
国内外を問わず、中小企業が事業展開を図る際、今や知的財産の保護と活用は事業展開を進めるうえで欠かせないテーマとなっています。模倣品による損失防止、海外パートナーとの交渉材料、信頼性の裏付けとしての権利取得など、知財は事業の根幹に関わる戦略資源となります。
本記事では、特許庁やJETRO、自治体が提供する多様な支援制度のうち、主に海外展開や権利化に関わる主要事業を取り上げます。制度の違いや活用場面を明確にしながら、中小企業の皆さんが「自社にとって最適な選択肢は何か」を判断しやすくなるような情報をお届けします。
目次
- 中小企業も知財戦略が必要
- 1.1 知財が企業競争力の源泉となる時代
- 1.2 制度の全体像:「攻める」と「守る」の2軸構成
- 1.3 中小企業の知財動向
- 1.4 公的機関の資料紹介
- 国内外の出願に要する費用感
- 特許庁の海外出願支援事業
- 申請ルート別の特徴と申請の流れ
- 4.1 INPITルート
- 4.2 地域連携型ルート
- 4.3 INPITと地域連携型の比較表
- JETROの知財活用・防衛支援
- 5.1 主要な共通情報
- 5.2 模倣品対策支援事業
- 5.3 冒認商標無効・取消係争支援事業
- 5.4 防衛型侵害対策支援事業
- 5.5 JETRO支援事業の戦略的活用法
- 自治体の出願支援制度一覧
- よくある質問
- まとめ-知財補助制度を戦略的に使いこなすために
- 8.1 フェーズ別の制度活用ポイント
- 8.2 制度活用を成功させる三つの視点
- 8.3 まずは相談から
01 中小企業も知財戦略が必要
1.1 知財が企業競争力の源泉となる時代
知的財産は、模倣防止(海外での模倣品流通を防ぐ)や信用獲得(技術力の裏付けとしての特許取得など)、交渉力の向上など、企業の競争力を支える重要な資産です。特に中小企業においては、限られたリソースの中で知財をどう守り、どう活用するかが事業の成否に直結します。
1.2 制度の全体像:「攻める」と「守る」の2軸構成
本記事でご紹介する知財支援制度は、主に「攻めるフェーズ(出願・活用)」と「守るフェーズ(防衛・係争対応)」に分かれます。
攻めるフェーズの支援制度
- 特許庁の事業:第4章で詳しく紹介します。
- 自治体による国内出願支援補助金:第6章で詳しく紹介します。
守るフェーズの支援制度:第5章で詳しく紹介します。
- JETRO模倣品対策支援事業
- JETRO冒認商標無効・取消係争支援事業
- JETRO防衛型侵害対策支援事業
1.3 中小企業の知財動向
「特許行政年次報告書2025年版」の第3章中小企業・地域における知的財産活動によると、2024年の国内企業の国内での特許出願件数における中小企業の割合は16.0%(約3.8万件)でした。中小企業の特許出願件数の2020年以降の推移を見ると、ほぼ横ばいであることが分かります。

1.4 公的機関の資料紹介
中小企業の知財戦略について言及した、公的機関による代表的な資料を3点紹介します。 それぞれ、実務ガイド、経営者向けマニュアル、政策方針資料という性格を持ち、目的に応じて使い分けることができます。
中小企業支援知的財産経営プランニングブック(特許庁)
内容
知財経営の定着モデル(知的財産活動が企業経営に不可欠な活動として根づくこと)を提示し、支援プロセスや体制整備の方法を体系的に解説。
活用場面
- 「知財経営ってどう進めるの?」という問いに対する参考資料として
