でビジネス機会が生まれるでしょう。
- 地方データセンター関連ビジネスの創出:データセンターの地方分散は、地方における土地や建物の提供、冷却設備や電源設備等の供給、およびデータセンター間の接続ネットワーク工事に直接的な需要を生み出すと考えられます。
- エネルギー・強靭化製品の安定供給:通信ネットワークの強靭化事業は、蓄電池、発電機、ソーラーパネルといった非常用電源設備の製造、供給、設置工事を担う企業にとって、安定的な公的需要となりえます。
- サイバーセキュリティの高度化・人材育成市場:高度なセキュリティ人材育成は、実践的なセキュリティ演習プログラムの企画・運営や、行政機関向けに特化したセキュリティコンサルティングを提供する企業にとって、成長市場となる可能性があります。
羅針盤4:放送・配信コンテンツの製作力強化と海外展開推進
日本のコンテンツ産業の国際競争力強化に向けた支援です。
高品質のコンテンツ製作の支援(5.0億円)
国際共同制作や出資を受けるための企画開発支援、および4K、VFXなどの先進的技術を活用した高品質の実写コンテンツ製作を支援します。
製作取引の適正化と製作環境のDX化(7.3億円)
コンテンツ製作環境におけるDXの推進に向けた調査研究や、プロデューサー、技術スタッフに対する人材育成研修を実施します。
羅針盤から読み解くビジネスへのヒント
コンテンツの製作力強化とDX化に資金が投じられています。
- 先進技術の提供と人材育成:4KやVFX技術を活用したコンテンツ製作の支援は、映像技術関連のソフトウェア、ハードウェア提供企業や、それらを扱えるクリエイター、技術スタッフを育成する教育サービスに機会があります。
- コンテンツ製作の裏側を支えるDX:製作取引の適正化や権利処理の効率化に向けた支援は、煩雑な契約や権利処理を一元化するクラウド型システムやデジタルツールの開発・提供に需要を生み出す可能性があります。これは、メディア、エンタメ業界のバックオフィス業務を効率化する専門IT企業にとって、新しい市場になりうるでしょう。

第3章:社会基盤と未来投資の視点
中小企業への直接的な補助金ではないものの、事業環境の安定化と将来的な市場の変化に深く関わる基盤整備の施策を紹介します。
3.1:EBPMの基盤となる統計調査の実施
- 令和8年経済センサス-活動調査など社会・経済実態の把握に資する統計調査等の実施(282.5億円):事業所や企業の経済活動を全国的・地域別に明らかにする「経済センサス-活動調査」(5年ごとの「経済の国勢調査」)を確実に実施し、地域振興や経済政策などの基礎資料を得ます。このデータは、企業が地域市場の構造や動向を分析する上で重要な情報源となります。
EBPM
証拠に基づく政策立案のこと。政策を立案する際に、経験や勘に頼るのではなく、データや客観的な根拠(エビデンス)に基づいて判断する考え方です。
- 統計基盤のデジタル化推進(新規:3.0億円):政府統計ポータルサイト(e-Stat)の利便性向上や、多様な利活用ニーズに応えるための機能充実を図ります。
3.2:国際的なAIガバナンスへの貢献
- 国内外におけるAIガバナンスの実現(4.7億円):AI事業者ガイドラインの更新・周知や、G7広島AIプロセスの推進等による国際的なルール作りへの貢献を進めます。これは、AI技術を開発・活用する中小企業が、国際的な安全基準や倫理規範を遵守し、海外展開を目指す上で不可欠な事業環境整備です。
まとめ:どの「市場」で輝けるか
総務省の令和8年度概算要求は、単なる予算配分ではなく、中小企業にとっての具体的な事業機会を示した未来への仕様書とも言えます。この記事で読み解いた羅針盤は、中小企業の皆さんの明日を照らす具体的な指針となりうるものです。
地域社会の担い手を育む施策は、関係人口をターゲットとした新たなデジタルサービス市場を創出するでしょう。地域DXの加速は、全国の自治体が共通で直面するシステム標準化やマイナンバーカード関連業務という、巨大で確実なBtoG(自治体向けビジネス)市場への参入機会を創出すると考えられます。さらに、デジタルインフラの地方分散と強靭化は、データセンター関連設備や非常用電源の安定需要を生み出し、コンテンツ産業の強化は、VFXなどの先進技術を持つ専門企業や、製作環境を効率化するDXツール開発企業に新たな活躍の場を提供するでしょう。 国の政策は遠い存在ではありません。この羅針盤を手に、自社の技術やサービスがどの市場で輝くのか、具体的な事業計画に落とし込んで検討してみてはいかがでしょうか。
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