
秋田市の行政書士・松本和博さんは、製造会社に勤務した実務経験を活かしながら、独自の「バンク・リレーションシップ(BRS)」戦略で金融機関との間に信頼の架け橋を築きます。資金調達と事業計画の支援を得意とし、秋田の中小企業を経営面から支える、その専門性を紐解きます。

――以前は製造会社に勤めておられたそうですね。
もともと地元・秋田の工業高校で金属加工を学び、この経験がものづくりに関心を持つきっかけとなりました。大学は山形大学の工学部に進み、化学工学を学びました。化学工学は単純な化学の話ではなく、学術的な部分と、ものづくりの現場を結びつけて学ぶイメージです。卒業後は岐阜県の石灰メーカーに入社しました。
石灰の主な用途は、不純物を取り除くことです。ドロドロに溶けた鉄の中に石灰石を入れると、石灰石はスラグとなり不純物を吸着します。すると、とても純度の高い鉄ができます。その会社で、1年目は工場、2年目以降は研究開発や新製品開発部門を経験しました。新規事業の立ち上げに伴うフィールドワークや技術開発を担い、現場や、お客様のもとにも行きながら、いかにして新規事業や新商品を作っていくかという経験をしました。その後は営業、セールスも経験しました。
地元に戻ってきたのは26歳のときです。ちょうど私の母親が行政書士の資格を取得したタイミングでした。石灰メーカー勤務時代にも補助金に携わったことがありましたので、あるお客様から補助金についてのお話をいただいた際に、お手伝いしたことがきっかけで、依頼をいただくようになりました。機械を買いたい、新しい工場を立ち上げたい、お金周りを支援してほしいなど、幅広い依頼をいただいています。
――事務所が手掛けている業務内容を教えてください。
中心は経営支援業務で、中でも金融機関対策です。企業の皆さんは、公的融資を含め、様々な融資を受けて事業を展開していくわけですが、そのお手伝いをしています。中には補助金やクラウドファンディングもありますが、資金調達の「一丁目一番地」となると、やはり銀行からの融資です。
――経営支援を中心に手掛けるようになったきっかけはあったのですか。
亡くなった祖父母が商売をやっていました。祖母は商店、祖父はカメラの撮影会社です。ともに中小企業経営者でした。経営がうまくいかないときの様子や、お金の問題を間近で見ており、中小企業の経営は大変なのだと幼心に感じていました。良いアドバイザーとの出会いがあれば違ったかもしれませんが、結果としては会社をたたむことになりました。
祖父母が苦労しているのを見て、やはり法律やお金のことを知っていなければだめだと感じたことも、士業を志したきっかけになりました。
資金調達サポート実績は9億円
――これまでの主な実績をご紹介ください。
資金調達支援は300社以上、許認可などの業務を含めると500社以上を支援させていただきました。資金調達サポートを開始したのは2017年ですが、実績としては融資・補助金全部で9億2,000万円ほどです。現在も2億円規模の融資に関する依頼を受けており、まもなく一つの目標としていた10億円を超えるかと思います。様々な資金調達を一巡して、ようやく新たなスタートに立ったという想いです。
行政書士の業務というと、許認可や相続、外国人に関する業務などを思い浮かべる方が多いと思いますが、私は地元の中小企業を盛り上げていけるような支援を続けていきたいと考えています。そのため現在は、融資と事業計画の相談が中心です。
――製造業に勤務の経験をお持ちですので、業界の勝手が分かる部分も多いでしょうね。
そうですね。ものづくりに取り組む企業の経営者は、とても実直な方が多いです。例えば金属加工の分野で言えば100分の1ミリの高精度加工を行い、大手企業からの厳しいジャッジを潜り抜け、徹底した原価管理に真剣に取り組んでおられます。
私自身も勤めていた会社では大手鉄鋼メーカーさんからの要請による厳しい品質管理を目の当たりにして、日本の製造業の凄さを知ることができました。当時は全国の技術者の皆様と交流を持たせていただき「ものづくり」の世界を学んでおりました。その時の経験はやはり、お客様から様々な技術的なお話を伺う時の助けになっています。
社長が経営に集中できる環境づくり
