
地域経済循環型の新ビジネスを支援
地域に根差した中小企業の皆様にとって、地域経済の活性化に貢献しながら事業を成長させていくことは、重要なテーマの一つと言えるのではないでしょうか。今回は、そんな皆様を力強く後押しする総務省所管の補助事業「ローカル10,000プロジェクト」をご紹介します。地域活性化という幅広い枠組みの中で、地域密着型の起業や新規事業・第二創業を支援するこのプロジェクトは、民間事業者、国・地方自治体が一体となった「地域経済循環」を志向するものです。その概要や特徴をまとめました。
事業の狙いは? 総務省の担当者にうかがいました
本題に入る前に、ローカル10,000プロジェクトを所管する総務省地域政策課の担当者の方に、この事業に込めた思いや狙いをうかがいました。
ーーローカル10,000プロジェクトは、地域密着、地域経済循環、地域金融機関による融資といった点が特徴として挙げられると思います。本事業が、こういった観点を踏まえたプロジェクトとなっている背景を、改めて教えてください。
ローカル10,000プロジェクトは、産官学金労言(注;産業界、行政、学界、金融界、労働界、言論界)の連携により、地域の人材・資源・資金を活用した事業の立ち上げを支援するものです。
具体的には、①地域資源の活用②地域課題への対応③地域金融機関等による融資④新規性⑤モデル性、これら五つを併せ持つ事業を、行政と金融機関が応援するというものです。自治体が応援したい事業を、国も応援するという仕組みが、特徴の一つです。また、金融機関が無担保融資を行う点も特徴であり、雇用を生みながら地域課題を解決して経済循環を作り出すといった取り組みを全国各地で進めて、地域活性化を図っていくということが目的です。
ーー地域金融機関等による融資が含まれている背景は、どのようなものでしょうか。
地域に眠る資金を呼び起こして投資に回すという側面もありますし、地域に根差した金融機関が寄り添っていくという点も一つの狙いとしてあります。
ーーローカル10,000プロジェクトのうち、「国庫補助事業」型には「モデル性」という要件が含まれていますが(注;「地方単独事業」型では要件とされていません)、その理由を教えてください。
モデル性は、二つの観点から設定されています。一つは、地域内で前例がない取り組みであるかという点。これは、地域内で前例のないチャレンジに対して、国と自治体が後押しするというものです。もう一つが、同じような地域課題を抱える地域で展開しうるかという点です。一つの地域内の取り組みではあるけれども、全国のモデルとなる事例を作ることにより、地域課題を解決したり、経済循環の効果を全国に波及させたりすることを狙いにしていますので、国も後押ししています
ローカル10,000プロジェクトの地方単独事業は令和6年度に創設されたものになりますが、地域内で、すでに実績がある取り組み・事例を積み重ねていくという「横展開」に使うことが念頭に置かれていますので、モデル性は問わないということになります。
ーー昨今のローカル10,000プロジェクトへの応募事例の特徴はありますか。
まず全体の傾向として、相談と申請件数が急増しています。このプロジェクトは自治体が最終的な申請者になるので、これまでは自治体に「(プロジェクトを)活用してくださいね」とアプローチをしてきました。とはいえ、実際に活用していただくのは事業者ですので、事業者に情報をお届けするというふうにアプローチの手法を変えたことで、相談件数・申請件数ともに大幅に増えてきました。
個別の事業ですが、例えば岩手県久慈市は地域の特産品と脱炭素に関する事業、山梨県都留市は伝統工芸を活用した事業、島根県松江市と徳島県美馬市は古民家を改修して観光に資する事業、長野県佐久市と鹿児島県長島町は地域産品を活用した事業に取り組んでいます。
このように、幅広い事業内容が行われていると言えますが、近年の傾向としては、クラフトビールのブームに乗った事業や、コロナ禍で低迷した観光需要を呼び戻すための宿泊事業が多い印象はあります。
ーーちなみに、ローカル10,000プロジェクトの「10,000」の意味ですが、「これぐらい多くの事業にチャレンジしてほしい!」という願いが込められているのかなと推測したのですが…。
まさにその通りです。自治体・金融機関とも連携しながら、地域の資源を活用し、地域の課題を解決する取組が全国各地で行われてほしいという期待も込めてインパクトある数字としました。
完全に最初の立ち上げも対象ですし、すでに創業されている方(第二創業)で新しい分野にチャレンジしたいという方にも使っていただける制度ですので、ぜひチャレンジしてみてください。