- 社外の伴走支援者(弁理士・支援機関職員など)が企業の知財状況を把握するためのツールとして
- 問診票や診断書が付属しており、企業との対話や支援方針の設計に活用可能
中小企業経営者のための知的財産戦略マニュアル(東京都知的財産総合センター)
内容
「なぜ今、中小企業に知財戦略が必要か?」という問いに答える構成。攻めと守りの戦略、共同開発、侵害対応など、実践的な視点が豊富。
活用場面
補助金制度を活用する前に、戦略的視点も少し意識してみたいとき。経営者目線の読みやすさも魅力。
中小企業経営者のための知的財産戦略マニュアル(東京都知的財産総合センター)
内容
「なぜ今、中小企業に知財戦略が必要か?」という問いに答える構成。攻めと守りの戦略、共同開発、侵害対応など、実践的な視点が豊富。
活用場面
補助金制度を活用する前に、戦略的視点も少し意識してみたいとき。経営者目線の読みやすさも魅力。
中小企業・スタートアップの知財活用アクションプラン(中小企業庁&特許庁・INPIT)
内容
中小企業・スタートアップの知財活用支援に関する政策的な方向性を示した資料。知財を経営資源と位置づけ、支援施策の方向性を体系的に整理。ブランド戦略、商標、意匠の活用支援、IPランドスケープ(特許情報などの知的財産情報と、経営情報や事業情報、その他の市場情報を組み合わせ、分析して経営・事業戦略に活用する手法)やハンズオン支援(専門家が現地に赴いての支援)なども含む。
活用場面
制度の思想的背景を知りたいとき。「知財=企業価値の源泉」という視点が明確で、制度の広がりを補足する資料として有効。
02 国内外の出願に要する費用感
国内出願では、特許、商標、意匠などの権利種別に応じて費用感が異なります。「出願」時にかかる費用の目安は以下の通りです。
権利種別 | 庁費用 | 弁理士費用 | 合計目安 |
特許出願 | 約17万円※ | 20〜30万円 | 37〜47万円 |
商標出願 | 約1.2〜3.4万円 | 5〜8万円 | 6〜12万円 |
意匠出願 | 約2.5万円 | 10〜15万円 | 12〜18万円 |
※ 特許出願の場合、庁費用には出願料14,000円と審査請求料約15万円(請求項の数に応じて変動)が含まれています。
※上記の表は「出願段階」の費用の目安であり、権利取得後も別途費用が必要となる場合があります。
特許出願の場合、出願日から原則20年間、毎年特許庁に年金(維持費用)を支払う必要があります。この年金は登録から年数が経つごとに高くなる傾向にあります。特定の条件を満たす中小企業などの場合、年金の一部(第1年から第9年まで)が減免される制度が適用されることもあります。
商標出願の庁費用は、指定する商品や役務の区分数によって変動します。例えば、1区分の場合の庁費用は約1.2万円ですが、区分数が増えると費用も増加します。商標権は登録の日から10年間存続し、更新も可能です。登録料は全額一括納付または5年ごとの分割納付が選択できます。
意匠出願の庁費用「約2.5万円」は、出願料と最初の3年分の登録料を合わせた金額です。意匠権は出願の日から25年間存続し、4年目以降は毎年登録料を支払う必要があります。
外国特許出願の費用感(主要国)
出願国 | 出願+審査請求 | 翻訳費込み概算 |
アメリカ | 約50万円 | 約130万円 |
ヨーロッパ | 約80万円 | 約130万円 |
中国 | 約80万円 | 約80万円 |
韓国 | 約75万円 | 約75万円 |
注意:「出願時」の費用感は、あくまで目安です!