――経営支援は、どちらかというと中小企業診断士の領域なのかと思っていました。
おっしゃる通りだと思います。中小企業診断士の先生方も、経営支援の専門家として幅広い分野でご活躍されています。一方で、私たち行政書士には、法律上、独自の役割もあります。例えば、財務状況に関する書類や事業計画を企業に代わって公的機関へ提出することは、行政書士だからこそ取り扱える業務です。
経営支援の現場では、補助金や助成金など公的制度を活用する場面が少なくありません。そのため、書類作成から提出までを担える行政書士の資格は大きな強みとなります。
また、経営者の皆さまからは「アドバイスだけでなく、実際の書類作成や申請を手伝ってほしい」といったご要望も多く寄せられます。私たちがこうした煩雑な事務作業を担うことで、社長が本業に専念できる環境を整えることができると考えています。
さらに、私はあえて支援領域を「資金調達」に絞り込み、融資や補助金といった資金確保を中心にサポートしています。こうすることで、経営者の方々にとって実効性の高い支援につなげられると考えています。
――ニッチな領域に特化しているのですね。
はい。中小企業診断士の先生方は、例えば工場の効率的なレイアウトやソフトウェアの導入といった、より幅広い領域でアドバイスをされることが多いと思います。一方で私は、事業の根幹でありながら、多くの経営者が悩む「資金」の問題に特化しています。事業全体のプロセスから見れば一部ですが、ここの悩みを抱える社長は多いのです。
製造業で約5年間働いていましたが、現場で長年ものづくりに携わってこられた方々の深い技術知識には敵いません。だからこそ私は、そうした現場の専門家や、より広い経営課題を扱う他の専門家の方々が直接は関わらない資金調達の分野で勝負することで、自身の強みを活かし企業の役に立ちたいと思います。
企業と金融機関のやりとりを円滑に
――経営支援ということは、金融機関との関係づくりも大切だと思いますが、どのように関係を築いてきたのですか。
とにかく金融機関に顔を出すことです。私ひとりで挨拶に行くこともあれば、企業の方に同行することもあります。金融機関側の要望を、私が社長さんに噛み砕いてお伝えすることもあります。
金融機関側から、「融資するためには、こういう情報や、このような書類が必要です」と言われれば、必要な情報をまとめて資料を作成することもあります。私が行政書士という専門家として介在することで、双方のやりとりが円滑になります。そういう意味では、金融機関側にも、会社側にも喜んでいただけていると思います。
ただし、ここで大切なのは単に事業計画の作成を代行するだけではだめだということです。社長も理解できていないから、銀行も不安になります。社長が理解できないような高度な計画書を代わりに作成する支援よりも、社長が理解できるようにアシストするような計画書フォーマットを運用することが当事務所の支援の特徴です。
倒産危機が一転、再スタートのお手伝い
――これまでの業務の中で、印象に残っているものはありますか。
「来月にも倒産しそうだ」という切羽詰まったご相談を受けたことがあります。お話を伺うと、その会社は特徴的なライセンスをお持ちでした。そこで私がネットワークを活かし、お声がけしたところ、わずか2日後には「すぐにでも買い取りたい」という会社が現れ、事業の承継をサポートさせて頂きました。
相談に来られた会社は倒産を免れ、借り入れも買い手側が引き継いでくれました。絶望的な状況から一転、人生の再スタートを切っていただくお手伝いができた、忘れられない案件です。
あと、最近、私の顧客の方に多いのですが、補助金の申請とは関係なく、きちんと経営計画を作って運用していきたいという、高いモチベーションをお持ちの会社が増えています。そういう会社は、業績がとても伸びている印象です
――行政書士としての業務を行う上で心掛けていることはありますか。
補助金や融資のご支援をする際は、可能な限り事業者様の現場に足を運びます。実際に作られている製品を拝見し、従業員の皆様の様子を伺う。そうして得られる「一次情報」を何よりも大切にしています。