それでは、ローカル10,000プロジェクトの中身を見ていきましょう。
目次
01 ローカル10,000プロジェクトとは?
国・地方自治体が地域の金融機関等と連携しながら、民間事業者等による新規事業を支援することにより、地域経済循環を創造することを目的とした事業です。「国庫補助事業」型と「地方単独事業」型があります。

キーワード
地域経済循環
地域内の多様な資源(ヒト、モノ、場所など)を活用した地域密着型の事業を行うことで、地域の雇用創出や所得向上、少子高齢化対策、観光振興といった地域課題の解決につながる。事業活動を通じて得られた収益が地域内で再投資されることで、次なる事業機会を生み出し、地域内でヒト・モノ・カネが持続的に循環し、地域全体の活性化が図られる。
地域密着型事業
その土地の資源と資金を活用した、地域に雇用を生み出す事業のこと。
02 事業スキーム
このプロジェクトの大きな特徴は、事業に必要な初期投資費用(施設整備・改修費、備品費など)を、公費(国費及び地方費)による助成金と地域金融機関等による融資を組み合わせて支援する点にあります。

03 他の地域振興関連補助金との違いは?
ローカル10,000プロジェクト独自の特徴といえば、地域金融機関等からの融資または民間クラウドファンディング等が必須要件となっている点です。これは、事業の実現可能性や継続性を高め、地域に根差した経済循環をより確実にするための仕組みと言えます。地域振興に関連する他の補助金との違いを見てみましょう。
例えば、小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を推進するもので、機械装置費、新商品開発費、広報費などが補助対象となり、補助上限額は最大250万円です。他方、ローカル10,000プロジェクト(国庫補助事業)では機械装置費だけでなく施設整備費や備品費も対象になることに加え、補助上限額が最大5,000万円という違いがあります。また、小規模事業者持続化補助金は事業者自らが事業計画書を策定し、商工会・商工会議所の伴走支援を受けながら取り組むといった特徴があります。
農山漁村振興交付金は、農山漁村地域の振興に資する施設の整備等(農林水産物加工・販売施設、地域間交流拠点など)を支援しますが、ローカル10,000プロジェクトのような融資連携は必ずしも必要でなく、モデル性も問われません。 ローカル10,000プロジェクトは、「地域経済循環の創造」という目的に特化し、地域密着型で新規性とモデル性のある事業の立ち上げとその継続性を重視した設計になっていると言えます。
04 必須要件5項目すべてに該当するかチェック!
ローカル10,000プロジェクト(国庫補助事業)の支援対象となるためには、以下の五つの要件を全て満たす必要があります。地方単独事業型は、5項目のうちモデル性は問われません。
- 地域密着型(地域資源の活用)
- 地域課題への対応(公共的な課題の解決につながる事業)
- 地域金融機関による融資等
- 新規性(事業者にとって新規事業である)
- モデル性(地域の中で前例がなく、モデルとなる事業である)
(注)プロジェクトのパンフレットには、チェック項目を6項目に細分化した下記のチェックシートが掲載されています。