外国特許出願の費用は、出願する国・地域、請求項の数、明細書の複雑さ、そして弁理士の費用や為替レートによって大きく変動するため、これらの金額はあくまでモデルケースとしての概算費用です。
出願後には、外国特許庁からの「中間処理」(拒絶理由通知への対応など)にも、別途費用が発生することがあります。
翻訳費用は案件の難易度や文字数により大きく異なり、英語の翻訳であれば30万円から80万円程度が目安とされています。英語に翻訳された出願書類は、アメリカ、ヨーロッパ、インド、マレーシア、シンガポールなどの英語圏での出願に流用できるため、他の国・地域への出願に比べて翻訳費用を抑えられる場合があります。
アメリカでは通常、出願と同時に審査請求が行われるため、審査請求の別途費用は通常発生しません。
中国や韓国の「出願+審査請求」費用には、多くの場合、現地語(中国語、韓国語)への翻訳費用が含まれているため、「翻訳費込み概算」と同額になっています。
03 特許庁の海外出願支援事業
中小企業が海外市場で知的財産権を確保するには、出願・審査・維持に至るまで多くの費用と専門的対応が求められます。特許庁が提供する「海外出願支援事業」は、そうした負担を軽減し、戦略的な海外展開を可能にする「知財の橋渡し支援」として機能します。
この事業は、制度としては一本であり、申請窓口が以下の2ルートに分かれています。
◆INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)を窓口とする全国公募型
INPIT(インピット)
経済産業省所管の独立行政法人である「独立行政法人工業所有権情報・研修館」の略称です。企業や個人を対象に、特許、商標、意匠などの知的財産の取得・活用を支援するため、例えば外国出願支援事業、知財総合支援窓口、J-PlatPat(特許情報検索サービス)といった情報提供、相談対応、補助事業などを行っています。
◆都道府県の中小企業支援センターを窓口とする地域連携型

いずれのルートも特許庁が事業主体であり、補助内容や対象経費は原則、共通です。ただし、申請方法や公募時期など一部違いもあるため、利用者は自社の状況に応じて最適なルートを選択する必要があります。
04 申請ルート別の特徴と申請の流れ
4.1 INPITルート
以下の2つの補助制度で構成されています。
出願手続補助:外国出願の初期費用を支援
中間手続補助:審査対応費用を支援
INPITルートはJGrantsで申請
INPITルートの申請フローは以下の通りです。なお、事前にGビズIDの取得が必須です。GビズID公式サイトで手続きをしてください。
- ① 公募開始
- INPITが補助事業の募集を開始。公式サイトやJGrantsで告知される。
- ② 事前相談(推奨)
- 申請内容や対象可否について、INPIT事務局に事前確認を行う。
- ③ JGrantsでの電子申請
- 政府の電子申請システム「JGrants」から必要書類を提出。
- ④ 採択通知
- 審査を経て、採択結果が通知される。交付決定後に出願可能。
- ⑤ 外国出願実施
- 採択された内容に基づき、実際の外国出願を行う。
- ⑥ 実績報告書提出
- 出願完了後、経費明細や成果を記載した報告書を提出。補助金は後払い。
4.2 地域連携型ルート
都道府県ごとに公募される地域連携型の補助制度「海外出願支援事業」は、各都道府県の中小企業支援センターが窓口となり、地域企業の海外展開を支援しています。事業の詳細および都道府県の窓口は、特許庁のウェブサイトをご参照ください。
地域連携型の標準的な申請手順
地域連携型は地域の支援センターへ申請書類を提出します。支援センター一覧は特許庁のウェブサイトに掲載されています。
- ① 地域窓口への事前相談
- 申請対象や必要書類について、都道府県の支援機関に事前確認を行う。
- ② 申請書類の準備
- 補助申請に必要な様式・証憑類を整え、提出準備を行う。
- ③ 窓口経由での申請提出
- 地域の支援センターを通じて、申請書類を提出する。
- ④採択通知
- 審査を経て採択結果が通知される。交付決定後に出願可能。