机上の数字だけでは見えてこない現場の空気感や強みを知ることで、事業計画の精度は格段に上がります。それに、金融機関へ説明する際も「現場を見てきました」と一言添えるだけで、担当者の印象は全く変わると感じています。アナログかもしれませんが、こういう時代だからこそ、この現場主義を貫いています。
ほかには、例えば融資の相談を受けた場合は、銀行選びから一緒にサポートします。中小企業の場合、金融機関との付き合い方には一定の「モデル」がありますので、戦略的に考えることが重要です。その上で、銀行選びをお手伝いしますし、一緒に金融機関を訪問することもあります。
私の造語ですが、「バンク・リレーションシップ」(BRS)という考え方を大事にしています。地域の金融システムを担っている中心は銀行ですから、銀行と良好な関係を築くほうがビジネスはうまくいく可能性が高いです。BRSとは、企業が銀行と適切な関係を構築していく戦略なのです。

――BRSの取り組みを詳しく教えてください。
BRSは融資を受けた後だけではありません。そもそも、どの金融機関から融資を受けるべきか、その「銀行選び」からサポートします。企業の成長段階や事業内容に合わせて、どの金融機関と関係を築くべきか、戦略的に考えることが重要です。その上で、融資後も関係を深めていきます。
例えば、企業の方には毎月、あるいは四半期に一度は試算表と事業報告を持って金融機関へ報告に行くようお願いしています。そうすることで金融機関の担当者が変わっても「あの会社はきちんと報告してくれる」と定性的な評価が上がります。企業側も、融資を受けたことへの意識が高まりますので、より真摯に事業に向き合っておられると思います。
ほかにも私の顧客の方には、銀行の担当者を年1回お招きして、年度末などに翌年の経営計画発表会を開催していただきます。そこで率直なディスカッションもしていただきます。このように、私はプロデュースといいますか、企画運営も手掛けています。
金融機関は、事業を進めるうえでは味方なのです。適切な関係を築く中で得られる情報もあります。しかし、このような意識を持っている会社は、実は少ない気もしています。
――事務所は経営革新計画の認定を受けているそうですね。どのような制度ですか。
中小企業庁の公的な支援制度です。自社にとって新規事業などに関する中期経営計画を作成し、都道府県の審査を経て認定されると、その事業計画について県からお墨付きをいただけるイメージです。公的融資を受ける際に低利率で融資を受けられたり、保証協会の保証枠が増えたりします。補助金申請時の審査で加点されることもあります。このように、さまざまな恩恵を受けられるメリットがあります。
弊所は事業計画作りのサポートを売りにしていますので、自社でもきちんと事業計画を作って公的な認定をいただいております。
経営革新等支援機関に認定、M&A支援機関に登録
※インタビュー記事の末尾に、経営革新等支援機関とM&A支援機関に関する説明を掲載しましたので、ご参照ください。
――認定支援機関でもありますね。
経営革新等支援機関、いわゆる認定支援機関と、M&A支援機関にも登録しています。経営革新等支援機関は専門知識や実務経験を持つ個人・法人・中小企業支援機関を国が認定し、専門性の高い中小企業支援を行うことを目的とした制度です。
3年前から事業承継の相談も徐々に増えており、M&A支援機関登録、株式会社バトンズ様のプログラム参加などにも取り組んでいます。
実は、創業融資のプロセスを学べるゲームを開発中です。創業融資に関するご相談を受けることもあるのですが、皆さんがつまずくところは、だいたい同じです。もっと早くご相談いただけていれば、対応できたことがあるのに…と思うことも多くて。ネットやセミナーで得られる情報も多いと思いますが、ボードゲームのようなゲームを通じて、よりたくさんの方に、創業や金融の知識を知っていただける仕組みにしたいと考えています。
先ほどの「バンク・リレーションシップ」もそうですが、自社独自のものを広めていく活動も、積極的に進めたいと考えています。

――複数の従業員がいらっしゃるそうですが、組織づくりで工夫されていることはありますか。