05 支援の対象となる経費・対象外となる経費
交付金の対象となる主な経費は以下の通りです。
- 施設整備費:建物の新築、改修、増築などに要する費用。
- 機械装置費:事業に必要な機械や装置の購入、設置に要する費用。
- 備品費:事業に必要な備品の購入に要する費用のほか、リース、レンタルに係る費用も対象。
- 地域の大学と連携する場合の調査研究費。
以下の経費は原則として対象外となります。
- 事業目的に合致しないもの。
- 振込手数料、各種申請手数料・収入印紙。
- 各種保険料。
- 事業に直接使用したことが特定できない一般事務用品等。
- ソフト経費(広告宣伝費、商品開発費など)。
ただし、地方単独事業型では、広告宣伝費、商品開発費、事業分析・再構築費が対象となる場合があります(上限は1事業あたり合計200万円)。
06 補助上限額は?
ローカル10,000プロジェクト(国庫補助事業)の交付額は最大5,000万円です。ただし、この上限額は、事業費全体に対する金融機関等からの融資額と公費(国費+地方費)の割合によって、以下の通り段階的に設定されています。
- 金融機関等からの融資額が、公費(国費+地方費)の1倍以上1.5倍未満の場合:上限2,500万円
- 金融機関等からの融資額が、公費の1.5倍以上2.0倍未満の場合:上限3,500万円
- 金融機関等からの融資額が、公費の2.0倍以上の場合:上限5,000万円
なお国庫補助事業型の場合、公費による交付額を、国と地方自治体が原則 1/2ずつ負担します。ただし、特定の条件を満たす事業(例:デジタル技術活用、脱炭素、女性・若者活躍に関する事業)や過疎地域などの条件不利地域においては、公費のうち国費の負担割合が増える特例措置があります。
07 活用の具体的なステップ
ローカル10,000プロジェクトを活用したい事業者は、以下の流れで申請・相談を進めることができます。
01 自治体の担当窓口へ相談
まず、自治体の担当窓口に問い合わせ、事業が対象要件に合致するか確認しましょう。(窓口は総務省HPでチェック!)
02 資金調達の戦略を立てる
自己資金や金融機関からの融資に加え、クラウドファンディングの活用可能性を検討し、最適な資金計画を策定します。
03 必要書類の準備・申請
計画書や見積書など所定の書類を整え、自治体経由で総務省へ提出・申請します。
04 事業の進行と定期的な報告
採択された場合、定期的に進捗報告を行いながら、計画に沿って事業を進めていきます。

08 地方自治体の予算措置が必要
ローカル10,000プロジェクトの事業を実施するためには、まずは地方自治体(都道府県又は市区町村)が予算を確保すること(予算措置)が必要です(予算措置が交付決定後に実施される場合もあります)。 補助対象となる経費は、原則として交付決定後に着手するものが対象です。ただし、やむを得ない事情がある場合に限り、「交付決定前着手届」を提出することで交付決定前の事業着手が認められる場合があります。事前着手を予定している場合は、あらかじめ総務省へ相談する必要があります。
「やむを得ない事情」としては、以下のような事由が想定されます。
- 改修対象の建物について競合他者がいるため、交付決定前に早期に購入しなければ事業が実施できなくなる場合。
- 導入する機械装置等が海外からの輸入品で納品までに相当の期間を要するため、年度内に完了するためには交付決定前に発注する必要がある場合。

09 ローカル10,000プロジェクトの採択事例
ローカル10,000プロジェクトは、これまで、地域資源の活用や地域課題の解決につながる、新規性・モデル性のある様々な事業を支援してきました。いくつかの事例をご紹介します。
古民家を活用した移住・起業希望者向け長期滞在施設の整備=兵庫県
移住ニーズの高まる地域で、築100年の古民家を改修し、移住・起業目的の人が安価で長期滞在できる施設を提供する。移住・定住希望者向けに不動産情報を提供するカフェスペース、新規事業者向けには工芸品・農産加工品の商品販売所を整備する。
温泉付きバリアフリー宿泊施設の新設・改修=神奈川県
障害者スポーツ合宿や高齢者ヘルスツーリズムの受入れに対応し、新たな観光需要を取り込む。
古民家・納屋再生とジビエ活用事業=香川県東かがわ市
築80年の古民家を改修。一日一組限定の宿泊施設として展開し、ジビエを含めた地域資源を多角的に活用する。また、母屋に併設する納屋を改修し、新たな交流拠点という付加価値を併せ持つ「山の本屋」として営業する。
10 よくある質問(国庫補助事業型)
- 対象事業費について下限額はあるか?
-
下限額は定められていません。
- 複数の金融機関による協調融資は可能か?
-
可能です。
- 金融機関からの融資決定証明書がないと自治体は申請できないのか?
-
融資見込みの段階で申請可能です。ただし申請までには、金融機関から融資について了解を得る状態までは調整してください。
- 金融機関の融資とファンドからの出資をセットで行うことは可能か?
-
認められます。
11 まとめと今後の展望
ローカル10,000プロジェクトは、地域資源を活かした持続可能な事業の創出を目指しており、今後も自治体や金融機関、地域団体との連携を深めながら発展していくと期待されています。特に、デジタル技術を活用したビジネスモデルの採用や、クラウドファンディングによる資金調達の多様化が進むことで、より多くの事業者が参入しやすくなるでしょう。地方自治体はプロジェクト推進の重要なパートナーです。相談の際には、事業の地域貢献性を明確に伝え、他の支援制度との併用可能性も確認すると、よりスムーズに進められるでしょう。
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