- ⑤外国出願の実施
- 採択された内容に基づき、実際の外国出願を行う。
- ⑥実績報告・検査
- 出願完了後、経費明細や成果を記載した報告書を提出。補助金は後払い。
4.3 INPITと地域連携型の比較表
INPITルートと地域連携型ルートの比較内容を表にまとめました。
出願要件など
要件名 | 内容の概要 |
① 事前出願要件 | 日本国内で既に関連する出願(特許・商標・意匠)が完了していることが前提 |
② 優先権主張 | 日本出願を基礎とした優先権主張による外国出願であること(パリ条約等に基づく) |
③ 事業計画 | 外国で権利取得後の事業展開が明確で、補助金の活用目的が具体的であること |
④ 先行技術調査 | 外国での権利取得可能性について、事前に調査・検討が行われていること(根拠資料が必要) |
海外展開を視野に入れた知財取得では、出願ルートの選択が重要です。主なルートは以下の四つです。
① パリルート(パリ条約による優先権)
パリ条約の同盟国(第一国)において特許出願した者が、その特許出願の出願書類に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願する場合に、新規性、進歩性等の判断に関し、第二国における特許出願について、第一国における出願の日に出願されたのと同様の取扱いを受ける権利のこと。
② PCTルート
特許協力条約(PCT)(Patent Cooperation Treaty)に基づいた国際特許出願制度です。この制度を利用すると、一つの出願書類をPCT加盟国の特許庁に提出するだけで、PCT加盟国すべてに同時に出願したのと同じ効果が得られます。煩雑な手続きを軽減し、多くの国での特許取得を目指す際に有利な方法とされています。
③ マドプロ(マドリッド協定議定書)ルート
商標の国際登録制度です。日本での基礎出願(または登録)をもとに、WIPO(世界知的所有権機関)を通じて複数国に一括申請できます。ただし、国際登録は形式審査にすぎず、各国での実体審査結果により、保護範囲が決定されます。指定国によっては拒絶される場合もあり、国ごとの対応が必要になることもあります。
④ ハーグ協定ルート
意匠の国際登録制度です。WIPOを通じて最大100意匠まで一括出願可能です。各国の審査により保護の可否が決定します。
出願方式別の比較表
ルート | 対象権利 | 特徴 | 適用場面 | メリット | デメリット |
①パリルート (個別出願) | 特許・商標・ 意匠・ 実用新案 | 各国に個別出願。 優先権主張が可能 | 特定の1〜2ヶ国への出願 | 柔軟な出願戦略、 審査期間の短縮 | 多国出願時の手続き負担増 |
②PCTルート (国際出願) | 特許 | 国際出願として一括申請。 各国での国内移行が必要 | 多数国への出願予定 | 初期手続きの簡素化、 移行判断の先送り | トータル費用の増加リスク |
③マドプロルート (国際登録) | 商標 | WIPO経由で一括登録申請。 各国で審査 | 多数国への商標出願 | 手続きの一元化、 更新・管理が容易 | 基礎出願・登録が必要。 拒絶時の対応は国別 |
④ハーグ協定ルート (国際登録) | 意匠 | WIPO経由で一括登録申請。 最大100意匠まで可能 | 多数国への意匠出願 | 一括出願・管理が可能。 費用効率が高い | 審査基準が国ごとに異なる。 拒絶時の対応が必要 |
申請締切
制度区分 | 締切日 |
INPIT 出願手続補助 (令和7年度 第2回) | 2025年9月22日(月)17:00まで |
INPIT 中間手続補助 | 2025年12月22日(月)17:00まで |
地域連携型(都道府県) | 自治体ごとに異なる |
補助概要
制度区分 | 補助率 | 案件別上限額 | 1事業者あたり上限額 | 主な補助対象経費(例) |
INPIT 出願手続補助 | 1/2 | 特許150万円、 商標・意匠・実用新案60万円、 冒認対策商標30万円 | 最大300万円 | 外国特許庁への出願料、翻訳費、 国内代理人費用、 現地代理人費用、 弁理士費用など |