グループには社労士法人もあり、また、行政書士事務所の支店もありますが、トータルでは十数人の同僚がいます。社内にはさまざまな世代の方がいます。世代間のギャップについて悩んでいる事務所もあると思いますが、私はこれを強みに変えていけるような組織づくりをしたいと考えています。人間には弱点もあれば強みもありますが、私はその人の強みや魅力に焦点を当てた組織づくりをしたいと思っています。欠点があったとしても、ではそれを、どのようにしてフォローしていくかというふうに考えたいですね。
ある、尊敬する先輩の行政書士の方から言われたのでは、行政書士というのはもちろんお金も稼がなければいけないけれども、公の役に立つという社会的な役割を意識し、会務運営も含め積極的に頑張るべきというお言葉を聞き非常に感銘を受けました。地域のクライアントのため、従業員やその家族にとっても、良い企業を作りたいと思います。
苦難を乗り越えた経験があるからこそ
――融資や経営などについて悩んでおられる方々へのメッセージをお願いします。
商売には良い時もあれば悪い時もあります。弊所の場合、支店が水害で床上浸水して、半年営業できなかったことがありましたし、資金繰りに窮したこともありました。その時は、なぜ自分のところばかりが…と思いましたが、商売をやる以上、理不尽なことも起きます。弊所は、そうした苦難を乗り越えた経験も多い事務所だと思います。
困った時に、どう立ち回ってチャンスを待つか、掴んでいくかという経験をしていることが弊所の強みですので、お困りの際は、ぜひ最初に思い出していただきたいですね。もし、自社で解決できないことであれば他の専門家をご紹介させていただきますし、お金、資金のお悩みであれば私が直接対応させていただきます。
経営革新等支援機関(認定支援機関) |
国の認定を受けた、中小企業支援のプロフェッショナルです。税理士や公認会計士、弁護士、そして行政書士などが、専門知識や実務経験が一定以上あると認められると、この認定を受けることができます。 この機関は、企業の経営改善や資金調達、新しい事業への挑戦(経営革新)などをサポートします。認定支援機関を経由することで、補助金申請時に加点対象となる場合があったり、特定の公的融資の金利が優遇されたりするメリットがあります。 この認定を受けているということは、「中小企業の経営を支援する上で、国からお墨付きをもらっている専門家」である証と言えるでしょう。 |
M&A支援機関 |
企業の合併・買収(M&A)を専門に支援する機関です。「M&A」というと、大きな企業が会社を買い取るイメージがあるかもしれませんが、後継者不足に悩む中小企業が、事業を次世代に引き継ぐための手段としても注目されています。 M&A支援機関は、会社の売却や買収を希望する経営者に対し、相手探しから交渉、契約手続きまで、複雑なプロセスを全面的にサポートします。特に、近年は中小企業の事業承継問題が深刻化しているため、M&Aを通じて円滑な事業承継を実現する上で、重要な役割を担っています。 この機関に登録しているということは、「事業承継や会社の売却・買収に関する専門知識とノウハウを持つ専門家」であることの証明と言えるでしょう。 |
専門家プロフィール

松本 和博
行政書士法人アシスト代表社員
行政書士
製造業出身の実務経験を活かし、資金調達や事業計画の支援を得意とする行政書士。金融機関との関係構築にも長け、豊富な融資サポート実績を誇る。
事業者情報
事業者名 | 行政書士法人アシスト |
代表者名 | 松本 和博 |
連絡先 | 080-5565-7653 |
事業内容 | 経営支援、資金調達や補助金申請のサポート等 |
住所 | 行政書士法人アシスト 本店 〒010-0951 秋田県秋田市山王2丁目7-36山王ソラリスビル4-3 行政書士法人アシスト 山王支店 〒010-0951 秋田県秋田市山王5丁目5-23 行政書士法人アシスト 南通支店 〒010-0011 秋田県秋田市南通り亀の町10番38号 |
アクセス | ・JR奥羽本線「秋田駅」から徒歩約30分 ・秋田市役所から徒歩約3分 |
営業時間 | 平日 9:00~17:00 (電話は平日 8:30~18:00) |
定休日 | 土日祝日 |
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