INPIT 中間手続補助 | 1/2 | 1手続あたり50万円 | 手続きごとに申請可 (意見書・補正書の提出など都度発生する対応) | 拒絶理由通知への応答費用、 意見書・補正書作成費、 翻訳費、外国特許庁手数料、 弁理士費用 |
地域連携型 (都道府県) | 原則1/2 | 特許150万円、 商標・意匠・実用新案60万円、 冒認対策商標30万円 | 最大300万円(全国一律) | 外国特許庁への出願料、 翻訳費、国内代理人費用、 現地代理人費用、 弁理士費用など |
05 JETROの知財活用・防衛支援
JETROが提供する「中小企業等海外侵害対策支援事業」は、海外での知財リスクに直面した中小企業等を支援する制度で、三つの専門事業で構成されています。

5.1 主要な共通情報
2025年度申請締切:10月31日(金)17:00
申請方式:JGrants電子申請
予算制限:予算がなくなり次第、公募を終了します。
加点措置:審査において、賃上げ実施企業に対する加点措置が設けられています。
5.2 模倣品対策支援事業
事業概要
目的:海外で流通する模倣品の調査・対策を支援
対象企業:海外展開中または予定の中小企業等
模倣品対策支援事業のみ、サポート型とセルフ型の2方式が用意されています。他の事業は、企業主体の対応に対する費用補助が中心です。
サポート型
JETROの支援内容:調査、対応を直接支援
具体的対応:行政摘発、税関差止、ウェブサイト削除等
企業負担:基本的な情報提供と意思決定
適用場面:初回対応や複雑なケース
※行政摘発支援は中国が対象国となっており、他国では商標関連の対応(税関差止、ウェブサイト削除等)が中心となります。対象国によって支援内容が異なるため、事前相談が推奨されます。
セルフ型
企業主体の対応:自社で対策を実施
JETROの支援:費用補助と助言
補助内容:調査費用、弁護士費用等
適用場面:継続的対応や費用効率重視
5.3 冒認商標無効・取消係争支援事業
冒認(他人の商標を無断で先取りし、自社の商標として登録する行為。国によっては、悪意の有無にかかわらず取消が可能な場合もあるため、現地法に応じた対応が重要です)商標の取消に向けた対応について、企業が現地専門家と連携して行う活動に対し、JETROが費用補助を行います。
実務上の活用ポイント
早期発見:定期的な商標監視体制の構築
証拠収集:冒認の立証に必要な資料整備
現地法対応:各国の法制度に応じた戦略策定
※申請には、日本国内で同一または類似の商標権を保有していることが必要です。地域団体商標の場合は、商工会議所・NPO法人等も対象となります。
5.4 防衛型侵害対策支援事業
現地での係争に備えた調査や対応について、JETROが申請支援や費用補助を通じて企業の防衛対応を支援します。
事業概要
目的:海外で自社権利が侵害された場合の防衛措置支援
想定場面:競合他社からの警告状受領、特許侵害訴訟への対応
重要な対象要件
係争の実在性:警告状・訴状等の具体的証拠があること
権利の保有:日本または現地で関連する産業財産権を保有していること
相手方の制限:係争相手が日系企業でないこと(※係争相手が日系企業の場合は、原則として本制度の対象外となります)。
JETRO知財支援事業の比較表まとめ
支援事業名 | 主な目的 | 補助率 | 補助上限額 | 対象経費 | 適用場面 |
模倣品対策支援事業 | 海外流通模倣品への対応 | 2/3 | 400万円 | 調査費、弁護士費用、 行政手続費用 | 模倣品発見時、初動対応 または継続的対応 |
冒認商標無効・ 取消係争支援事業 | 先取り商標の取消・無効 | 2/3 | 500万円 | 弁護士・弁理士費用、 手続費用 | 商標調査で先取り判明時 |
防衛型侵害対策支援事業 | 自社権利侵害への防衛 | 2/3 | 500万円 | 弁護士費用、鑑定費用、 翻訳費用 | 警告状・訴訟対応時 |
5.5 JETRO支援事業の戦略的活用法
三つの事業の使い分け指針
模倣品対策:市場での模倣品流通が確認された段階で
冒認商標対策:海外展開前の商標調査で先取りが判明したら
防衛型対策:競合からの法的措置を受けた段階で
申請前の推奨アクション
①JETROへの事前相談:制度適用可否の事前確認
②証拠資料の整備:各制度で求められる立証資料の準備
③現地弁護士との連携:実際の対応を担当する専門家の確保
06 自治体の出願支援制度一覧
自治体によっては独自の知財支援制度を展開しています。例えば東京都では、知財支援の専門機関として「東京都知的財産総合センター」が設置されており、出願費用の助成や専門家による相談、セミナー開催など、実践的な支援が充実しています。自治体が独自に実施する知財出願支援制度は主に国内出願向けですが、外国出願支援を行う自治体も増えています。自治体の支援制度は、地域密着型の支援を受けられる利点があります。主な取組を紹介します。
なお、自治体によっては、予算額に達したことにより募集が終了している場合がありますので、詳細は必ず自治体窓口に確認してください。
知的財産権に関する自治体による補助金・助成金の主な事業
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藤枝市
事業名 | 産業財産権取得費補助金 |
対象者 | 中小企業者で市内に本社又は主たる事業所を有するもの、または中小企業団体 |
対象となる知財種別 | 国内における特許権、実用新案権、意匠権、商標権の取得のための出願等 |
補助率 | 2分の1以内 |
限度額 | 一の産業財産権につき20万円 |
補助対象経費 | 出願、審査請求、登録に係る経費(ただし、弁理士への手数料を除く) |
注意事項 | 出願等を行う日の10日前までに申請書等を提出 |
一宮市
事業名 | 中小企業特許及び実用新案出願支援補助金 |
対象者 | 一宮市内に事業所を有し、特許または実用新案の出願を行った中小企業者(一宮市内に本社を有するものに限る) |
対象となる知財種別 | 特許出願および実用新案出願、特許における出願審査請求、実用新案における技術評価書の請求。 |
補助率 | 対象経費の47.5%(千円未満切り捨て) |
限度額 | 特許171,000円。実用新案114,000円 |
補助対象経費 | 特許庁への出願にかかる経費、出願審査請求費用(特許)、技術評価書の請求(実用新案)、電子化手数料、弁理士費用。 |
注意事項 | 申請は年度内1事業者につき特許・実用新案それぞれ1件まで。「特許庁への出願にかかる経費」の申請期間は出願日から3カ月以内。特許の国際出願や国内優先権主張出願は対象外。 |
世田谷区
事業名 | 知的財産権取得支援補助金 |
対象者 | 中小企業基本法に定める中小企業者。区内で引き続き1年以上事業を営んでおり、区内に事業所を有し、かつ営業活動等の本拠となっている。 |
対象となる知財種別 | 令和6年4月1日以降に出願し、かつ、申し込み時に出願が完了している特許権、実用新案権、意匠権、商標権 |
補助率 | 補助対象経費の1/2(千円未満切捨て) |
限度額 | 20万円(補助対象経費の1/2または20万円のいずれか低い額) |
補助対象経費 | 知的財産権の新規取得に要する特許料、登録料、その他手数料や弁理士費用など。特許権に関しては先行技術調査にかかる経費も対象。 |
注意事項 | 複数をまとめて申請可能だが、同一の出願に関して補助金を受けられるのは1度限り。前年度及び本年度に本補助金の交付を受けている場合は対象外。 |
高崎市
事業名 | 特許出願奨励金 |
対象者 | 高崎市内に主たる事業所を有する中小企業者、個人事業主。 |
対象となる知財種別 | 特許の出願又は出願審査請求 |
補助率 | 2分の1以内(千円未満切捨て) |
限度額 | 10万円 |
補助対象経費 | 特許出願料、出願審査請求料、弁理士費用、電子化手数料。 |
注意事項 | 1中小企業者につき1年度あたり2件まで。 特許庁に特許の出願又は出願審査請求をする「前に」申請書を提出し、奨励金交付決定を受ける必要がある。 高崎市ぐんま技術革新チャレンジ補助金の交付を受けた知財出願費の弁理士費用は対象外。 |
静岡市
事業名 | 産業財産権出願事業補助金 |
対象者 | 市内に本社又は工場を保有する中小製造事業者、中小製造事業者で組織する団体 |
対象となる知財種別 | 特許・実用新案に係る出願を行う事業(特許・実用新案以外は対象外)。令和8年3月末日までに補助対象経費の支払いが完了すること。 |
補助率 | 2分の1以内 |
限度額 | 10万円 |
補助対象経費 | 出願手数料等に係る経費、出願に必要となる弁理士費用 |
注意事項 | 申請受付期間:令和8年2月27日まで。交付申請などは原則オンライン手続き。 |
浅口市
事業名 | 産業財産権取得事業 |
対象者 | 法人にあっては市内に事業所又は事務所を有する者、個人にあっては市内に住所及び事業所を有する者 |
対象となる知財種別 | 製品及び技術の保護を目的とした特許権、実用新案権、意匠権及び商標権の出願。商標権については、地域団体商標の商標登録における権利取得のみ。 |
補助率 | 2分の1以内 |
限度額 | 補助限度額10万円 |
補助対象経費 | 特許権、実用新案権、意匠権及び商標権の出願に要する弁理士費用及び出願料等(出願料(実用新案登録料を含む)、審査請求料等も含む)。 |
注意事項 | 補助事業は同一年度の3月20日までに完了する必要がある。 |
厚木市
事業名 | 特許等出願支援補助金 |
対象者 | 中小企業者であって、市内で1年以上継続して事業を営み、かつ個人にあっては、市内に1年以上住所を有していること。 |
対象となる知財種別 | 特許権(審査請求まで行っていることが必要)、実用新案権、意匠権、商標権の取得 |
補助率 | 2分の1以内 |
限度額 | 上限10万円 |
補助対象経費 | 産業財産権取得に際し、令和7年3月16日から令和8年3月15日までに補助対象者が支払った費用:出願料 、審査請求に係る費用、登録料(初回納付分のみ)、弁理士等代理人に支払う費用。 |
注意事項 | 申請期間:産業財産権の取得から2か月以内または令和8年3月16日の早い方まで。 |
大垣市
事業名 | 知的財産権取得支援 |
対象者 | 市内に本社を有する中小企業 |
対象となる知財種別 | 知的財産権 |
補助率 | 1/2 |
限度額 | 限度額10万円 |
補助対象経費 | 弁理士及び弁護士への手数料、登録料等 |
注意事項 | 対象となる出願は国内での出願に限る。 |
宇都宮市
事業名 | 特許等取得促進助成制度 |
対象者 | 宇都宮市内の中小企業(製造業、農林業、卸売・小売業、特定サービス業)。個人は対象外。 |
対象となる知財種別 | 特許権、実用新案権、意匠権、商標権 |
補助率 | 2分の1。年度で1社1件まで。 |
限度額 | 30万円 |
補助対象経費 | 出願前に先行技術調査を行っていること。特許権については、審査請求を出願と同時に行う場合に限り審査請求経費も対象。出願料、弁理士手数料、先行技術調査費用、図面作成費用など。 |
注意事項 | 日本国内の出願に限る。対象事案は、特許庁へ令和7年1月1日以降に出願し、令和7年12月31日までに接受された事案。 |
四国中央市
事業名 | 知的財産権取得事業費補助金 |
対象者 | 市内に本店が所在し、事業活動を行っている中小企業者(市内に住所を有する個人事業主も含む) |
対象となる知財種別 | 先行技術調査等を行った知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の取得のための出願(国外への出願を含む)及び当該出願後に行う知的財産権の取得に係る事業。 |
補助率 | 2分の1 |
限度額 | 20万円 |
補助対象経費 | 出願料、 出願審査請求料、実用新案技術評価請求料 、書面手続きに係る電子化手数料、特許料、実用新案登録料、意匠登録料及び商標登録料、外国出願に係る手数料及び翻訳料、弁理士又は弁護士に委託した場合の委託料 |
注意事項 | 知的財産権取得のための出願の出願日の翌日から2年以内に補助金申請があったものに限る。 |
07 よくある質問
- 外国出願を行う際、関連する補助金は出願前と出願後、どちらのタイミングで申請すべきですか?
-
原則として、外国出願に関する補助金は、出願や審査対応などの費用が発生する前に申請し、交付決定または採択通知を受ける必要があります。交付決定前に弁理士、翻訳会社、現地代理人などへ業務を依頼し、契約・支払いを行った場合、その費用は原則として補助対象外です。
特許庁の海外出願支援事業(INPITルート・地域連携型)
項目 | 内容 |
対象制度 | INPIT外国出願補助金(全国公募型)、地域連携型海外出願支援事業(都道府県実施) |
申請タイミング | 出願や審査対応の前に申請し、交付決定を受ける必要あり |
補助対象費用 | 交付決定後に発注・支払いが完了した経費のみ(出願料、翻訳費、代理人費用など) |
補助事業開始日 | 交付決定日以降に発生した費用が対象 |
補助金の支払い | 精算払い方式(事業完了後に実績報告書を提出し、確定額が支払われる) |
重複申請の制限 | 同一出願に対してINPITルートと地域連携型の両方に申請することは不可。ただし、不採択後の再申請は可能 |
JETROの海外侵害対策支援事業
項目 | 内容 |
対象制度 | 模倣品対策支援事業、冒認商標無効・取消係争支援事業、防衛型侵害対策支援事業 |
申請タイミング | 対象となる手続きや費用発生の前に申請・審査・採択を受ける必要あり |
補助対象費用 | 採択通知日から翌年1月15日までに発注・契約・支払いが完了した経費 |
申請内容の変更 | 変更が生じた場合は、事前に計画変更申請を行い、承認を得る必要あり |
補助金の支払い | 実績報告書と確定書類に基づき、助成金額が確定後に振込される |
各制度に共通する重要なポイントとして、補助金申請は、対象となる費用が発生する前に行うことが必須条件であるという点です。交付決定または採択通知を受けた後に発生した費用のみが補助対象となります。
- 補助金を使って出願しても拒絶される場合はある?
-
補助金は「手続き」への支援であり、出願に対する結果をなんら保証するものではありません。
拒絶時の補助金への影響
補助対象経費としては認定:手続きを実施した事実で評価
報告義務は継続:結果に関わらず実績報告書の提出が必要
次回申請への影響:拒絶歴は基本的に申請可否に影響しない
拒絶リスクの軽減策
事前の先行技術調査:登録可能性の事前評価
専門家との連携:弁理士申請書類チェックや打ち合わせを十分に
複数国戦略:一般的に外国出願は複数国で行われる事例が多いです。
08 まとめ-知財補助制度を戦略的に使いこなすために
8.1 フェーズ別の制度活用ポイント
中小企業が知財活動を進めるうえで、国や自治体が提供する補助制度は、費用負担の軽減だけでなく、専門家との連携や申請タイミングの調整など、実務面でも大きな支援となります。本記事で紹介した制度は、企業の成長フェーズに応じて使い分けることで、より効果的に活用できます。
成長フェーズ | 活用すべき制度 | 主な支援内容 |
創業・開発段階 | 自治体の国内出願支援制度 | 出願費用の一部補助(特許・商標等)、 地域支援機関(INPITや商工団体)による申請サポート |
事業拡大・海外展開準備 | 特許庁の外国出願支援事業 | 外国出願・中間手続にかかる費用補助 (翻訳・代理人費用等)、全国公募型 |
海外展開・模倣品対策 | JETROの知的財産保護支援事業 | 模倣品対策(調査・行政摘発等)、 冒認商標取消支援・防衛型係争支援(それぞれ費用補助) |
継続的な知財管理 | 制度の組み合わせによる総合戦略 | 地域連携型ルート、INPITルート、 JETRO制度の組み合わせ活用、 弁理士・支援機関との連携による知財戦略構築 |
8.2 制度活用を成功させる三つの視点
① 出願前の制度理解:多くの制度が「出願前申請」を要件とするため、事業計画段階での制度調査が重要です。
② 専門家との連携体制の構築:弁理士や支援機関との継続的な相談体制が、申請の質と通過率を高めます。
③ 制度の戦略的選択:企業の事業フェーズと知財戦略に応じて、最適な制度を選ぶ視点が求められます。
8.3 まずは相談から
知財関連の補助制度は、単なる費用支援にとどまらず、企業の成長を支える戦略的なツールです。地域の支援窓口やINPITなど、相談先をうまく活用することで、制度の効果を最大限に引き出すことができます。専門家との連携を通じて、自社に合った知財戦略を築いていくことが、競争力や持続的な成長にもつながっていくはずです。
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